近年、企業の「社外取締役」に就く芸能人が相次いでいる。異業種での経験や知見を活かしたアドバイザーとして、あるいは“広告塔”的な役割を担うケースもあるが、この人の場合はどうか。著名な脚本家を招聘したのは、意外にもゲームやプロレス業界で名を馳せた東証スタンダード市場上場企業だった。

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 女優の酒井美紀にいとうまい子、元NHKキャスターの国谷裕子、生稲晃子参院議員、元卓球五輪代表の福原愛など、女性芸能人の社外取締役就任がブームとなっている。酒井は不二家、国谷は日本郵船など、就任先には有名企業も少なくない。

「不二家は酒井に“主婦の目線”からの助言を、生稲氏に白羽の矢を立てたヘアサロンを全国展開する田谷は“消費者目線”からのアドバイスを期待しての起用だと説明しています。いずれも就任自体がニュースになっているため、企業の知名度アップには就く前から貢献した形です」(全国紙経済部記者)

 ブームの背景には2021年3月から上場企業に対し、社外取締役の選任を義務付けた改正会社法の存在があるという。

「社外取締役の人選には独立・中立性が求められますが、なまじ“経営のプロ”を迎え入れると、会社の方針への口出しや介入が増すことを懸念する経営者は多い。まったく畑違いの芸能人であれば、経営への具体的なアドバイスは望めない一方で、“広告塔”的な役割は果たしてくれる。勢い、社外取締役候補に芸能人やタレントを検討する企業は増えています」(同)

「新日本プロレス」を子会社の過去

 3月10日、ゲームやソフトウェア開発を行う株式会社ユークス(大阪府堺市)が、脚本家でシナリオライターの野島伸司氏(60)を社外取締役候補に選任したことを発表。4月の株主総会を経て正式に就任予定とされる。

 野島氏といえば、脚本を務めた93年放送のドラマ「高校教師」(TBS系)で教師と生徒の過激な“性愛”を描き、最高視聴率33%を記録。社会現象を巻き起こし、一躍“時の人”となった過去を持つ。

「その後も『未成年』や『高嶺の花』、『エロい彼氏が私を魅わす』など話題のドラマの脚本を手掛け、最近ではアニメ『ワンダーエッグ・プライオリティ』の原案と脚本を務めるなど、活躍の場を広げています」(民放キー局関係者)

 一方のユークスは93年、コンピューターソフトウェアの開発などを行う会社として設立後、ある“事件”をキッカケにその名が他業界でも知られるようになったという。

「05年、ユークスは創業者のアントニオ猪木氏が所有していた新日本プロレスリング株式会社の株51.5%を取得して子会社化したことで話題になりました。しかし経営不振にあえいでいた新日本プロレスの再建はままならず、12年にすべての株をカードゲーム会社のブシロードに売却。その後、本業回帰を進め、現在は売上高約43億円(23年1月期)の6割近くをゲーム事業が占めています」(関西在住の経済ジャーナリスト)

懸念される社外取締役の形骸化

 ユークスに社外取締役候補として野島伸司氏を選任した理由を訊ねると、

「(野島氏は)脚本家、シナリオライターとして活躍され、当社に関連するエンターテイメント業界に深く関わってきました。そうした経験をもとに中立的な立場から、取締役の業務執行の監督、経営方針や経営計画等に対する意見具申、および取締役や主要株主等との利益相反取引の監督などの役割・責務を果たしていただくことを期待し、社外取締役候補者といたしました」

 と回答した。

 かなりの“重責”とも映るが、経済アナリストの森永卓郎氏はこう話す。

「社外取締役については、すでにブームが行き過ぎて“有名人なら誰でも”といった傾向が見え始めています。しかし専門知識を持った弁護士や公認会計士ならいざ知らず、事業とは直接関係ない芸能人を据えて、本当に実効性ある助言を得られるケースは多くないと聞きます。現在のブームは社外取締役の形骸化にも繋がりかねず、企業側は自分で自分の首を絞める結果となりかねないことを自覚すべき時期に来ているのではないか。また迎えられる側の著名人も、仮に就任先の企業が経営不振に陥るなどした際には“責任の一端”を問われるリスクがあることを承知すべきです」

 野島氏の新たな「挑戦」に注目が集まる。

デイリー新潮編集部