ラグビーW杯で日本代表が初勝利した一方、聖地・秩父宮ラグビー場の建て替えを含む明治神宮外苑の再開発計画に黄色信号がともっている。気になるのは再開発に乗じて進められた“ドン”の胸像建立の行方。発起人たちに問うと、まさかの答えが返ってきた。
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数々のスポーツ施設が立つ神宮外苑。その再開発事業を巡り、今月7日に国連ユネスコの諮問機関イコモスは、事業者である三井不動産や明治神宮、認可した東京都に対して「計画撤回」などを求める緊急要請を出した。
社会部デスクが言う。
「再開発については、故・坂本龍一さんも反対の声を上げ、地元住民が差し止め訴訟を起こしていました。反対派の主張と同様、イコモスは3千本以上の樹木が伐採されることを問題視し、“世界の公園史でも類例のない文化的遺産の危機”だとしています」
胸像計画の行方は
今回の要請から1年前の昨年8月に、本誌(「週刊新潮」)は再開発の一環で建設される「新秩父宮ラグビー場」のミュージアム内で森喜朗元総理(86)の胸像が建立される計画を報じた。背景には「森ファミリー」の巨大利権が見え隠れしていると指摘したが、国連機関から再開発に異議を出されて胸像も白紙となるのか。その行方を探る前に、ことの経緯を簡単に振り返っておこう。
当時、本誌は、
〈森喜朗先生 顕彰胸像建立事業について〉
と題された文書を入手。それは総理や文部大臣(現・文科相)を歴任し、財団法人日本体育協会(現・公益財団法人日本スポーツ協会)会長として、
〈わが国のスポーツ界を牽引されてこられました〉
とほめちぎり、2022年5月から9月末日までの期間に〈1口5千円〉の募金を受け付けるとしていた。
「胸像は出来上がった」
しかも同文書で〈発起人〉として名を連ねるのは、19年のラグビーW杯組織委員会で会長を務めたキヤノンの御手洗冨士夫会長やJリーグ初代チェアマンの川淵三郎氏をはじめ、遠藤利明元五輪担当相、東京五輪・パラリンピック組織委員会元会長の橋本聖子参院議員、森氏の地元・石川県の馳浩知事といった顔ぶれだ。
当時の事務担当者は“胸像は業者に発注済”と認め、企業団体やスポーツ関係者などから数百万円が集まったという話もある。
改めて橋本氏に聞くと、
「ああ、それは分からないんですよ……。どこに置くのか全然分からない。設置場所も決まってないんじゃないですか。知っている人はいないんじゃないですかねぇ……」
などと他人事な答えに終始した上で、こうも仰る。
「去年あたりに胸像は出来上がったと聞いていたんですが、どなたが保管しているか分からない。もう1年以上、その話題に触れたことはなかったので……」
そこで森氏と同じく文教族の遠藤氏を直撃すると、
「胸像の台座とか、どこまで完成したか承知していません。しばらく話題になったこともなかったです」
川淵氏に至っては、
「オレに聞かれても知らない。いずれラグビー場を建て替えるんだから、その時に入るんじゃない。オレは中心人物じゃないから」
「私が一番分かってないといけないのかもしれませんが…」
ならばと発起人の代表格で、ラグビーW杯2019組織委員会事務総長を務めた元総務省事務次官の嶋津昭氏に尋ねてみると、
「私が一番分かってないといけないのかもしれませんが、制作中としか聞いておらず、担当者とも話をしていません。ミュージアムに設置するなんて話は最初から出ておりません。完成してから皆で相談します」
“偉大なる政治家”を顕彰するため立ち上がった発起人らが、一様に頬被りを決め込む始末なのだった。
さるラグビー協会幹部が明かすには、
「当初は理事会でも胸像を新ラグビー場に設置すると聞いていましたが、新潮の報道以降、全国紙なども取り上げ、また五輪大会組織委理事だった高橋治之被告が受託収賄罪で起訴された影響か、不気味なほど話題にならなくなっています」
ほとぼりが冷めるのを待っているのか、それとも……。お蔵入りで結構だが。
「週刊新潮」2023年9月21日号 掲載