離党届が受理されなかったらしく、前原誠司氏(61)は依然として国民民主党の議員という。そんな彼が11月30日、新党結成を表明。ネット上には呆れ果てたという声が多数を占めた。YAHOO!ニュースのトピックスには、この件に関する2本の記事が転載された。振り返ってみよう。

 ***

 1本目は、TBS NEWS DIGが同日に配信した「前原氏ら国民に離党届提出 新党結成を表明『国民民主は岸田政権と協力模索』と批判」という記事だ。

 こちらは、前原氏が自身を含む5人の国会議員で新党「教育無償化を実現する会」を結成すると表明したことを伝える、いわゆるストレートニュースだ。

 2本目は、選挙コンサルタント・政治アナリストの大濱崎卓真氏が同じく30日に配信した「前原新党はなぜこのタイミングで結成したのか、公選法の移籍禁止規定と財政問題に注目」という記事だ。

 この記事で、まず俎上に上がったのは党名だ。既存政党から離党して新党を立ち上げる際に、ワンイシュー(単一論点政治)のみを掲げるのは異例だという。

 そして大濱崎氏は、「教育無償化」というワンイシューを党名に選んだ背景として《日本維新の会が掲げている政策と極めて近似している》と指摘した上で、維新との合流の可能性を示唆した。

 だが、ここで疑問が生じる。合流するのなら新党結成の必要はない。前原氏たちは直接、維新に合流すればいい。それができない理由として、大濱崎氏は公職選挙法の規定を紹介した。衆議院議員選挙で比例復活した議員は、復活時の政党から別の政党に移ることは禁止されているのだ。

巨額の政党交付金

 新党結成を表明した5人の国会議員の中に、国民民主党に所属する比例復活組の衆議院議員がいる。衆議院議員としては維新に移れないため、新党を結成するという“ワンクッション”を選んだことになる。ちなみに、衆議院議員は解散すれば失職するため、その時に彼らは維新に入るのだろう。

 そして新党の国会議員が5人という事実からは、政党交付金の問題を浮かび上がらせる。大濱崎氏は、以下の要件を満たせば前原新党は交付金を受給できると指摘した。

【1】国民民主党を離党した4人の離党手続きが完了する
【2】来年1月1日現在でも、前原新党「教育無償化を実現する会」に5人以上の国会議員が所属している

 ちなみに、2022年の参院選で、ぎりぎりで政党要件を満たして話題になった社民党でさえ、約2億7000万円の政党交付金を受給している。前原新党が億単位の政党交付金資金を手にいれるのは間違いないのだろう。

 前原氏の行動にベテランの政治記者は「呆れて物が言えません。ネットに投稿された怒りの声は当然です」と言う。

「前原さんが憲法や安全保障の政策で論客だったのは認めます。しかし、教育や少子化といった問題では、それほどの見識はないはずです。国民民主と袂を分かち維新に入るのは彼の勝手。ただし、それなら彼1人が無所属議員として移るべきだと思います。一緒に国民民主党を辞めようとしている比例復活組も同じです。解散して失職してから維新に入るのが筋ではないでしょうか」

「いつから維新になったんや」

 だが、実際は新党結成となった。こうなると、維新に移ることだけが目的ではないと考えざるを得ない。

「5人のうち1人は元立民の無所属議員です。やはり、最初から5人という人数ありきで計画された新党と言わざるを得ず、『政党交付金というカネ目当て』だと批判されるのは当然でしょう。比例復活組の場合は、衆議院議員という職にしがみつき、歳費や期末手当、調査研究広報滞在費、立法事務費を受け取ろうとする魂胆も透けて見えます。何の理念も感じさせない前原さんたちの行動は、国民の政治不信をさらに加速させるだけです」(同・記者)

 前原氏は以前から維新との連携を模索していた。2020年6月には「地方主権」をテーマにした超党派の国会議員による勉強会を、当時は維新の幹事長だった馬場伸幸代表(58)と立ち上げた。

 昨年7月の参議院選挙では、自身の地元である京都選挙区から出馬した維新候補を国民民主が推薦。前原氏が積極的に応援する姿を、朝日新聞が皮肉交じりに伝えている(註)。

 以下に紹介する文章に《吉村氏》とあるが、これは大阪維新の会代表で、府知事の吉村洋文氏を指している。

《前原氏は吉村氏と同じ維新の選挙カーで演説中、「我々日本維新の会」と言い間違えることも。維新幹部の中では前原氏に「うちに引き入れたい」と秋波を送る声もあった》

《国民の支持者からは前原氏の演説中に「いつから維新になったんや」「がっかりした」とヤジが上がることもあった》

前原氏の“十字架”

 政治アナリストの伊藤惇夫氏は「予想されていた動きと言えるでしょう」と指摘する。

「前原さんは以前から維新に秋波を送っていました。そして、今年9月に行われた国民民主党の代表選に立候補したのは、現在の立ち位置に強い不満を持ち、『このまま国民民主党にいたら自分は埋没してしまう』という危機感があったからかもしれません。とはいえ、有権者にとって彼の行動は“見え見え”であり、見透かされた状態だと言えます。年末に政党交付金を巡って新党が乱立するのは風物詩のようなものですが、それに前原さんも参加してしまったというわけです」

 前原誠司という政治家は、本来なら重い“十字架”を背負っているはずだ。2017年7月、前原氏は民進党の第3代の代表に就任した。

 同年9月、NHKが衆院解散の見通しを報じると、小池百合子・東京都知事(71)は新党「希望の党」を設立。これに前原氏は動く。

 小池氏も参加した極秘会談で民進党と希望の党の合流が協議され、合意に達した。ところが、小池氏は記者団の前で、民進党の国会議員を自動的に受け入れることを拒否。テレビカメラの前で「全員を受け入れるということはさらさらありません」「排除されない、ということはございませんで、排除いたします」と明言した。

前原氏と枝野氏の共通点

 これが「排除の論理」として流行語になったが、小池氏に対する反発の声は多かった。結局、合流は空中分解してしまう。枝野幸男氏(59)が立憲民主党を結党し、この時だけは世論も無条件で応援した。前原氏は衆院選を無所属で立候補し、当選は果たした。

「前原さんの判断ミスは、政局の一場面における失敗というレベルではありません。日本政治史という観点が必要なほどの悪影響を及ぼしました。何しろ前原さんのせいで野党は有権者の信頼を失い、今に至るまで低迷しているのです。にもかかわらず、今回も前原さんは国民民主党とケンカ別れをしました。最も喜んでいるのは自民党でしょう。彼は何度も与党を利する行動を繰り返しており、自民党にとっては本当に大切な政治家の一人だと思います」(同・伊藤氏)

 前原氏と枝野氏は政治的には対立関係にあると言えるだろう。だが、2人には共通点が少なくない。例えば、前原氏は京都大学法学部を、枝野氏は東北大学法学部を卒業している。共に“学歴エリート”と言えるだろう。さらに、国会議員のキャリアも共に日本新党からスタートしている。

小池獲得競争

「私は民主党時代に二人を間近で見ましたが、どちらも理屈を喋らせたら一流です。共に偏差値の高さは明白ですが、理念で有権者の心を打つことは苦手です。要するに政治家としての発信力が低いわけです。とはいえ、そんな前原さんでも維新に移ったら、要職が用意されるなど手厚いもてなしを受けるのでしょう。ただし、その後はどうなるか分かりません。注目点の一つとして、前原さんが大阪に拠点を置く維新のコアなメンバーと意気投合できるかどうかが挙げられます。大阪と京都の物理的な距離が、そのまま政治的な距離に変わったとしても不思議はないのです」(同・伊藤氏)

 前原氏の引き込みに成功した維新は、次のターゲットも決めているという。それは小池都知事であり、こちらには自民党も勧誘に熱心だという。

「有権者は与党にも野党にも絶望していますから、総選挙が行われても投票先がありません。次の衆院選で有権者は、いわゆる“寝る”状態になる可能性があります。低投票率になり、与党も野党も勝ちもしないし負けもしないという結果になるかもしれないわけです。となると、総選挙で勝つためには“起爆剤”が必要ということになります。それが小池さんというわけです」(同・伊藤氏)

日本政治の劣化

 先に見たように、希望の党ブームはあっという間に終わったが、政界関係者にとっては忘れられない光景らしい。

「あの爆発的なブームをもう一度起こすことができれば、という狙いから、維新も自民も小池さんの発信力に期待して綱引きを行っているわけです。ただし、こういう見取り図を示すと、少なからぬ有権者が辟易するのではないでしょうか。政治の劣化は明らかですし、それを具体的な実例として示したのが前原さんの新党結成ということになるのかもしれません」(同・伊藤氏)

註:維新、近くて遠かった京都 「都市以外で浸透、難しかった」 参院選(2022年7月12日・大阪版朝刊)

デイリー新潮編集部