自民党派閥の裏金事件で2月1日、解散する安倍派は「これで最後」だとする総会を開催した。終了後、丸川珠代・元五輪相は報道陣の取材に応じ、派閥の幹部が責任を取らないことに「総会でも大きな議論になった。私たち自身も納得していない」と批判した。だが、彼女にそんなことを言う資格があるのだろうか──?

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 丸川氏は安倍派からの“還流分”の処理を巡り、国会で違法性が指摘されたほか、東京地検に刑事告発が行われている。担当記者が言う。

「丸川さんは5年間で合計822万円の不記載が判明し、自民党の党紀委員会は4月4日に戒告の処分を下しました。総会の話に戻ると、丸川さんは安倍派の幹部を批判しただけでなく、不記載額について『派閥からノルマ超過分は持ってこなくていいと言われていたので(自分の)口座で資金管理していた』と説明しました。ところが、この説明が大きな波紋を引きおこしています。と言うのも、派閥からの“還流分”を政治資金団体ではなく自分の口座に入れると課税対象になります。つまり丸川さんの説明だと、脱税の疑いが発生してしまうのです」

 2月5日の衆議院予算委員会で、立憲民主党の井坂信彦氏は脱税の可能性を指摘。「議員の税務調査をして課税すべきだ、という国民の声にどう応えるのか」と質問した。だが岸田文雄首相は「国税庁が判断すべきこと」としか答えなかった。

 3月29日には弁護士の郷原信郎氏と神戸学院大学教授の上脇博之氏が、丸川氏に対する政治資金規正法違反容疑の告発状を東京地検に送付したと発表した。丸川氏は「自分の口座で管理していた」と説明したが、政治資金規正法は政治家個人への寄付を禁じており、これに抵触する恐れがあるという。

反自民の風

 裏金事件が発覚するまで、丸川氏に逆風が吹いたことはなかった。例えば朝日新聞は昨年8月、「議員のくら替え 参院の意義損ねぬよう」との社説を掲載した。ベテランの政治記者が言う。

「朝日は参院議員である丸川さんが、次の衆院選で東京7区から鞍替え出馬することに触れ、《安易な鞍替えが横行すれば、参院不要論に力を与えかねない》と警鐘を鳴らしました。しかし、この社説は丸川さんが東京7区で当選することが前提になっています。事実、裏金事件が発覚するまでは、丸川さんは圧勝すると予測する関係者は多かったのです。ところが今や丸川さんには強烈な逆風が吹いており、落選の可能性さえ取り沙汰されています」

 単に不記載が明らかになっただけでもイメージダウンは著しいが、丸川氏の場合は脱税が取り沙汰されている。より悪質性が高いと判断する有権者は少なくないだろう。さらに東京7区は港区と渋谷区という都市部の選挙区ということも大きな影響を与えるという。

「都市部の選挙区は無党派層が多く、“政治とカネ”を巡るスキャンダルを毛嫌いする傾向があります。衆院補選で自民党は全敗しました。強固な基盤を持ち、唯一公認の候補者を擁立した島根1区ですら破れてしまったのです。今、東京7区に吹いている“反自民”の風力は、島根1区より強いと考えられます」(同・記者)

鶴保氏は鞍替えを断念

 先に紹介した朝日新聞の社説では、《安易な鞍替え》の例として参院・和歌山選挙区の鶴保庸介氏が和歌山1区から出馬することも挙げていた。ところが鶴保氏は4月28日、鞍替え出馬を断念すると発表した。

「衆院小選挙区で1区の大半は県庁所在地など都道府県の中心地が多く、地方でも都市型の有権者が多いことで知られています。島根1区の補選で自民党の候補者が敗退した理由の1つでしょう。同じように和歌山1区からの出馬を検討していた鶴保氏は、自民党候補者の吹く逆風の強さを考えて鞍替え出馬を諦めたと考えられます。会見では裏金事件の影響を問われ、『全くないと言うとうそになる』と答えました」

 丸川氏は安倍派の解散について記者団に、こう語ったという。

「国家観をともにして政策を作る活動をしてきたグループだったが、いつの間にかそうではない集団になった。人事であったり、政治資金であったり、あるいは選挙であったりというものに、より重きを置かれる集団になってしまった。極めて残念だ」(註)

 822万円の不記載があった国会議員の発言だ。説得力など全くないと言わざるを得ない。

註:安倍派ラスト総会 「幹部は議員辞職しろ」 5人衆らに厳しい声(朝日新聞DIGITAL:2月1日)

デイリー新潮編集部