いまだ周囲に4月の訪米の成果を誇示する岸田文雄総理。そのノー天気ぶりが、外交・安全保障当局者の間に不協和音を招いている。

 政治部デスクが解説する。

「日本の総理の国賓待遇は9年ぶり。日本ではあまり報じられていませんが、4月11日の米上下両院合同会議における演説も高く評価されました。総理周辺は“岸田総理が米政府に評価されている”と両手を上げて喜んでいました」

 岸田総理はその演説で、米国のウクライナ支援のありようを褒めたたえた。

「実際、この演説は米国で総理の“株価”を押し上げた。その後、米議会ではウクライナ支援に関する600億ドル(約9兆3000億円)規模の緊急予算に関する討論が行われた際、共和党上院の重鎮議員が岸田総理の言葉を引用し、“日本の総理は感動的な語り口で、自由を擁護し安定と繁栄を育む米国の指導的役割を謳い上げた”と持ち上げたほど」

 訪米中、岸田総理が時折口にするジョークがウケたが、バイデン大統領が「フミオは英語がうまい」と相好を崩す場面もあったという。

「外務省幹部も“今回の訪米はおおむね成功。日米関係は確実に深化した”と胸を張っていますよ」

積年の悲願だった戦闘機の国産化

 依然浮かれる官邸や外務省とは対照的に、防衛省と自衛隊は冷ややかだ。

「ホワイトハウスにおける日米首脳会談では、航空自衛隊の次期ジェット練習機を、日米が共同で開発・生産する方向で一致しました。ところがこれは、かねてより反対していた防衛省の意向を尻目に、官邸サイドが強引に押し切ったのです」

 防衛当局者にとって、戦闘機の国産化は積年の悲願。とはいえ、現状ではエンジンの開発はもとより、数百万点に達する部品を一つの機体にまとめる「インテグレーション」を、日本が単独で行うのは不可能だ。

 防衛省幹部が肩をすくめる。

「国産の戦闘機は艦船や潜水艦、戦車などと並んで国防に関する強い意志や、それを支える高度な能力を保有していることを内外に訴える“金看板”です。ようやく武器輸出に関する三原則が緩和され、わが国は英国とイタリアと共同で次期戦闘機の開発にこぎ着けたばかり。ここでノウハウを蓄積し、さらにジェット練習機で独自技術を磨く。そうやって、純国産戦闘機の開発につなげる道筋だったのですが」

共同開発なら「主導権を握られ下請け的存在に」

 言うまでもなく、米国は世界最大の軍需品輸出国。戦闘機に限っても、米国製の機体は日本をはじめ欧州各国、中東でも活躍中だ。

「米国との共同開発になれば、日本は主導権を握られて下請け的存在になってしまう。政府内から“国産なら哨戒機や輸送機があるじゃないか”との声も伝わりますが、近い将来、その調達は頭打ちに。純国産がゼロになれば、国産戦闘機の夢がさらに遠のくのは間違いありません」

 岸田総理はなぜ、米国との共同開発を了承したのか。

 先の政治部デスクが言う。

「次期ジェット練習機には、200機近い需要が見込まれます。支持率低迷にあえぐ岸田総理は米国に国賓待遇で招聘(しょうへい)され、議会で演説する機会も与えられた。一方バイデン政権は11月の大統領選を控えて軍需産業にアピールする材料が欲しかった。日本はしっかり、見返りを求められたというワケ」

 国益すら差し出す鈍感力。

「週刊新潮」2024年5月23日号 掲載