リコール運動の署名の大多数は、動員したアルバイトが偽造していた――。世間を騒がす前代未聞の事件には“黒幕”と目される人物がいるという。

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 愛知県の大村秀章知事リコールの住民投票に必要な署名は、県内の有権者数から計算して約86万6千筆。今回集まったのは約43万5千筆で、うち約36万超が無効とされた。複数の同一人物によって書かれたもの、選挙人名簿に登録されていない人や亡くなった人の名前もあった。

 そもそもすべての発端は、2019年に愛知県内で開かれた国際芸術祭「あいちトリエンナーレ」だった。社会部デスクが語る。

「昭和天皇の写真をバーナーで焼き、その灰を足で踏みつけるような映像作品が公開されて大問題に。実行委員会トップだった大村知事のリコールを求め、『愛知100万人リコールの会』が立ち上がったのです」

 美容外科「高須クリニック」の高須克弥院長が会の代表となり、名古屋市の河村たかし市長も応援団長として運動を支えた。だが無効署名36万超のうち90%がバイトによる偽造と判明した。

「愛知県の選挙管理委員会と名古屋市が地方自治法違反の疑いで刑事告発。目下、県警が調べています」(同)

「筆跡鑑定でも」

 捜査に関しては、

「広告関連会社が全国に求人をかけ、約100人に署名を書き写させたことが分かっている。なので誰が“名簿代筆の要員を集めてほしい”と依頼したのかが焦点です」(同)

 愛知から遠く離れた佐賀県でも書き写しが行われたが、県警担当記者によると、

「“黒幕”として、会の事務局長の田中孝博という元愛知県議の名前が挙がっています。彼は20年ほど前の県議時代、産廃事業で不渡りを出し、議員報酬も差し押さえられた曰く付き。県議を2期務めたあと、なぜか役者になったり、また県議選に出ては落選したり。いつのまにか、来たる衆院選の日本維新の会の公認候補になっていた」

 当の田中氏に聞けば、

「私は求人募集の発注書に署名もしていないし印鑑を捺してもいない。メディアは私を疑うけれど、証拠は出してこない。私の名前が書かれた発注書があるなら、筆跡鑑定でもなんでもやってもらいたいですね」

 と、強気で関与を否定。会の“上司”である高須院長は、困惑気味にこう語る。

「事務局長は、署名偽造を知りうる立場にあるとは思いますが……。電話で事務局長に質したら“とんでもない”と明確に否定していたので信用します。最後は僕が全責任を取ります」

 先の広告関連会社の関係者に、バイト求人の発注書に事務局長の名が記載されていたかを問うと、

「そうですね」

 と、言葉少なながら首肯する。大量の署名偽造は、民主主義を根底から覆し、それこそ焼いて踏みつける行為に等しい。“黒幕”が炙り出されるのはそう遠い日のことではあるまい。

「週刊新潮」2021年3月4日号 掲載