「一国の宰相の体温を知る女」

 NHKの岩田明子氏と言えば、安倍晋三前首相(67)に最も食い込んだ記者として知られてきた。安倍政権時代には、ここぞという時にはニュースに出演して解説をしていたので、全国的な知名度を誇る腕利きの記者である。しかし、菅内閣樹立後は際立った活躍ができず、20年以上所属した政治部を離れる辞令を受け取ることにもつながったが、菅退陣を受けた総裁選では目立った動きを見せているという。その狙いとは?

 東大法学部を卒業後、1996年に入局した岩田氏は岡山放送局を経て2000年から政治部に異動し、それから一度も東京を離れることなく権力者の一挙手一投足をすぐそばで取材してきた。

 とりわけ官房副長官時代から番記者として安倍前首相からは自宅に上がることも許され、安倍氏の母でゴッドマザーこと安倍洋子氏からも全幅の信頼を得てきたという。

「岩田さんと言えばスクープで、挙げればキリがないほどです。去年の『2度目の安倍辞任』の際にもいち早く報じ、『一国の宰相の体温を知る女』とまで言われましたね。彼女は安倍さんとはもちろんのこと、秘書官や補佐官として政権を支えてきた今井さん(尚哉・内閣官房参与)とも昵懇で、当時は割って入るスキはありませんでしたね(笑)」

 と、NHKではない社の政治部デスク。

 しかし、その後、菅義偉首相が誕生してから歯車が狂い始めたのだった。

現在はネットワーク報道部に

 デスクが続ける。

「岩田さんの場合は、安倍さんや今井さんに話を聞くことができるならそれが一番でしょ、私はそれができるのだから、女房役の官房長官に聞いたって意味ないでしょ、というようなスタンスだったようです。ま、その通りなんですが(笑)」

 そういった態度が顔に書いてあったかは別にして、安倍前首相との間で結んできたような関係を菅首相とは構築できなかったのは事実で、岩田氏のスクープはなくなってしまった。

 そして今年6月の人事で、政治部の副部長という立場を離れ、ネットワーク報道部の記者主幹というポストに異動となった。新聞で言うと地方部のような位置づけだ。

「NHKには主要な部署として、政治、経済、社会、国際の各部があるが、ネットワーク報道部はそこには入りません。解説委員室の解説主幹を兼務することになってはいるものの、菅シフトを引きたい局内では干される対象となってしまった感は否めないですね」

 と、NHKのある局員。

 そんな管理職の立場でもなくなったという岩田氏にチャンスがやってきた。菅首相の退陣だ。

「岩田さんが再び政治の舞台で輝くためには、安倍さんが3度目の登板をするか、その傀儡(かいらい)政権が生まれることです。安倍さんの息のかかった候補に総裁選を勝ち抜いてほしいと願うのは、番記者としては当たり前のことかもしれません」(先のデスク)

「岸田選対の一員ではないか」

 安倍氏は今回の総裁選では表向き、高市早苗元総務相への支持を公言しているものの、一方で自身の政策を受け継いでくれる人として、岸田氏にももちろん一定の期待をかけている。

「岸田さんは安倍さんや安倍さんが事実上のオーナーである細田派、そして麻生さん(太郎・財務相)の支持を得るために、政策や政治スタンスの修正を余儀なくされました。ただ、国家観については、ハト派の宏池会会長としての立場が危うくなってしまいかねないので微調整に留めていますがね」(先のデスク)

 そんな岸田陣営でしばしば目撃されているのが、他ならぬ岩田氏なのだという。

「岩田さんは総裁選に出馬している4人の中だと、岸田陣営でよく顔を見かける、あるいは岸田陣営でしか顔を見かけないからもはや岸田選対の一員ではないか、などと言われていますね。実際、今井さんも岸田選対に関わっているようですから、さもありなんというところでしょう」(同)

「今井さん」とは、前述の通り、7年8カ月にわたった安倍政権を支えた懐刀だ。

河野さんだと復活の目はないから

 デスクが続ける。

「岸田さんは総裁選に入ると“消費税は10年あげない”とも言い始めましたが、ここにも今井さんのアドバイスが見え隠れします。安倍政権下では消費増税を2度行っていますが、1度目の増税後の消費の落ち込みは相当なもので、2度目の増税に関しては財務省側の『懇願』を振り切って、2回延期しています。岸田さんの妹の夫は現職の国税庁長官でして、本来、岸田さんは財務省寄りだと見られていました。その点、今回の岸田発言には少し驚きました」

 別のデスクは岸田氏と「ブレーン」たちについてこんな感想を口にする。

「岸田さんが政策について語るとき、下を向いてメモを読むようなことがままあります。岸田さんは良くも悪くもウソがつけず、アドリブもあまりきかないタイプ。今井さんたちが練り上げた政策が身体になじんでおらず、そのあたりを勘ぐられないように慎重になってメモを見ているのかなという感じさえしますね。岩田さんもその点をアドバイスしてあげた方がよい気もしますが……」

 先の局員に総括してもらった。

「岩田さんとしては、菅政権以降の干され方は屈辱的だったはずです。今回、河野さん(太郎・行政改革担当相)が総裁・首相になったら、その政権が続くうちは復活の目はないわけで、そうではないシナリオに賭けているということなのだと思います」

 闘っているのは総裁候補だけではないということなのだろう。

デイリー新潮取材班

2021年9月21日 掲載