安倍首相秘書官の重用

 防衛省の事務次官人事をめぐって、安倍晋三元首相が岸田文雄首相に“物言い”をつけたことが報じられている。防衛省は安倍氏の実弟・岸信夫氏が大臣を務めており、岸田氏は兄弟からの抵抗を受けていた格好だった。結果として安倍・岸両氏の思いは退けられたのだが、水面下で何があったのか?

 6月17日の閣議で、防衛省の島田和久事務次官(60)が退任し、後任に同期の鈴木敦夫防衛装備庁長官(60)をあてる人事が決まった。

「島田氏は安倍さんの首相時代、秘書官を6年以上にわたって務めた“安倍印”の官僚。安倍さんは秘書官だったキャリアを他よりも処遇したり、そのように希望したりすることでよく知られています。島田氏も処遇された1人でした。その意に応えるように島田氏は安倍さんがこだわる『防衛費のGDP比2%』の実現のため、汗をかいてきました」

 と、政治部デスク。

「政府は安全保障環境の激変に対応するため、国家安全保障戦略と防衛計画の大綱、そして中期防衛力整備計画を年末までに改定する方針で、それを島田氏が見届けるのは既定路線とされていただけに、波紋を呼びましたね」(同)

官房副長官の“調整”

「岸田官邸側は、今回の交代はあくまでも任期2年の慣例を踏襲するものだと主張し続けました。それに納得できない安倍さんは岸田さんへの直談判に及びましたが、判断は覆りませんでした」(同)

 この舞台裏について、永田町関係者はこう明かす。

「安倍さんは岸田さんに対して防衛費の増額をかなり強めに要求していました。やり過ぎじゃないかと思うくらい露骨な形で。岸田さんも防衛費の増額については積極的に進めていく意向で、秋以降の国会でそれがメインテーマになる可能性がある。そのために、安倍さんの色をできるだけ薄め、自身が推進しているように見せたいし、安倍さんの影響力を削いだ方が野党との折衝もスムーズだと考えたのでしょう」

 岸田氏は安倍氏の抵抗を見据え、栗生俊一官房副長官にさまざまな調整を指示したという。

「栗生氏は島田氏に対し、“総理には何度もしつこいくらい翻意を促したが頑として受けつけなかった。力及ばずですまない”と伝えつつ、その一方で現在、防衛次官経験者が就いている官房副長官補の後任に推薦することもなかったようで、結果的に島田氏の首に鈴をつける役割を果たしたというふうに理解されています」(先のデスク)

安倍氏の敗北

 ところで、新しい次官となる鈴木氏が就いていた防衛装備庁長官はいわゆる上がりポストだ。そこからの昇格は初めてのことだし、両者は同期で、2代続けて同期が次官となるのも初めて。ないない尽くしの人事はどこか無理筋な印象も否めない。

「これまで主要な人事について岸田さんは安倍さんに前もって根回ししたり直に相談したりして、かなり配慮してきました。今回もそれなりに気を配っている印象はありますが、徐々に安倍離れというか、“安倍さんにはもう少し静かにしていてほしい”という思いが募っていたと思われます」(先の関係者)

 さらに安倍氏側に不利に働いたのが、「桜を見る会」をめぐって流れた情報だ。

「先日、サントリーホールディングスが3年にわたって酒類をタダで提供していたことが報じられました。この件で安倍氏やサントリー側は政治資金規正法違反容疑で東京地検に刑事告訴された。その告発状を受理するように栗生氏が積極的に動いているのではないかとの情報が流れました。真偽のほどは定かではありませんが、結果として栗生氏、そして岸田官邸の意向通りに進んだのは間違いありません」(同)

 栗生氏は前警察庁長官で、安倍氏が寵愛した同じ警察官僚の北村滋前国家安全局長とは犬猿の仲。「アンチ安倍」的な動きをすることは織り込み済みだったとはいえ、安倍氏の思い通りにいかなかったことは事実だろう。

デイリー新潮編集部