いよいよ通常国会が開幕し、岸田文雄総理(65)の力を込めた施政方針演説が披露された。が、言及された「新しい資本主義」は中身が乏しく、空疎な言葉が議場に響くのみ。しかも、政策を統括する「菊池桃子の夫」のパワハラと朝令暮改で霞が関は大混乱に陥って……。
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「何考えているんだ!」
「全然ダメだ!」
「俺はこういうふうにしろと言っただろ!」
総理官邸のほど近く、内閣府本府庁舎の2階にある「新しい資本主義実現本部事務局」。そのフロアの一番奥まった場所に50名ほどの職員を統べる「主」の個室が設(しつら)えてある。10畳は超えるだろうその部屋には、当人の机とかたわらにソファーセットがあり、さらに10人ほどが座れる打ち合わせテーブルと椅子が備えられている。そのテーブルの上に置かれているアクリル板越しに「主」は資料を見ながら、連日のように部下に怒号を飛ばしているという。
主の名は新原浩朗(にいはらひろあき)内閣審議官(63)。2019年に女優の菊池桃子(54)と結婚し、一躍名前が全国に知られた官僚である。
新原氏は東京大学経済学部を卒業した後、当時の通産省に入省した。近年では、第2次安倍晋三政権下で政策マンとして重用され、特に安倍元総理の側近で同じく経産省出身の今井尚哉秘書官(当時)に可愛がられた。手がけた政策は「1億総活躍」「働き方改革」「人生100年時代構想」など多岐にわたり、15年ごろ、政府の会議で新原氏と菊池は出会うことになる。
一時は経産省のトップである事務次官候補に取り沙汰されるも、結局、その座を射止めることができず、今井氏が官邸の要職から外れた菅義偉政権下では冷や飯を食わされることになった。
華麗なる復活
だが、新原氏は岸田文雄政権で華麗なる復活を遂げた。そのことを指し示すのが手元にある極秘資料だ。
〈秘 木原先生 岸田新政権の樹立に向けた留意事項〉
木原先生とは現在、官房副長官を務める岸田総理の最側近・木原誠二氏(52)のことで、この資料が作成されたのは21年10月の岸田政権発足前夜だった。作成者は新原氏とされる。資料では、菅義偉政権下の成長戦略会議を廃止し、「新しい資本主義実現会議」か「成長と分配推進会議」という名称の会議を新設すべきだ、とした。さらにその会議の役割や有識者として誰を入れるべきか、具体名まで記されている。
「実はその年の総裁選の時から新原さんは岸田陣営に出入りし、政策提案もしていた」(自民党関係者)
現場には諦めにも似た空気が
そのかいあって、政権発足後、新原氏は内閣官房の「新しい資本主義実現本部事務局長代理」というポストを得る。岸田政権の看板政策を差配する事実上のトップだ。付け加えると、官邸に作られた「新しい資本主義実現会議」の構成員などは先の資料を反映させた形となっている。
しかし、冒頭で触れたように、実現本部では怒号が飛び交い、現場には諦めにも似たよどんだ空気が流れている。岸田政権どころか日本の行く末を左右する舵取りを行うはずの政権の中枢。そこで一体何が起きているのか――。
パワハラと朝令暮改
「新原さんのパワハラと朝令暮改で実現本部の現場が大混乱になっているのです」
とささやくのは、新原氏の古巣である経産省の関係者。
「新原さんは“パワハラ、ニイハラ”と揶揄されるほどのパワハラ気質で知られています。経産省内でも彼と同じ職場は敬遠されていました。一度、政策を実現すると決めたら、猪突猛進、部下を怒鳴りつけてまで疾走するからです」
岸田政権発足直後、その“暴走”ぶりは早速発揮された。看板政策である「新しい資本主義」の理念をデザインする時のことだ。
政府関係者が言う。
「実はその理念を議論するための“ビジョンチーム”が一昨年10月に作られていたんです。仕切ったのは内閣府の田和宏事務次官と財務省出身の藤井健志内閣官房副長官補で、各省から選りすぐりの官僚約20人が集められました。しかし、実は新原さんは田和さんのことを蛇蝎(だかつ)のごとく嫌っていて、同じ東大出身の同年代なのに、隣に座っても口を利かない。自民党の会議で同席しても新原さんから”田和より上座にしろ“と要求するほどなのです」
そこで新原氏はそのビジョンチームを解体させるために横やりを入れた。
「新原さんは“ビジョンなど議論しなくていい”と潰しにかかってきたのです。その年の11〜12月に総理の日程までおさえていたのに、その横やりで、会議で議論するはずのテーマを新原さんが無理やり変え、結局、準備会合だけで終わってしまいました」(同)
議論の場を潰した新原氏
その後、昨年1月「文藝春秋」2月号に、岸田総理による手記「私が目指す『新しい資本主義』のグランドデザイン」が掲載された。この関係者が続ける。
「手記では“資本主義のバージョンアップが必要だ”として、さまざまな政策が掲げられていますが、ゴーストライターとされたのが新原さんと、首相秘書官で同じく経産省出身の嶋田隆さんでした。この記事について、田和さんは何も知らされておらず、青天のへきれきだったそうです。そのため、ビジョンチームは空中分解。集められたメンバー職員は各省に戻ることになるも、異動となるとまた記者発表が必要になるため、籍は内閣府に残したまま各省に戻るという歪(いびつ)な状況がしばらく続きました」
新しい資本主義について、これまでメディアなどで「何をやりたいのかわからない」と度々指摘されてきた。その理念を議論する場を潰したのが、ほかならぬ新原氏だったわけだ。これでは、政権の看板を私物化していると指摘されても仕方あるまい。
風呂に入らない
また、その「人間性」にも疑問の声が上がる。
先の経産省関係者は、
「新原さんはワーカホリックなところがあって、経産省時代は平気で何日も省に泊まり込んでいた。風呂にも入らないので、“臭い”と言われることもしばしば。ある時は正月にアメリカ出張を入れようとしてひんしゅくを買ったこともありました」
現在の内閣官房でもとても組織を統率する立場とは思えない振る舞いだという。
事情を知る自民党のベテラン秘書が、
「新原さんはとにかく部下の名前を覚えないんです」
その横暴ぶりを指摘する。
「現場からアイデアを吸い上げたり、チームで仕事をしようという意識が皆無。例えば、新たに部下が異動してきても、“これからよろしく”とかそういうあいさつもしない。さらにひどいのが朝令暮改ぶりです。前日に部下に指示を出して、資料を作らせても、次の日になって、“なんだこれは!”と烈火のごとく怒り出す。資料は指示通りに作っているのに、その指示を忘れて、書き直させることもあるのです。部下たちも新原さんのことを揶揄して“将軍”“やつ””おっさん”などと陰で呼んでいます」
これぞ世に言うブラック職場ではないか。
アポありの役人を「追い返せ!」
さらに時間の管理もずさんだそうで、経済部デスクによれば、
「役人のアポなどを新原さん本人の了解で入れたとしても、またもや翌日には忘れていて、“なんでこんな予定を入れたんだ!”“キャンセルしろ!”とか言い出す。各省庁の役人が内閣官房に打ち合わせに来ても、会わないこともあります。昨年春には農水次官が実際にアポありで訪問し、待合室で待っていたのに、“俺は忙しい!””追い返せ!”とドタキャンしたんです」
これだけでも社会人としての常識を大きく逸脱しているとはいえ、パワハラ上司として気を付けていれば、対処のしようがあるかもしれない。しかし、新原氏が問題なのは、そうした態度が政策決定の場に悪影響を及ぼしていることだ。
各省庁から猛烈な抗議
その象徴となったのが、昨年11月に政府が取りまとめた「スタートアップ育成5か年計画」だ。岸田総理は「日本をアジア最大のスタートアップハブにする」として、スタートアップ企業の育成を目玉政策に掲げている。しかし、その計画を策定する過程で一悶着があった。
事情を知る先の政府関係者が打ち明ける。
「あの計画の時はまず新原さんが部下に口述して案を作らせました。新原さんは“各省庁には翌日昼までに調整を済ませろ”と言って本人は早々に退庁してしまったのです」
霞が関では、「48時間ルール」というものがあり、法案や計画などを他省庁と協議する時は48時間以上の作業時間を設ける決まりになっているという。しかし、
「この時は、新原さんの指示であまりに急すぎる調整となりました。経産省などには11月16日深夜に連絡し、17日正午の締め切り、他の省庁には17日の深夜に連絡し、18日の正午の締め切りとなった。すると、あまりのショートノーティスに各省庁から猛烈な抗議が……。結局、ろくに議論ができないままに計画は決められてしまったのです」(同)
また、昨年の臨時国会では新原氏肝いりのフリーランス保護法案が提出される予定だったのだが、
「根回し不足により自民党内で反対論が噴出し、提出すらできませんでした。党内の部会では“一人の官僚の自作自演ではないか”と新原批判まで出る始末。この通常国会でも当初は企業再生を進めやすくする私的整理円滑化法案を国会に提出する見込みでしたが、新原さんの言うことがコロコロ変わってまとまらず、頓挫してしまいそうです」(自民党のベテラン議員)
「正気の沙汰ではない」
その新原氏が政策の指針としているのがアメリカだ。
「アメリカの政策を数年遅れで日本に導入しているようなイメージです。本人も年に数回、渡米し、学会に出席するなどして、政策に生かせる“ネタ”を探してくるのです」(同)
岸田政権下で、新原氏が熱心に口説いたのが、ハーバード大学のレベッカ・ヘンダーソン教授だった。日本でも『資本主義の再構築』(日本経済新聞出版)という本が出版される注目の経済学者である。
「新原さんたっての希望で、教授とは数回にわたりオンラインでウェブ会議を行っています。その際、新原さんは“私は総理の右腕です。あなたからぜひ総理にプレゼンしてほしい”と教授に頼み込んだそうです。教授は当初“忙しい”と断っていたのに、あまりに熱心なので、最終的に引き受けることになりました」(先の経産省関係者)
結果、昨年10月にヘンダーソン教授は実現会議の有識者として加わることに。同月26日には異例の長時間にわたり、「資本主義の再構築」をテーマに総理にオンラインで講義を行った。
しかし、
「多忙かつ時差のある地の人物を政府会議の委員に据えるとは正気の沙汰ではない、と事務局員一同あきれ返っていました。案の定、その後の会議で教授は全て欠席、資料を英訳で渡すことすらしていません。著名なアメリカ人学者を据えれば箔が付くという新原さんの幼稚な発想です」(同)
遅刻の常習犯
極め付きは普段の勤務態度だとは自民党関係者。
「新原さんは連日、10時から10時半くらいに出勤し、遅刻の常習犯だと内閣官房の中で認識されています。周囲は朝に彼がいないものだから仕事の相談ができず、困ることが多々あるそうです。しかも、遅刻した上で、何もなければ18時過ぎに帰ってしまうこともあって……」
まるで大名出勤。ちなみに公務員の勤務時間は1日7時間45分と法律で定められており、それを下回ると、職務専念義務違反で懲戒の対象になりうる。さては、“新しい”働き方でも模索されているのだろうか。
さらに、
「新原さんは出勤と退勤時に公用車を使用しています。しかし、問題は出退勤時だけではなく、個人的な買い物や食事、クリーニングを出すときにも、公用車を私的利用しているとささやかれているのです。事実なら大問題です」(同)
言い訳めいた反論
これら一連の事実を本人に尋ねようと携帯電話に架電したが、
「広報に話を通してもらえますか」
そう言うので、内閣官房に質問書を送ると、担当者を通じ本人から書面で回答が寄せられた。まず、公用車の私的利用については、
「私的使用は行っていないと認識している」
としながらも、
「クリーニングについては、職場から自宅への導(ママ)線の途上にクリーニング店があるため、寄ってもらったことはある。また、自宅で仕事がある場合等に、途中で、短時間に限り、食事店に寄ってもらったことはある。私的使用をしているというご指摘が出ないように考えたい」
それをまさに「私的利用」と言うのではあるまいか。で、遅刻に関しては、
「勤務時間は10時からで設定している。私的な理由でこれより遅くなる場合、あるいは早く帰宅する場合は、時間単位であっても、休暇手続きをとるようにしている」
本誌(「週刊新潮」)は新原氏の出勤時間が度々10時を過ぎることを確認している。例えば1月20日。新原氏が住む都内のマンションに公用車が到着したのは午前9時16分で、新原氏が車に乗り込んだのは9時57分。すでにこの時点で”遅刻寸前”にもかかわらず、途中、コンビニで缶コーヒーを買う余裕を見せ、内閣府本府庁舎に到着したのは、10時15分だった。この日は15分の休暇手続きを取ったのだろうか。
その他についても、
「レベッカ・ヘンダーソン氏を招聘(しょうへい)したのは、私のたっての希望ではない。(中略)官邸側からの要請があり、指示に基づき、知己である私が連絡を取ったもの。(中略)必要があればこちらから質問をして、文書で御意見をいただくことになっている」
と、縷々(るる)、言い訳めいた反論に終始。
「部下を人とも思っていない」
ちなみに妻の菊池桃子とは結婚以来、別居中の身。その点について、
「私としては、妻はストーカー問題(注・18年に容疑者逮捕)で怖い思いをしているので、プレスの方の朝・夜の来訪など、私の仕事の関係で生活を乱されないようにしたいと考えている」
女優のハートを射止め、周囲から羨望(せんぼう)のまなざしが注がれた新原氏。とはいえ、
「彼は官邸や経団連など“上”ばかり見ていて、部下は人とも思っていない。部下を成長させようとか、そういう意識も全くなく、結局自分がやりたいことを各省庁と部下におろし、それを“新しい資本主義”だと言っているだけなんです」(前出・政府関係者)
本人は親しい人物に対し、ことあるごとにこう口にしてきたという。
「俺のやりたいことはすべて実現してきた」――。
“亡国官僚”の暴走とハラスメントから生み出されていた岸田総理の「新しい資本主義」。いまやその理念は、経済成長のエンジンどころか、組織を瓦解させる“ブレーキ”となっているのだ。
「週刊新潮」2023年2月2日号 掲載