「やっぱり、お公家さんはズレてるな。泉下の安倍さんも「千の風になって」を歌いたい気分じゃないのか。そこに私はいません、眠ってなんかいません〜って」
著名な追悼曲を引き合いに苦笑するのは、安倍晋三元総理を支えた自民党山口県連関係者。“お公家さん”とは岸田文雄総理のことだ。
政治部デスクが解説する。
「今月5日、岸田総理は安倍さんの死に伴う衆院山口4区の補選の応援で山口入りした。その際、長門市で安倍家の墓所を訪れる予定だった。改めて安倍総理の後継者は自分だとアピールし、保守層の協力を固める算段だったんでしょう」
“春の政治決戦”とも呼ばれる統一地方選と衆参補欠選挙が4月に迫る中、岸田政権の支持率は低空飛行が続く。自民党の岩盤支持者である保守層から見放されれば政権の大崩れもあり得るだけに、総理は彼らの取り込みに躍起だ。が、どうにも空回りしている。
「あいにく安倍さんの納骨前だったんです。県連幹部も“誰を拝みに来るつもりなのか”とあきれ顔で、後からその事実を聞かされた岸田総理は慌てて墓参をキャンセルした。党内からも“それくらい事前に確認しておけよ”と冷ややかな声が上がっていますよ」
株を上げた野田元総理
対照的だったのが、同じ日に奈良県を訪れていた立民の野田佳彦元総理だ。
「安倍さんが命を落とした奈良市の銃撃現場までわざわざ足を運んで、黙祷を捧げたんです。野田さんにとって安倍さんは政権を奪った仇敵ですが、恩讐を越えて元総理の死を悼む姿は与野党を問わず話題になった。昨年10月の衆議院本会議における真摯な追悼演説もあって、線香すらまともに手向けられない岸田総理とは異なり株を上げました」
悪いことは続く。岸田総理は皇位継承を巡る発言においても、自身の残念ぶりを際立たせた。
自民党関係者が振り返る。
「2月に行われた党大会で、何の前触れもなく“安定的な皇位継承を確保する方策も先送りの許されない課題だ。国会での検討を進める”とぶち上げたんですが」
昨年1月、総理は皇位継承に関する有識者会議の報告書を国会に提出したものの、議論は停滞したままだ。
「皇室の安定的な発展を願う保守層へ秋波を送ったつもりだったのでしょう。ところが事前に党への相談や指示は一切なかった。慎重のうえに慎重を期して検討すべきテーマですから、党内には“総理といえども完全なスタンドプレーだ”との批判が広がっている」
成算もないまま寝た子を起こして…
こびたはずの保守層からも、厳しい指摘が。自民党の保守派議員が憤る。
「時期が悪いよ。皇位継承の議論を進めれば、我々が最も警戒する女系天皇の是非にも影響しかねない。今国会ではLGBT等(性的少数者)への理解増進といった多様性の尊重に焦点が当てられており、その流れが女系容認を後押しする可能性もある。皇室に関する話は拙速を避け、静かな環境で議論するのが鉄則。成算もないまま寝た子を起こして、どう責任を取るつもりか」
鋭い舌鋒はさらに続く。
「そもそも、LGBT等が焦点化したのは総理秘書官の差別発言が発端だ。側近の不始末の処理でLGBT法案を進めること自体がおかしいのに、この状況で皇位継承を持ち出す。何を考えているんだか……」
聞く力が機能不全――。
「週刊新潮」2023年3月23日号 掲載