去就が注目された高市早苗・経済安全保障担当相の周囲で“異変”が起きているという。「放送法文書問題」で“サンドバッグ”と化し、進退窮まったかに見えた高市氏だったが、地元知事選でみずから擁立した“チルドレン”が支持率を伸ばしているというのだ。その摩訶不思議な背景を探った。

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 3月28日、2023年度予算案が成立したことで、予算委員会を舞台に繰り広げられてきた「放送法文書問題」はフェードアウトしていく見込みだ。

「高市氏が総務大臣だった14年から15年にかけ、放送法の政治的公平性の解釈をめぐる総務省の内部文書の存在を野党が暴露し、高市氏が“文書が捏造でなく、本物だったら大臣を辞める”と大見得を切ったことで議論は一気に紛糾。俄然、追及の手を強めた野党でしたが決定打を欠いたまま予算案が可決されたことで、“高市逃げ切り”の観測が支配的となっています」(全国紙政治部デスク)

 岸田文雄首相が27日の参院本会議で「(高市氏を)罷免する理由はない」と語ると、世耕弘成・参院幹事長も同日、「いわれのない非難を受けている高市氏を全力でサポートしたい」と援護射撃。それを受け、高市氏も28日の参院予算委員会で「(文書は)怪文書の類いだ。何らやましいことがないのに職を辞することはない」と改めて閣僚辞任を否定した。

 自民党内では騒動の渦中、高市氏に対して「炎上させたのは彼女なのだから、啖呵通りにみずから身を退いて鎮火すべき」など冷ややかで突き放す声が大半を占めたが、少しずつ高市氏を見る目に変化が生じているという。

平木候補だけが支持率上昇の怪

 4月9日投開票の奈良県知事選は5選を目指す現職の荒井正吾氏(78)と、高市氏が総務相時代に秘書官を務めた元総務官僚の平木省氏(48)。そして日本維新の会が擁立した山下真・元生駒市長による“三つ巴”の戦いと目されている。

 選挙前から「山下勝利」の下馬評は揺るがないが、その背景には県連会長である高市氏の調整力不足が指摘されてきた。高市氏が擁立を主導した平木氏に自民党系市議や県議が次々と反発し、荒井氏の支援に回る「保守分裂」を招いたのだ。“漁夫の利”もあって山下陣営には一時「余裕綽々」といった空気も流れたが、ここに来て“凪”だった戦線にさざ波が立ち始めているという。

 自民党関係者が話す。

「2月中旬に行われた党内の支持率調査では山下の35.8ポイントに対し、平木25.3ポイント、荒井18.9ポイントと、“自民惨敗”の可能性が早くも示唆された。ところが高市氏が国会で集中砲火を浴びていた3月上旬調査では山下33.2ポイント、平木27.9ポイント、荒井18.1ポイントと、平木だけが浮上する結果に。党内で分析したところ、“高市氏への同情票が平木に集まった可能性が高い”という結果に落ち着いた」

 実際、選挙戦突入以降、平木陣営に「覚悟していたほどの強い逆風は吹いていない」(自民党系県議)とされる。

「高市さんがイジメに遭ってる」

 一方、大本命の山下氏を支える「維新人気」の評価も割れている。告示日の3月23日、維新代表の馬場信幸氏、幹事長の藤田文武氏、顧問の松井一郎氏が現地入りしたが、「当日はあいにくの雨だったことを割り引いても、“党の顔”が揃った街頭演説にもかかわらず、聴衆は大して集まらなかった。“吉村(洋文・大阪府知事)でなければ人は呼べない”ことがハッキリした」(自民党系県議)との声も。

 日本維新の会・奈良県総支部に訊ねると、

「(3氏による)演説は2カ所で行われ、それぞれ100人程度の地元有権者が集まりました」

 と回答した。

 政治アナリストの伊藤惇夫氏が指摘する。

「もともと奈良は保守色の強い土地柄で、一連の騒動を見て“高市さんがイジメられている”と感じ取った地元有権者が一定数程度、出てきても不思議ではない。ただし維新の人気が大阪を飛び越えて、奈良にまで浸透しつつある点は疑いようがなく、“山下優勢”の情勢は変わらない。高市氏にとって本当の問題は、“秘蔵っ子”の平木氏が善戦しようがボロ負けしようが、党内での孤立化と発言力の低下を解消・挽回する術が容易に見つからない点です」

 逃げ切ったとはいえ、“イバラの道”が続くのは変わらないようだ。

デイリー新潮編集部