関西球団セパVは59年ぶり2度目──まずはセ・リーグ、阪神の優勝から振り返ろう。「“アレ”という言葉はリーグ優勝を狙うときに決めたので、CS(クライマックスシリーズ)や日本シリーズのことは考えてなかったんですよね。何か代わりになるいい言葉があれば教えてください」──阪神の岡田彰布監督がファンに優勝インタビューで呼びかけると、超満員の甲子園球場に大きな歓声が起きた。
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9月14日、阪神は巨人を4対3で下し、18年ぶり6回目のリーグ優勝を達成した。岡田監督が胴上げされた時点で、2位の広島とは13ゲーム差、3位のDeNAとは16ゲーム差がついていた。
今季の阪神はとにかく強かった。何しろ、優勝を決めた試合で11連勝を達成し、9月14日でのリーグ制覇は球団史上最速。にもかかわらず、これから阪神はCSを戦わなければならない。場合によっては日本シリーズに進めない可能性もあるわけで、果たして阪神ファンはCSの開催に納得しているのだろうか。
パ・リーグのペナントレースもオリックスの独走だった。9月20日、オリックスはロッテを6対2で下し、3年連続のリーグ優勝を果たした。中嶋聡監督が5度、宙を舞った時、2位のロッテとは14・5ゲーム、3位のソフトバンクとは16・5ゲームの大差がついた。もし今季の日本シリーズが阪神とオリックスで戦われなかったとしたら、釈然としない野球ファンも少なくないはずだ。
実は今季のCS開催に問題提起を行った阪神OBがいた。デイリースポーツ(電子版)は8月29日、「広沢克実氏 大差優勝時はCS取りやめるべき『泣くに泣けない』『これで広島が日本シリーズに出たらどう思います?』」との記事を配信した。
ポストシーズンの必要性
阪神OBの広澤克実氏は8月29日、サンテレビが中継した阪神対DeNA戦で解説を担当。阪神のリーグ優勝を前提とした上で、「これで日本シリーズに広島が出たらどう思います? ずっと前から言ってることですけど。泣くに泣けないでしょ」と指摘。優勝時に2位のチームと5ゲーム以上の差があれば、CSは開催すべきではないとの見解を示した。
この記事がYAHOO!ニュースに転載されると、大きな反響を呼んだ。コメント欄への書き込みは2700件を超え、「OBが阪神に忖度した意見」、「CSを批判するなら開幕前に言うべき」、「CSの開催でチームが得る利益を考えると、現実的な意見ではない」といった批判が殺到、炎上と言ってもいい状態になった。
だが、ペナントレースは阪神とオリックスが共に2位と3位に大差を付けて優勝という結果になった。改めて広澤氏に取材を依頼し、CSの問題点について持論を聞いた。
「私はポストシーズンそのものに反対しているわけではありません。MLB(メジャーリーグ)のポストシーズンは魅力的だと思います。アメリカではアメフトやバスケットでもポストシーズンが実施され、ファンも支持しています。日本のプロ野球もポストシーズンを実施することは大賛成ですが、CSの制度はいくら何でも問題が多すぎます。そもそも実施すべきではないのです」
下剋上の問題
広澤氏は「プロ野球は12チームしかないのに、全部で6チームがCSに進むのはおかしいと言わざるを得ません」と訴える。
「全12チームのうち半分がポストシーズンに進む権利を獲得し、日本一となる可能性を手に入れてしまうわけです。いくら何でも多すぎるでしょう。プロ野球が2リーグ制になったのは1950年です。パリーグの前後期制などの例外を除くと、かつてポストシーズンは基本的に日本シリーズだけでした。12チームから選ばれるのは、たったの2チーム。この厳しさが日本シリーズの価値を高め、シリーズを制して日本一になったチームの名誉を保証し、プロ野球の栄えある伝統を作ってきたはずなのです」
CSの問題点としてよく「下剋上」が挙げられる。デイリースポーツの記事が転載されたYAHOO!ニュースのコメント欄でも、下剋上には問題があるという広澤氏の見解に賛意を示す投稿は少なくなかった。
では、下剋上という観点から、それぞれのポストシーズンを見てみよう。まず、パ・リーグ独自のプレーオフ制度(2004〜06年)やCSを実施する前のプロ野球で、「2位か3位のチームが優勝する」という下剋上は存在しなかった。セ・リーグもパ・リーグも6チームでペナントレースを戦い、共に優勝した2チームが日本シリーズを戦った。
MLBの場合は下剋上が起こる。ポストシーズンは、MLBの全30チームのうち、ア・リーグとナ・リーグの各6チーム、計12チームで争われる。進出できるのは、両リーグの西地区・中地区・東地区で優勝した計6チームと、地区優勝チームを除く各リーグで勝率が高い上位3チーム、いわゆるワイルドカードを獲得した計6チームだ。
ゲーム差とCS
その結果、「地区優勝は逃したものの、ポストシーズンのワイルドカードシリーズ、ディビジョンシリーズ、そしてワールドシリーズを制するチーム」が誕生する可能性があり、これが下剋上となるわけだ。
とはいえ、MLBの場合、地区優勝は5チームによる争いで、ワイルドカードは3地区の優勝チームを除く各リーグ12チームの上位3チームが獲得する。一方、日本のCSでは、各リーグ6チームが争って上位3チームが進出することを考えると、どちらが“狭き門”なのかは言うまでもない。
CSではあまりに極端な下剋上が発生し、疑問の声が噴出したこともある。2017年のセ・リーグは広島が優勝し、2位の阪神には10ゲーム差、3位のDeNAには14・5ゲーム差をつけた。ところが、CSを制したのは3位のDeNAだったのだ。
CSでは様々なアドバンテージが用意され、一応はセパ両リーグの優勝チームが日本シリーズに進めるよう配慮されている。広澤氏の指摘に、「ゲーム差が大きい場合、アドバンテージを強化すればいい」という意見もYAHOO!ニュースのコメント欄にはあったが、広澤氏は「その意見には納得できません」と言う。
「そもそも私はCSの制度そのものに反対しています。サンテレビで『1位と2位が5ゲーム差以上のCS開催』について問題提起しましたが、3位のチームでも日本シリーズに出場できるという制度はおかしいでしょう。その上で、阪神は優勝決定時、2位の広島に13・5ゲームの差をつけました。アドバンテージが厳しいとか厳しくないとかいう問題ではなく、これほど差があるのならCSをやってはいけません。どれほどアドバンテージを厳しくしても、日本シリーズに出場できる可能性がゼロになることはないわけです。それこそが問題でしょう」
オリックスの「奇跡」が台無し
CSを開催すればプロ野球は盛り上がる。ファンも夢中だ。だから開催すべきという意見も多い。だが広澤氏は「CSを実施したことで、逆に盛り上がりを失ったシーズンもあります」と反論する。
「昨年のパ・リーグは9月30日の時点でソフトバンクがマジック1でした。ところが最終版でもつれにもつれ、10月2日の最終戦まで決まらなかったのです。そして、ソフトバンクがロッテに敗れ、オリックスが楽天に勝利してリーグ優勝が決まりました。CSのない時代なら伝説としてファンの語り草になっていたでしょう。何しろ近鉄対ロッテのダブルヘッダーの結果で西武のリーグ優勝が決まった1988年の通称『10・19』や、共に優勝をかけて巨人と中日が最終戦で戦い、巨人が優勝を決めた1994年の『10・8決戦』と並ぶ劇的な優勝だったはずなのです」
だが、オリックスが奇跡的な優勝を決めても、それはCSに出場するチームが決まったことしか意味しなかった。本来なら多くの野球ファンが感動したに違いない「オリックスの奇跡」は、CSに向けた通過点の一つに成り下がってしまったのだ。
オーナーの責任
大きなゲーム差がついた場合はアドバンテージを厳しくすべきという意見に、広澤氏が否定的なのは前に見た通りだ。
その一方で、「12チームを各6チームの2リーグ制から、各4チームの3リーグ制にすればいい」という意見も多い。リーグ優勝した3チームに加え、優勝できなかった9チームのうち勝率1位のチームをワイルドカードで選出し、4チームで日本シリーズ進出を争うという改革案だ。
広澤氏は「この意見に私が賛否を示すつもりはありませんが、非常に建設的な内容で傾聴に値するものだと考えています」と評価する。
「CSは人気ですが、これまでにも大きなゲーム差がついたり、極端な下剋上が発生したりすると、やはり疑問の声は出ていました。しかし、3リーグ制が実現すれば、疑問の声が減るのは間違いありません。現行制度では12チームから6チームがCSに進んでいたわけですが、3リーグ制になると12チームから4チームがCSに進むことになり、今よりも“狭き門”となります。ただ残念なのは、こうした建設的な意見がファンからしか出ていないということです。本来はオーナー側から提言されるべきでしょう。『日本一のチームという名誉に相応しい選出を行うためには、どういうポストシーズンが望ましいか』という観点でオーナーは議論を活発化させてほしいですね。そして、その際には興行の要素は排除されることを望みます」(同・広澤氏)
デイリー新潮編集部