大勢の故障直後に即断か

 巨人にとって今季、4年ぶりのリーグ制覇がなるかどうかはリリーフ陣の強化、中でも抑えの確立に懸かっている。2022年に新人最多タイ記録の37セーブを挙げた大勢投手(24)は昨年、右上肢のコンディション不良に泣かされ、27試合の登板で14セーブにとどまった。今春のキャンプ前、阿部慎之助監督(44)に守護神に指名されながらも右ふくらはぎを痛め、キャンプは序盤で離脱した。

 阿部監督は表向き、開幕時のクローザーは大勢との方針を崩していないものの投手では極めて重要な部位の故障である。大勢が開幕に間に合わないケースに備え、直ちに代役の検討に着手した。

 一方で勝敗を一身に背負うポジションの人選を誤り、開幕ダッシュに失敗するようなことになれば、V奪回の致命傷になりかねない。就任1年目、いきなり指揮官としての真価を問われるような事態に直面した中で、複数の球界関係者によると、阿部監督は迅速に人選の優先順位を固めたという。そこで浮かび上がった名前は一時、クローザーに取り沙汰された菅野智之投手(34)でもなく、阪神で抑え経験があるカイル・ケラー投手(30)でもなかった――。

 スポーツメディアによると、大勢の離脱が決まった直後に、阿部監督は自身が現役時代にふくらはぎ痛に苦しんだことを踏まえ「本人とは話して、開幕に合わせてしっかり頑張ってくれと言いました。ふくらはぎは大事な部位だし、焦らせると怖いので僕が(離脱を)命令しました」と明かした。

 大勢にしてみれば復活を目指すシーズンで、早々とアクシデントに見舞われた。「次に監督と会うときは万全の状態で会いたい」と殊勝に語り、監督の配慮に感謝しつつ早期復帰に意欲的なのだが……。

 このやり取りを、さるセ・リーグ球団のスコアラーはこうみる。

「けがの部位が部位だけに、本人は無理に開幕に合わせにいかないでしょう。阿部監督は大勢のメンツにも配慮し、言葉では開幕時の戦力としての期待を示していましたが、不測の事態に備えているでしょう。意中の代役がいると聞いています」

最有力候補はドライチ右腕

 チーム関係者の話を総合すると、代役クローザーの最有力候補にはドラフト1位ルーキーの右腕、西舘勇陽投手(21)が挙がっているという。

 ここまでは西舘は先発ローテーション候補の1人とみられている。しかし、阿部監督はチームの緊急事態に中大の後輩でもある西舘に、以前からクローザーとしての適性を見いだしていた。

 西舘は2月25日のヤクルト戦(那覇)でオープン戦初登板を果たした。三回に3番手としてマウンドに上がり、結果は2回を無安打無失点と上々のデビューだった。最速155キロを誇る持ち前のストレートで振り遅れを誘うなどし、また、前回登板では全てクイック投法だったフォームを、同じ打者との対戦中に足を上げるように変え、打者のタイミングを外すなど、実戦向きであることをアピールした。ネット裏で偵察に訪れたスコアラーは「初登板でフォームを変えるとは……、余裕がありますよね。新人離れした冷静さでした。クイック(投法)の速さも評判通りのもので、シーズンの1点を争う場面で走者を背負ったとしても、ばたつくような感じがないですね。マウンド度胸もあるようですし、抑えの資質はあると思います」と公式戦に向けて警戒感を強めた。

与田、山崎、栗林…「新人守護神」の成功に前例

 それにしても、ルーキーで開幕からクローザーとは荷が重すぎはしないか。元NPB球団監督はしかし、過去のNPBでの成功例を引き合いに「杞憂」だと断言する。

「古くは中日で星野(仙一)さんが与田(剛)を抑えに抜てきしています。近年ではDeNAの山崎(康晃)、広島の栗林(良吏)も1年目から抑えで堂々と活躍しています」

 確かに社会人出の与田は1990年に当時の新人記録の31セーブをマークし、最優秀救援投手に輝いた。2015年は大学出の山崎が37セーブで新人記録を更新。21年には社会人出の栗林が37セーブ、防御率0.86と圧巻のリリーフを連発した。

「新人投手だと、逆に怖いもの知らずで打者に挑めるという利点があります。プロでまだ、研究されていない分、対打者では優位に立つこともできます。大勢の復帰までの短期間なら、西舘はなおさら知られていないことが他の投手にない強みになるでしょう。阿部監督はキャッチャー出身なので、そうしたこともよく理解していると思います。大学の後輩で、他選手に比べると、扱いやすいということも抑え・西舘の構想に至った一因だとみています」(同元監督)

 勝算は十分にありということか。それにしても新人監督らしからぬ大胆な一手ではある。

原前監督が“反面教師”

「阿部監督は(前監督の)原さんのいいところも悪いところも、全て間近で見てきました。2軍監督時代にはパワハラ気質が球団内部で懸念されたことがありましたが、1軍の監督に就任してからは自ら『変わる』と宣言したように、選手を伸び伸びとプレーさせるようになりました。去年までと違って、キャンプでも選手が監督の顔色をうかがうことはありませんでした。原さんは4番へのバント指示一つとっても、選手にベンチの権力を振りかざす色が濃かったように見受けられましたが、阿部監督は原さんを反面教師にとにかく変えようと、独善的な采配は戒めていると聞きます。西舘をプレッシャーがかかるクローザーに据えても、うまくフォローしながら起用していくのではないでしょうか」

 元監督が続ける。

「大勢の復帰までは西舘の抑えが理想で、復帰しても機能していれば大勢とケラーで七、八回をまかなうこともあり得るでしょう。去年は『魔の八回』と言われ、終盤に逆転を許すことが非常に多かった。チームにとって勝ちゲームをひっくり返されることは一番ダメージが大きく、単なる1敗では済みません。阿部監督も終盤の継投を立て直さない限り、優勝はないと分かっていることでしょう。(昨季4位で)挑戦者の立場ですから、新人を抑えにするとか思い切った策を打てばいいと思います」

 巨人は3月29日の開幕戦(東京ドーム)で、昨季覇者の阪神に挑む。球団史上初の捕手出身監督はルーキー守護神に勝利の瞬間を託すことになるのか。開幕3連戦の戦いぶりは今季の巨人を占うと言っても過言ではないかもしれない。

デイリー新潮編集部