見えない1軍昇格

 プロ野球楽天の田中将大投手(35)は今季の開幕から2軍調整を続けている。昨秋に右肘のクリーニング手術を受け、2月下旬からオープン戦登板を重ねたものの、本来の球威が戻らず開幕1軍メンバーから外れた。一度は4月中旬に予定されていた1軍昇格も白紙に。日米通算200勝が残り3勝の数字以上に遠く感じられる。

 2013年に楽天のエースとして24勝0敗という神懸かり的な成績で日本一に貢献し、ヤンキースでは新型コロナウイルス禍でシーズンが短縮された20年を除き、6年連続で2桁勝利をマークした。通過点に過ぎないとみられていた200勝だが、いまだ1軍昇格のめどが立っていない。全盛期からの力の衰えは明らかで「石にかじりついてでも200勝はしようとするでしょうが、してしまえば、あっさりユニホームを脱ぐこともあるとみています」(元NPB球団監督)と大台到達後の引退説が囁かれるほどだ。

 5月、田中将の1軍昇格の距離感がうかがえる出来事があった。妻の里田まいさん(40)はゴールデンウイーク中に子どもたちを連れ、ヤンキース時代に暮らしたニューヨークを訪ねたことを13日、インスタグラムで報告した。ニューヨークを拠点とするタレントの渡辺直美さんと再会したとし、「最後はお友達に会って会って楽しく過ごした!ニューヨーク時代大変お世話になり今でも交流ある方々」などとつづったのだが……。

 在京球団のコーチが違和感を口にする。

「シーズン中に奥さんが子どもと一緒に海外に行くというのは、マー君がローテーションに入っていたなら考えられないことです。当面、1軍昇格が見えていないことの表れでしょう。オールスター戦までに戻ってこられるかどうかというところでしょうか」

 そして、田中将自身も新人たちとの食事会に参加したことを同日、Xで紹介した。この時の集合写真でヒゲを蓄えた田中将の容姿の変化が話題を呼ぶとともに、ネット上では2軍調整中の身にもかかわらず、緊張感に欠けるなどと手厳しい意見が散見した。

「トミー・ジョンなら違ったキャリアになっていた」

 楽天で昨オフに発覚した安楽智大投手(メキシカンリーグ)の若手選手へのパワハラを巡るトラブルでは、田中将が安楽の問題行動を助長したと報じられ、ファンの批判と失望を買った。

「ルーキーとの食事会の報告は意図的だったのかどうか分かりませんが、こうして若手との親睦を示せば、損なわれたイメージの回復にはつながります。それよりも、まずはファンに今の調整ぶりを伝える方が先との意見があったように、それをしていないところにも臨戦態勢ではない現状がうかがえます」(前出のコーチ)

 田中将は昨年10月、右肘の骨片を除去する「クリーニング手術」を受けた。ヤンキース時代の15、19年のオフにも経験した手術だ。コロナ禍の20年は開幕が7月にずれ込んだものの、16年は開幕投手を務めるまでに復調した。

「今回の手術でも当初は開幕に間に合う見込みでした。若い頃のような回復力はないのでしょう。クリーニングとはいえ、この年齢なっての手術は投手生命を左右しかねません」

 長年、MLBで活動する米大手マネジメント会社の代理人はこう危惧した上で「14年に右肘にトミー・ジョン(肘靱帯再建手術)を受けていれば、また違ったキャリアになっていたのでしょうが……」と嘆く。

コントロールの良さゆえに

 田中は14年、日本球界ナンバーワン投手として楽天から鳴り物入りで名門ヤンキースに移籍した。開幕から6連勝するなど期待に応えていた中、7月に右肘靱帯の部分断裂が判明。トミー・ジョン手術が必要との診断を受けた。

 しかし、根治を目指す同手術ではなく、自身から採取した血小板で組織の回復を図るPRP注射による治療が選択された。

「PRPは対症療法で、メジャー球団との交渉時には、症例が多く、移植した靱帯で球速がアップすることもあるトミー・ジョンに比べ、大きくマイナスに評価されます。当時は先発の柱が必要だったヤンキースがトミー・ジョンを許さなかったとか、さまざまな事情があったのですが、まだ26歳で若かった時にトミー・ジョンを受けていれば、少なくとも今のような球威の衰えは避けられたと思っています」(同代理人)

 その後、田中将は力から技の投球にシフトする。プレーオフではリミッターを解除したかのような活躍を見せ、辛辣なニューヨークのメディアが認める勝負強さを発揮したが、基本的にはかわす投球に終始した。幸か不幸か、田中将は抜群のコントロールを備えていたため、力でねじ伏せなくても先発投手の責任を果たし続けることができた。ヤンキースでの通算78勝46敗は1億5500万ドル(約158億円/当時のレート)の契約にふさわしいものだった。

正しかったヤンキースの冷徹な判断

 にもかかわらず、7年契約が切れた20年オフ、ヤンキースは再契約に消極的だった。

「確かに30過ぎで大きな契約は望めない年齢でしたが、ダルビッシュ(有投手=パドレス)は一昨年のオフに36歳で6年契約を結んでいます。ヤンキースが田中の残留に後ろ向きだった一因は肘の状態を不安視していたからです。チームの都合でPRPにしておきながら、契約が切れたらマー君の残っている力を値踏みする。冷たいようですが、日本に復帰した後の投球を見ると、結果的に正しかったと言えます。今の年齢でのトミー・ジョンは現実的ではないので、現状の球威で何とか白星を重ねるしかありません」(同代理人)

 田中将は楽天復帰後、4、9、7勝と一度も2桁勝利に届いていない。今年2月の術後初のオープン戦登板で球速は最速141キロにとどまった。3度目の登板では146キロまで伸びたものの往時の球威には遠かった。

 開幕ローテーション入りを逃した直後のYouTubeチャンネルではこう語っている。

「望んだ形にはならなかったが、失敗だとは思っていない。リハビリで状態を上げていく段階の中で、うまくいかないことだったり、全てが順調に進むっていうことは珍しいと思っていた。前に進んでいる実感は自分自身の中にはあるので、そう悲観的にはなっていないです」

 現役生活の岐路に立たされていても、前向きさを失っていないのは救いか。

デイリー新潮編集部