中日からドラフト1位で指名を受けた根尾昂は、2018年11月に名古屋市内で入団に関する仮契約を結んだ。約100人の報道陣が駆け付けると、根尾は「ポジションはショート一本でいかせてくださいとお伝えしました」と説明。スポーツ紙は“堂々の脱二刀流宣言”と大きく報じた。

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 それから約5年半が経過した5月16日、対阪神戦の6回表に根尾は登板。本拠地のマウンドに立ったのは今季初だったが、いきなりピンチを招くと、原口文仁に痛恨の3ランホームランを被弾した。担当記者が言う。

「試合を中継したスポーツ専門局J SPORTSで解説を務めた権藤博さんは『投球のテンポが悪い』、『まずは真っすぐで勝負するのがメインでないと』と苦言を呈しました。打った原口は球団を通じ『甘いボールを一振りで仕留めることができました』とコメントしました」

 中日ファンは根尾の不甲斐ない投球に、さぞかし怒り心頭だろうと調べてみると、どうもそうではなさそうなのだ。Xを見てみると、《根尾かわいそう…使われ方が不憫すぎる》、《育成方針ブレブレなのがかわいそう》、《根尾くんの扱い、雑じゃないか? かわいそうに》──と、このように同情する声が少なくないのだ。

 野球評論家の広澤克実氏は「投げている時の根尾くんの表情が印象的でした」と言う。

「マウンドでピッチングを楽しんでいるという表情には見えませんでした。いいピッチャーからは躍動感が伝わってくることが多いですが、根尾くんにはそれもなかったですね。野球選手として別にやりたいことがあるはずなのに、ピッチャーをやらされているのかな、と想像してしまうほど、覇気が感じられませんでした」

転々としたポジション

 根尾が入団前に「ショート一本でいかせてください」と発言したことは冒頭で触れたが、広澤氏は「私もそのほうがよかったと思います」と言う。

「高校を卒業した時点で、リストが強いのでバッターとしての将来性を感じていました。何より印象的だったのは守備です。フットワークが軽快でしたし、ポジションがショートというのが武器でした。プロ野球のポジションで最も難易度が高いのはキャッチャーで、次がショートです。ショートを守れる選手は、どこにでもコンバートできます。根尾くんがショートとして地道な練習を積み重ねていけば、有望な未来が待っていると当時は思っていました」

 ところが中日の育成は迷走する。根尾がプロ1年目をケガで棒に振ると、秋季キャンプで外野手として練習させた。実際、2年目と3年目は外野手としてプレー。それが4年目になると、2軍でピッチャーとして登板することになったのだ。

 2022年6月13日、立浪和義監督が根尾に関して「投手のほうが、彼の能力が生きる。代打で出ることもあるが、基本は投手でやる」と発表した。

 立浪監督の発言を受け、産経新聞の大阪版夕刊は「【鬼筆のスポ魂】器用すぎる根尾の未来が心配だ 遊撃→外野→遊撃→外野→投手」(同年6月17日)との記事を掲載した。

ピントがずれている中日

 見出しにあるように、この記事では根尾の頻繁なポジション変更に憂慮が示されていた。

「根尾くんのポジションが変更されたことに関し、私は詳しいいきさつを知りません。ただ、中日の首脳陣は根尾くんを『野手としては失格』と判断し、投手に転向させたという印象があります。しかしショートとしての練習も不充分で、実践経験も積んでいないのに、どうして失格と判断したのか理解しがたいと思っています」(同・広澤氏)

 先にショートの難易度について触れたが、もし根尾が猛練習でショートの技倆を向上させると、それだけでスタメン入りが見えてくる。キャッチャーとショートは「多少は打てなくても許される」2大ポジションだからだ。

「投手への転向も問題です。大谷翔平くんは日本ハムに入団した時から、ピッチャーとバッターの練習を積み重ねてきました。ところが根尾くんは一度、野手に専念したわけです。そんな彼がプロ人生の途中で再び投球の練習を再開しても、プロの世界で通用するピッチャーに成長できるとは思えません。はっきり言って、中日の育成方針はピントがずれているのではないでしょうか」(同・広澤氏)

現役ドラフト

 ちなみに、2018年10月に行われたドラフト会議では、日ハム、巨人、ヤクルト、そして中日が根尾を1位指名した。もし中日ではなく、他の3球団に入っていたら、彼はどんな選手になっていただろうか──?

「私も根尾くんはかわいそうだと思います。中日に問いただしたいのは、彼をドラフトで1位指名した時、どんな育成プランを描いていたのかということです。ここまで迷走してしまったのは、最初のプランに問題があったのではないでしょうか。根尾くんは明日にでも首脳陣に直訴してショート転向を直訴し、打者としてのフィジカルトレーニングを始めるべきだと思います。それが聞き入れてもらえなかったら現役ドラフトに期待するしかありません。ただし、選手の生殺与奪を握っているのは球団です。中日が根尾くんは他球団に出さないと決めれば、それに従うしかありません」(同・広澤氏)

註:特別記者・植村徹也氏の署名原稿で、2022年6月17日の大阪版夕刊に掲載された。

デイリー新潮編集部