復帰戦で「逆転3ラン」

 かつて横浜DeNAベイスターズの主砲としてチームを支えた筒香嘉智選手(32)が、古巣・横浜DeNAへの復帰を発表し、1ヵ月ほどが経過した。【白鳥純一/ライター】

 サンフランシスコ・ジャイアンツとのマイナー契約をオプトアウト(契約破棄)し、4月に5年ぶりにベイスターズのユニフォームに袖を通した背番号25は、大型連休最終日の6日のヤクルト戦に6番左翼で先発出場を果たすと、4打数2安打1四球の活躍を見せた。

「まだまだ点差もあったので、強い打球を打つことを心がけた」という8回の第4打席では、逆転3ランを放ってチームの大逆転勝利に貢献し、華々しい復帰を果たした。

「満員のお客さんがいるグラウンドに立った時は、不安な気持ちや高揚感など、色々な感情が出ることは想定していた。本当にあれだけの声援をいただき、感謝の気持ちしかありません」

 満員のファンへの感謝の思いを表現したかつての主砲は、5月11日の阪神戦でも、8回の蝦名達夫の同点2ランが出た直後に勝ち越し本塁打を放って勝利に貢献している。この日は後続の牧秀悟にもダメおしの本塁打が飛び出すなど、1イニング3本塁打の猛攻で7点差を逆転し、変わらぬ勝負強さを見せつけた。

筒香は速球を打てないのか?

 横浜高校から2009年のドラフト1位で横浜ベイスターズ(当時)に入団した筒香は、類い稀なる長打力を武器に主砲として活躍。2016年には本塁打と打点の2冠を手にするなど、不動の4番としてチームを支え、2019年のオフにポスティング制度を利用して、タンパベイ・レイズへと入団した。

 だが、筒香のメジャー挑戦初年度の2020年はコロナ禍の影響もあり、リーグ戦は大幅に短縮。満足のいく練習も出来ずに一時帰国を強いられるなど、予想だにしない状況に直面した。

 約3ヵ月遅れとなった開幕戦では自身にとってメジャー初となる本塁打を放ち、この年の日本人選手としては唯一のワ―ルドシリーズ出場も果たしたが、レギュラーシーズンは51試合に出場して<打率.197/8本塁打/24打点>。日本で見せた長打力は鳴りを潜めた。

 かつて横浜DeNAを率いたアレックス・ラミレス氏は、「150キロ以上の速球を打つことを苦手にしているので、残念ながら筒香がメジャーで成功を収めることは難しいだろう」(元巨人・岡崎郁氏のYouTubeチャンネル「アスリートアカデミア」より)と、筒香の挑戦に否定的な見方をしていたが……。残念ながらその不安は的中することになった。

 2021年シーズン途中の5月にはドジャースに移籍するも成績を残せず、8月にはパイレーツに再び移籍。ここでは43試合ながらも<打率.268、8本塁打、25打点>の成績を残して次年度の契約を勝ち取ったものの、翌年は再び不振によりマイナーに降格。2023年は一度もメジャー昇格を果たせぬまま、シーズンを終えることとなった。

メジャーで変化した打撃スタイル

 その一方で、筒香の日本復帰に関してラミレス氏は、「まだ(筒香は)30本塁打以上打てるパワーや、技術を十分に備えている。復活の可能性は十分にある」(YouTubeチャンネル「ラミちゃんねる」)と自身のYouTubeで太鼓判を押すが、筒香がMLBに籍を置いた2020年から2022年まで打撃データを比較すると、その打撃やヒットの打球方向に、大きな変化が垣間見える。データ解析システム「Statcast」の情報を閲覧できる「Baseball Savant」で、筒香の打撃の軌跡を確認してみよう。

 2年目までは左の長距離打者らしく右方向への打球が多く見られるものの、3年目の2022年には左方向への流し打ちが増えている。日本で1軍復帰を果たした6日には、第3打席で左方向にフェンス直撃の2塁打を放ち、「僕の中での逆方向は1つのバロメーターでもあるので、非常にいい感覚だった」としているが、MLB時代の打球の速度と角度の関係を示す「barrel %(バレル率)」は、2020年の「9.3」から「6.9」、「5.6」……と年々低下を続けており、「速球に振り遅れていて、角度を付けにくくなっている」と見ることも出来る。ちなみに昨年の大谷翔平選手は「19.6」、鈴木誠也選手は「10.5」、吉田正尚選手は「6.6」である。

NPB復帰1年目は誰もが苦戦

 筒香の日本球界復帰にあたっては、アメリカで残した成績や、過去にMLBから日本球界に復帰した選手の成績などから「苦戦するのではないか?」と見られる向きもあった。ここでメジャーからNPBに復帰した野手の成績を並べてみよう。

【近年日本球界復帰を果たした選手の初年度成績】

2011年:岩村明憲選手(当時楽天) 77試合/打率.183/0本塁打/9打点/175打数32安打
2013年:西岡剛選手(当時阪神)122試合 打率.290/4本塁打/44打点/497打数144安打
2015年:中島宏之選手(当時オリックス、現在中日) 117試合/打率.240/10本塁打/46打点/417打数100安打
2022年:秋山翔吾選手(広島) 44試合/打率.265/5本塁打/26打点/155打数41安打

「僕は(その声を)聞いてない。目の前の試合を必死にやるだけです」と復帰戦で語った筒香だが、本塁打を放った11日の阪神戦からは6試合ノーヒットが続き、一時は打率が1割台に低迷。不安が的中したかのように思われたが、19日の中日戦(バンテリンドーム)では2019年以来慣れ親しんだ4番に座り、3打数2安打の活躍で復調をアピールした。

「ここのところ本当に貢献できていなかったので、日々微調整をしながら、1日でも早く良い状態に戻して、チームに貢献していきたい」

「頼もしい以外の言葉がない」

 筒香と共に2017年にクライマックスシリーズを制して日本シーズンを戦った三嶋一輝投手が、「チームに大きな幹があると、自分の役割も固まってくるような気がする。頼もしい以外の言葉がない」と語る筒香が復帰したチームは、28日からは、昨季初優勝を手にした交流戦に挑むことになる。

 三浦大輔監督も「筒香が持つオーラや、打席に立った時に球場全体に生まれる期待感は独特なものがありますし、これまでにベンチになかった(筒香の)声が戻ってきて、まるでチームが進化したかのような印象を感じた」と語る。筒香の復帰は、昨季は自力で優勝を決められなかったチームにとっても頼り甲斐のある存在となりそうだ。

「5年前といろいろなことが違いますけど、ベンチも本当に活気があって、みんなが試合に集中している。これからどんどん強くなっていくチームだと思います」

 打撃好調の蝦名達夫や、再調整で2軍に降格したものの高い実力を示したドラ1ルーキーの度会隆輝など、若い才能が芽吹きつつあるチームに、かつての主砲は何をもたらすのか。今後の戦いぶりに注目したい。

白鳥純一(しらとり・じゅんいち)
1983年東京都生まれ。スポーツとエンタメのジャンルを中心にインタビューやコラム記事の執筆を続けている。

デイリー新潮編集部