動揺した主審?

 U-23アジア選手権グループリーグB最終日、日本対カタール戦は1-1のドローに終わった。ひょっとするとアジアサッカー連盟(AFC)は「日本は早々にお引き取り願いたい」と考えていたのではないだろうか。

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「日本はホストカントリーとして、すでに東京五輪の出場権は獲得している。今大会は残るアジアの3枠を決める重要な大会だ。海外組の主力を呼ばないで参加している日本は、テストマッチくらいにしか思っていないだろう。真剣勝負の場で他国の可能性を奪わないで欲しいので、早々にお引き取り願いたい」

 もちろんAFCがそんなことを考えていたかは分からない。だが、そう邪推したくなるほどサウジアラビア戦、シリア戦に続きカタール戦のジャッジは酷かった。

 シンガポール人のムハンマド・タキ主審は前半アディショナルタイムの48分、田中碧のプレーに1発退場のレッドカードを示した。

 VAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)の進言でOFR(オン・フィールド・レビュー:映像の確認)を実施したためだ。

問題のプレーは田中碧がマイボールにしようとインサイドでボールを保持して地面に足をつこうとした瞬間だ。

 足を伸ばしてきた選手を足裏で踏みつける格好になった。現行のルールでは、足裏を見せての勢いのあるタックルは危険なプレーとして、踏みつける行為は意図的な悪質なプレーとして1発レッドの対象になる。

 しかし田中碧のプレーは足を着く自然な行為であり、故意でもない。流れの中の不可抗力なプレーであるため流してもいいし、ファウルを取ったとしてもイエローカード止まりだろう。

 お次は後半31分、ペナルティエリア内で交代出場の齊藤未月とマジードが接触して2人が倒れたプレーだ。

VARと審判が連絡を取り始めたので、記者席のモニターで確認すると、こぼれ球をクリアしようと伸ばした齊藤の後ろ足を、シュートに行ったマジードが蹴っている。

 これはマジードのキッキングと思ったところ、齊藤の反則でカタールにPKが与えられたのには驚いた。どう解釈したらPKになるのか。

VARに泣かされた日本代表

 恐らく齊藤のプレーはボールに関与しておらず、シュートしようとしたマジードの足をブロックしたと判断したとしか考えられない。

ちなみに、このプレーで主審はVARと連絡を取りあったが、OFRは行われなかった。

 しかし齊藤はボールにアプローチしていて蹴られたのだから、本来なら日本にFKが与えられるべきである

それが日本にとって不利なジャッジになったのはなぜか。恐らく主審には自信がなかったと推測される。いずれのプレーも主審がVARを要求したのではなく、VARからのアドバイスで主審はプレーを止めた。すると心理的に「ファウルを取らなかった自分のジャッジは間違っていたのではないか」と思ってしまうかもしれない。

 こうなると、自信を持ってVAR判定を否定するのは難しいだろうし、VAR判定によりスーパースローで問題のシーンを見返す際は、「反則ありき」で見てしまう危険性もはらんでいる。アジアでは昨年1月のアジアカップ準々決勝から導入されたVAR判定だが、運用に関してはまだまだ試行錯誤が必要かもしれない。

 なぜならサウジアラビア戦のVARはオーストラリア人、シリア戦のVARもオーストラリア人でサウジアラビア戦ではアシスタントVARを務め、イラク戦は中国人の審判が務めた。J1リーグは今シーズンからVARを導入するが、そのための人材育成に時間をかけるなど慎重を期してきた。韓国は17年から導入しているものの、導入当初はトラブルが多発したと聞いた。

これまでオーストラリアのAリーグ、中国のスーパーリーグがVARを導入しているという話は聞いたことがない。そんな彼らがどこでVARのスキルを身につけたのか。そしてそのスキルは実用レベルにあるのか、我々には知る由がないからでもある。

 試合後に2つのVAR判定について森保監督にコメントを求めたところ、「確認していないので、確認できたらお話しします」と話すに止めた。

 すると16日、日本サッカー協会の田嶋幸三会長はアジア選手権のマッチコミッショナーに質問状を提出したことを明らかにした。VAR判定を巡って整合性を欠く場面があったと指摘し、経緯説明を求めたという。

 グループリーグ3試合を通じ、シリア戦のVAR判定によるPKは仕方がない。町田浩樹は相手の顔面を蹴っていたからだ。

 しかしサウジアラビア戦のPKは、最初は相手選手のシミュレーション(審判を欺く演技)だと思った。メインスタンドのタイ人ファンも大声で「ノーファウル」と連呼していた。結果的に岡崎慎の反則となったが、これは古賀太陽が無理してバックパスを選択せず、簡単にクリアしていれば防げた失点でもある。

 いずれにしても今大会の日本は、VAR判定に泣かされた。だから冒頭にも書いたような愚痴が出てしまったというわけだ。

 カタール戦に関しては、日本は前半で退場者が出たため、森保監督も先に動かざるを得なかった。

 後半から旗手怜央に代えて齊藤をボランチに投入し、4バックによる4-4-1でまずは守備を固めた。25分すぎに小川航基の技ありの1ステップによるシュートで先制したが、35分ごろにPKから同点に追いつかれると、数分後には疲れの見える食野亮太郎に代えてスピードのある田川亨介を入れた。

 指揮官からの「点を取れ」というメッセージである。残念ながら大会初勝利を奪うことはできず、勝点1にとどまり、森保監督は「勝利を届けられないのは悔しいし、悲しい思いもある」と珍しく心情を吐露した。

 それでもカタール戦は、これまでの2試合と違い、日本は遅まきながらファイティングスピリットの片鱗を見せたと思う。

 今大会に参加した選手は、改めて南米や北中米の親善試合やトゥーロン国際大会と違い、世界大会に通じるアジア予選の厳しさを、身をもって知ったのではないだろうか。その経験を生かせるかどうかは選手自身にかかっているし、それが東京五輪の「狭き門」を開くカギにもなるだろう。

六川亨(ろくかわ・とおる)
1957年、東京都生まれ。法政大学卒。「サッカーダイジェスト」の記者・編集長としてW杯、EURO、南米選手権などを取材。その後「CALCIO2002」、「プレミアシップマガジン」、「サッカーズ」の編集長を歴任。現在はフリーランスとして、Jリーグや日本代表をはじめ、W杯やユーロ、コパ・アメリカなど精力的に取材活動を行っている。

週刊新潮WEB取材班編集

2020年1月19日 掲載