新型コロナは風邪になった、と多くの医師が言い切るのに、いまもエボラ出血熱と同じ「2類」に据え置く日本。だから悲劇も起きる。春高バレーで3連覇がかかった高校が、陽性者が出ただけで出場できず――。
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新春をことほぐスポーツの祭典として、高校バレーの日本一を決める春高バレーと、全国高校サッカー選手権は注目度が高い。だが、この二つの大会、新型コロナへの対応が対照的だった。
高校サッカーは、今大会から出場校への一斉検査を撤廃したが、春高バレーは出場全選手やスタッフへの検査を行い、一人でも陽性反応が出たら欠場、という方針を貫いたのである。
その結果、バレー女子で悲劇が起きた。富士見高校(静岡県)は陽性者が出て欠場に。続いて、3連覇がかかる就実高校(岡山県)も、一人から陽性反応が出たとして、欠場を強いられることになった。
ずさんな大会運営
「大会運営が世間一般のコロナへの対応の変化と、かけ離れている気がします」
と、スポーツライターの小林信也氏は話す。
「スポーツ界はコロナに関して経験を重ねた上で、各競技が対応をかなり緩和しています。そんな中、高校バレーは相変わらず厳しく、高校生がかわいそうだというのが率直な感想です。特に高3はこれが最後の大会なので、気の毒です」
しかも、就実高校の秋山圭子校長の話を聞くに、大会運営のとんでもないずさんさが浮き彫りになる。
「本校は1月5日15時が初戦で、1月3日に抗原検査を受けるように言われ、主催者側が用意した検査キットを使って、生徒18人と監督や引率などチーム全員分の検査をしました。結果は全員陰性で、5日昼過ぎごろ会場入りの際、検体を持っていき、大会実行委員会に提出しました。すると二人分は陰性を示す線が不明瞭なので、二人は別室で再度、検査を受けてくれと言われました。ただ、結果が出る前に係の方が検体を持ち去ってしまい、二人の生徒は結果を確認できないまま待たされ、挙句、“1名が陽性でしたので、ルールによって欠場になります”と告げられたのです」
医療機関では“陰性”だったが…
検体が持ち去られ、自分で結果を確認できないだけに、生徒たちは納得がいかなかったようだ。しかし、
「頼んでも、見せてもらえなかった。そこでホテルに戻って後、学校の抗原検査キットで再度、全員が検査すると、当然、陰性でした。さらに2名を医療機関に連れていき、PCR検査を受けさせると、やはり陰性です。そこで翌6日、陰性と認めてもらうために朝6時ごろから選手と監督が体育館に行き、実行委員の方々を待ち構えて陰性だと訴えましたが、相手にしていただけませんでした。最終的には学園の理事長が合流し、話は聞いていただけましたが、運営側は進行を遅らせるわけにはいかないと」
7日夕にチームは学校に戻ったが、
「みな泣き崩れているという状況。かける言葉もありませんでした。その後、理事長が実行委員会側に直接の説明を求めましたが、できないと言われました」
例年並みの状況なのに
土日も含めほぼ毎日、練習を重ねながら、運営側の不透明な対応で努力がふいになるとは理不尽にすぎるが、そもそもコロナは、陽性者一人が出たらチームを欠場にすべき病気なのか。
「新型コロナはもう5番目の風邪コロナでいい」
と言うのは、浜松医療センター感染症管理特別顧問の矢野邦夫医師である。現在、1日あたりのコロナによる死亡者が過去最高を更新し続け、500人を超えたと騒がれているが、
「いまは高齢者でがんなどの基礎疾患がある人が、偶然コロナに感染して亡くなる、という例が多い。コロナが直接の原因で重症化する例は少なく、死亡者のほとんどはもともと基礎疾患がある人で、複合的な要因があり、最後の決め手がコロナだというだけでコロナ死になっているのです。コロナ禍以前も、冬場は高齢者を中心に風邪やインフルエンザによる死者が増え、高齢者施設でクラスターが起きていましたが、コロナ禍でそれが可視化され、死亡者が増えているように見えている可能性が高い」
老年医学が専門の精神科医、和田秀樹氏も言う。
「例年、インフルエンザ関連死は約1万人で、インフルが直接の死因なのが約3500人。風邪が統計に乗らないのは、こじらせて肺炎が死因になる人が多いからで、肺炎の死者は年間約7万人。誤嚥性肺炎は統計上別枠なので、7万人のほとんどが院内感染か、風邪をこじらせた結果です」
この冬も例年通り、風邪をこじらせる高齢者が多い、というに過ぎないようだ。
実行委員会が認識すべき“弊害”
「いまコロナ死者の97%は65歳以上の免疫力が弱い高齢者。中でも23%が90歳以上、39%が80歳以上です。日本には要介護5の高齢者が60万人いて、それはインフルにかかろうが風邪をこじらせようが、亡くなる可能性が高い人たちです」
春高バレーの対応は、一人でも風邪の疑いがあったら出場させない、というに等しい。秋山校長は、
「理不尽に屈することなく試練を乗り越えていこうと、チームはまとまりました」
と話す。まずはホッとするが、実行委員会は、
「努力して目標を達成するという、思春期ならではの体験の機会を阻害されてしまう」(和田氏)
という弊害を、強く認識してほしいものである。
「週刊新潮」2023年1月26日号 掲載