日本ハム・新庄剛志監督が1月18日の「12球団監督会議」で、「シーズンオフに監督が集まり、クジ引きでセ・リーグとパ・リーグをシャッフルさせたら、さらに野球ファンは盛り上がり野球人気の向上する予感がする」と発言。すぐ話題になった。この提案は、プロ野球の魅力を向上させるアイディアを監督同士が出し合うフリートークの中で出たものらしい。新庄監督はほかにもうひとつ、「将来的に日本一球団とワールドシリーズ王者との真の世界一決定戦の開催も強く望んだ」とサンスポは報じている。
実現を阻んでいるのは
私はふたつの提案に大賛成だ。とくに「真の世界一決定戦」は絶対に実現してほしい。本来なら「日本野球界の悲願」と言ってもいい目標だろうが、誰もが「大人」なのか、「どうせ無理」「実現できるはずがない」と了解し合っているかのように、本気で言及する者がひとりもいない状況だった。今回の新庄監督の提言をきっかけに、「日米決戦、真の世界一シリーズ開催」の機運を盛り上げたいと願うのは私だけだろうか?
そのためには、日本プロ野球の根本的な改革が急務だ。過去30年の間に大きく差が開いてしまった日米プロ野球の経済格差、事業規模の後れを日本が取り戻さないと話にならない。日米決戦が実現したら、NPBもMLBと対等なレベルになるわけだから、メジャーリーガーが活躍の場として日本を選択する可能性が増えるはずだ。ところが、年俸はMLBの十分の一となれば、なかった話になる。つまり、「真の世界一決定戦」の実現を阻んでいるのは、選手の実力差ではなく、プロ野球ビジネスに関わるフロント側の体たらくだという自覚を持ってもらわないといけない。
ファン優先の体質がないNPB
「12球団シャッフル案」は、直後にサッカーの本田圭佑が指摘したとおり、NPBはJリーグと違って「成績が悪くても降格・入れ替えがないNPBの甘さ」を前提にしてのアイディアだ。Jリーグのように、全国にもっと多くのプロ野球チームが発足し、すべてが日本プロ野球の傘の下、一元的に組織されたら活気づくだろう。その方向性を阻んでいるのもまた既存の12球団なのだ。排他的で、既得権益を抱きしめて他に渡すまいとする12球団の時代感覚の後れは救いようがない。
だから、「12球団シャッフル案」はあくまで、現状のNPB組織を崩さない前提で面白くする次善の策。それさえもできないならば、もはや彼らの経営感覚は昭和の彼方を彷徨っているとしか言いようがない。
新庄監督の提言が報じられて、「面白い!」と感じたファンは少なからずいただろう。ところが、そのニュースは新庄監督提供のネタといった感じで、数日後には何もなかったかのように消え去った。メディアも含めて、封殺したかのようだ。
「面白いことならやろうよ!」というファン優先の体質がない。軽快に変わろうとするサービス精神も危機感もない。実際、現在のNPBは、セ・リーグとパ・リーグが組織的に別々に存在している。12球団はひとつの組織じゃないので、新庄監督の提案は非現実的と言われても仕方がない。
揺らぐ読売の足元
しかし、その組織は「絶対に侵すべからず」というものじゃない。面白いことをやるため、プロ野球が新たに発展するためなら、「組織を変えちゃえばいい」だけの話ではないか。会社で言うなら「合併」すれば済む話だ。それをしようとしない、端から無理と一蹴する姿勢が理解できない。そこまでして、守るべき伝統なのだろうか?
こういう時、常に支配的な力を発揮する読売の足元は揺らいでいる。巨人の全国区的人気は下降している。セパ交流試合も、かつてパ・リーグ球団が実現を切望したのは「巨人とやりたい」からだった。しかし、「人気のセ、実力のパ」と呼ばれた時代も今は昔。最近では「人気も実力もパ」の認識が定着している。プロ野球界の人気地図は大きく変わった。
今回の新庄監督仰天プランに反対するのは、むしろ独自の努力を重ねて来たパ・リーグの方かもれない。パは6球団が結束。パ・リーグTVなどを立ち上げてファン・サービスを進めてきた。シャッフルした場合、旧セ・リーグ球団がそうした先進的な企画にすぐ乗って来られるかむしろ不安だろう。
プロ野球選手を知らないリトルシニア
守るべき伝統もある、伝統の良さもある。だが、プロ野球界はもはや古い組織と常識を壊さなければ、いずれ消滅するくらいの危機感が必要な時だと思う。
私は5年前まで、東京でリトルシニアの監督を務めていた。ビックリしたのは、プロ野球を楽しんで見ている選手が10人中ひとり、いるかいないかだったこと。自分の練習と塾通いで忙しい彼らはプロ野球中継など見ていないのだ! 好きな球団を聞いても返事がない。憧れの選手もいない、プロ野球選手を何人も知らない、そういう子どもたちがリトルシニアで野球をやっているとはさすがに驚いた。プロ野球ビジネスに携わる当事者たちは、それほどの時代の変化をわかっているだろうか?
ヤクルトとオリックスが公式戦で戦ったら
さて、せっかくだから、「新庄監督シャッフル案」を採用したら、どんなことになるのか、シミュレーションしてみよう。仮に、一方を「ロ・リーガ」、もう一方を「ア・リーガ」とでも呼ぼうか。スペイン語に深い意味はない(笑)。MLBと区別するのにちょうどいい程度の理由。ア・リーグだとMLBと区別がつかず面倒でしょ? ロはロホ(赤)、アはアスール(青)の略。つまり、正式にはロホ・リーガ(赤組)、アスール・リーガ(青組)。緑でもいいけれど「ヴェルディ」になる。読売支配のニオイがするから却下。とまあ、こんなどうでもいい話題でファンが盛り上がるのも楽しみのひとつでよいのではないか。
勝手なクジ引きで、例えば次の組み合わせになったとしたら?
【ロ・リーガ】北海道日本ハム、千葉ロッテ、読売巨人、東京ヤクルト、オリックス、広島東洋。
【ア・リーガ】東北楽天、埼玉西武、横浜DeNA、中日、阪神、福岡ソフトバンク
ロ・リーガは、2年連続日本シリーズで大接戦を演じているヤクルトとオリックスが公式戦で戦ったらどんな試合を展開するのか? 新庄マジックは、原ジャイアンツに炸裂するのか? ビジターとはいえ、東京ドームで新庄劇場が見られるのはファンにとってうれしいだろう。佐々木朗希(ロッテ)と村上宗隆(ヤクルト)の対決は「令和の名勝負」と呼ばれる期待も大きい。けっこう、新鮮な見どころの多い、楽しみなリーガではないだろうか。
アイディアを出し合う楽しみ
ア・リーガは、阪神、西武、ソフトバンクの「盟主」争いに注目。久々に岡田彰布監督率いる阪神が「巨人さえいなけりゃ、阪神が大将」と誰もが認める存在感を発揮できるか。そのためには3年目佐藤輝明の打棒が鍵。実は佐藤、昨季交流戦で西武、楽天に3試合でヒット1本ずつ。新たな対戦相手となる5球団相手には本塁打7本しか打てていない。佐藤にとっては歓迎できない組み合わせかもしれない。こんな相性も、意外な明暗を分けそうだ。今季から先発に転向する平良海馬(西武)がこの顔触れ相手に圧倒的な無敗神話を築けるか……。
どうだろう? いまのセパだったら実現しない対決や新たな見どころが生まれるシャッフル案は、十分に検討に値すると思いませんか? もちろん、地域が偏らないよう、クジ引きの前に何らかの工夫は必要かもしれない。そういうアイディアを出し合うのもきっと楽しい。
小林信也(こばやし・のぶや)
1956年新潟県長岡市生まれ。高校まで野球部で投手。慶應大学法学部卒。大学ではフリスビーに熱中し、日本代表として世界選手権出場。ディスクゴルフ日本選手権優勝。「ナンバー」編集部等を経て独立。『高校野球が危ない!』『長嶋茂雄 永遠伝説』など著書多数。
デイリー新潮編集部