経験重視の“捕手”は切られづらい

 2月1日のキャンプインで、各球団の補強もひと段落したようだが、山口俊(前巨人)や増井浩俊(前オリックス)、倉本寿彦(前DeNA)といった、実績がありながら、いまだに今季の去就が決まらない選手もいる。その一方で、ここ数年の成績が芳しくないにもかかわらず、不思議となかなか自由契約とならない選手がいることもまた事実である。主な顔ぶれと、昨年の成績を本記事の文末に「一覧表」として並べている。ある意味で“生存能力の高い選手”は、他の選手とは何が違うのだろうか、探ってみた【西尾典文/野球ライター】

 セ・リーグ球団の編成担当者は、“生存能力の高い選手”について、以下のように指摘する。

「ポジションで言うと、捕手は比較的簡単に切られるケースが少ないと思います。レギュラーが1人だけという特殊なポジションで故障することも多いですし、何よりも経験が重視されます。二軍でも、プロ入り間もない捕手がマスクをかぶると上手くいかないこともよくあります。ベテランになると、ピッチャーへのアドバイスやコーチ的な役割を担っている選手が多いですね」

 改めて文末の一覧表を見ると、西田明央(ヤクルト)、大野奨太(中日)、岡田雅利(西武)、江村直也(ロッテ)と、4人の捕手が名を連ねている。この中でレギュラー経験があるのは、大野だけで、他の3人は常に控えとしてプレーしている。それでも10年以上もユニフォームを着続けられるのは、ポジションの“特殊性”をよく表していると言えるだろう。

 また、このオフには、中日が桂衣央利を自由契約としたものの、その後の補強で上手く捕手の獲得が進まずに人数が少なくなり、かつて在籍していた加藤匠馬をロッテから無償トレードで急遽、呼び戻すという事態が起こっている。

 一度レギュラーに定着すると、主力として長くプレーするケースが多いのも捕手だが、一度プロ入りしてある程度のレベルに達することができれば、生き残りやすいと言えそうだ。

“守備の一芸選手”

 一方で、捕手以外のポジションでも目立つことが少ないとはいえ、評価されやすいのは、守備力が高い選手だという。

「よく“一芸のある選手”は強いと言いますが、走攻守で分けた時に、生き残りやすいのは“守備の一芸選手”じゃないですかね。代打の切り札になるような選手は、もともとレギュラーだったケースが多いですし、足が速い選手はどんどんドラフトで入団してきます。ただ、守備は最初から抜群に上手いということはほとんどなく、プロ入り後に鍛えて、徐々に能力が向上していく。キャッチャーの育成と一緒で時間がかかるんですよね。ほかには、様々なポジションを守れる器用な選手も強い。レギュラーが難しければ、ユーティリティプレーヤーとして生き残るというのも、一つの道だと思います」(前出の編成担当者)

 文末の一覧にある選手では、三好匠(広島)が、このタイプと言えるだろう。昨年までのプロ11年間で、一軍で放ったヒットは70本、通算打率は.188という数字だが、セカンドやサード、ショートを守ることができ、その高い守備力には定評があり、一昨年は11打数0安打にもかかわらず、64試合に出場しているというのは見事だ。

 他の選手では、板山祐太郎(阪神)は、運動能力が高く、内外野を守ることができ、昨年限りで引退した熊代聖人(元西武)も、プロ通算108安打ながらユーティリティプレイヤーとして12年間プレーしている。彼らのようなベンチにいてくれると、チームとして助かるという選手も“生存能力”が高いと言えるだろう。

最終的には“人間性”

 ここまでは、ポジション特性や選手の能力について触れたが、プレー以外の面でも“生き残る要素”というのはあるそうだ。

「ドラフト1位の選手は、それだけ高い契約金を払っているわけで、球団としての期待も大きいわけですから、簡単には切りませんよね。また、選手の出身チームも少なからず影響していると思います。逆指名制度はなくなりましたが、毎年のように、ドラフトにかかる選手が出る名門校、強豪校の選手は球団内にもOBの関係者は多いですし、あまり早く戦力外にしてしまうと、その後のスカウト活動に響くようなことがあります。それも言ってしまえば、“伝統の力”かもしれませんね……。あと、最終的には“人間性”です。練習に取り組む姿勢や生活態度がしっかりしていれば、若手のお手本にもなります。こうした評判は各球団の関係者に広がりますから。仮に自由契約になっても、他の球団でチャンスがもらえたり、スタッフとして球団に残れたりすることが多いです」(パリーグ球団の編成担当者)

 逆に言えば、“期待の若手”と思われていた選手が、意外に早く自由契約になるのも、野球への取り組みや生活面に問題があるというケースが少なくないようだ。プロである以上、数字が求められることは当然だが、それ以外の部分が評価されるということもまた事実。華やかな活躍をする選手にスポットライトが当たる一方で、しぶとく生き残る選手もいる……それもまた“プロ野球の醍醐味”の一つと言えそうだ。

【2023年も生き残った主な選手と昨年の成績】

・西田明央(ヤクルト、捕手、プロ13年目)
10試合 4安打0本塁打1打点0盗塁 打率.308

・北條史也(阪神、内野手、プロ11年目)
32試合 8安打1本塁打7打点0盗塁 打率.186

・高山俊(阪神、外野手、プロ8年目)
38試合 10安打0本塁打0打点2盗塁 打率.189

・板山祐太郎(阪神、外野手、プロ8年目)
14試合 1安打0本塁打0打点0盗塁 打率.125

・中村祐太(広島、投手、プロ10年目)
一軍出場なし

・三好匠(広島、内野手、プロ12年目)
10試合 0安打0本塁打0打点0盗塁 打率.000

・大野奨太(中日、捕手、プロ14年目)
8試合 5安打0本塁打0打点0盗塁 打率.294

・岡田雅利(西武、捕手、プロ10年目)
1試合 0安打0本塁打0打点0盗塁 打率.000

・塩見貴洋(楽天、投手、プロ13年目)
一軍出場なし

・江村直也(ロッテ、捕手、プロ13年目)
一軍出場なし

※ポジションはNPBの守備位置登録

西尾典文(にしお・のりふみ)
野球ライター。愛知県出身。1979年生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行う。ドラフト情報を研究する団体「プロアマ野球研究所(PABBlab)」主任研究員。

デイリー新潮編集部