1月27日に選抜高校野球の出場校が決まり、徐々に球春の足音が近づいてくる季節となった。選抜出場校の中にも注目の選手は多いものの、高校球界全体で考えると、最も注目度が高い選手は、花巻東のスラッガー、佐々木麟太郎になるだろう。【西尾典文/野球ライター】
高校通算本塁打数で“清宮”超えも
昨年夏の岩手大会は準決勝で盛岡中央、秋の東北大会では初戦で鶴岡東に敗れて2季連続で甲子園出場を逃したが、これまでに積み上げた高校通算ホームラン数は106本。
順調に行けば、春先に清宮幸太郎(早稲田実業→日本ハム)が持つ最多記録の111本を超える可能性は極めて高く、今年の夏の岩手大会は、大谷翔平(花巻東→日本ハム→エンゼルス)、佐々木郎希(大船渡→ロッテ)の時のように、“麟太郎フィーバー”が起こりそうだ。
ただ、常々言われているように、高校通算本塁打はあくまでも“参考記録”であり、新記録を樹立したからと言って、ドラフト1位が確約されるわけではない。
「今の時点ではトップの評価」
では、このまま佐々木は、今年の“ドラフトの目玉”になるのだろうか。あくまで昨年秋時点での評価としてだが、プロのスカウトからは、以下のような声が聞かれた。
「1年生の時から、スイングスピードの速さと遠くへ飛ばすことに関しては、飛び抜けていました。金属バットとはいえ、あれだけホームランを打てるのはやはり凄いことですよね。ライトに引っ張るだけでなく、左中間のスタンドにも放り込めるというのもいいですよ。バッティングは、清宮と同程度の高い評価になると思います」(セ・リーグ球団スカウト)
「高校生のバッターでは、今の時点では、トップの評価ではないでしょうか。ただし、佐々木は、同世代の選手と比べて、成長が早い。このアドバンテージで、他のドラフト候補をリードしている部分は、少なからずあると思います。(佐々木の父親で、花巻東を率いる)佐々木洋監督からも、そのことは、かなり言われているみたいですね。実際、最終学年になると、驚異的なスピードで成長をする選手が出てきますし、当然、プロや大学に入ってから大化けする選手もいる。将来のことを考えて、佐々木が同世代の選手のなかで、トップの存在であり続けられるかどうか……彼の取り組みなどを見ながら、総合的に判断していくと思います」(パ・リーグ球団スカウト)
時期が時期だけに、まだプロ側の評価が定まっていないのは当然だとはいえ、条件付きながら、佐々木がかなり高い評価を得ていることは間違いないだろう。
「守備の動きは決して良くありません」
その一方で、スカウト陣の間では“不安要素”を指摘する声もある。前出のセ・リーグ球団スカウトは、佐々木の守備と走塁を分析したうえで、こう話す。
「打撃に対する評価が高いことは確かなのですが、それ以外のプレーは、目立たないですよね……。キャッチャーやサードもやっているみたいですが、基本的にファーストの選手だと思いますし、守備の動きは決して良くありません。(昨年、セ・リーグの三冠王に輝いたヤクルトの)村上宗隆は、九州学院時代にキャッチャーだったのですが、足が速かった。清宮幸太郎もベースランニングでスピードがありましたし、プロ入り後は外野を守っています。佐々木が『足が遅くて、ファーストしか守れない』となれば、どうしても外国人選手とポジションが重なりますよね。それを考えて、ドラフト指名を回避するような球団が出てくるかもしれないです」
過去に、前出のスカウトが指摘するようなケースがあった。2017年のドラフト会議では、清宮に対して、日本ハムをはじめ、巨人や阪神、ヤクルト、ソフトバンク、楽天、日本ハム、ロッテという7球団の1位指名が競合した。しかしながら、広島などは「(清宮には)足の速さがない」という理由で、早々に指名を回避している。指名打者制がないセ・リーグは、「ファースト専門」の選手を高く評価しづらいという事情はありそうだ。
150キロ超えのストレートへの対応も課題
また、最大の持ち味であるバッティングにも“不安要素”があるという。前出のパ・リーグ担当スカウトが、以下のように指摘する。
「特に、高卒でプロ入りした選手の場合、変化球への対応に誰もが苦しみますが、その前に、まず速いストレートをしっかり打てるかという点が重要だと思います。(以前に比べて)アマチュアのピッチャーもスピードが速くなったとはいえ、プロもそれ以上にストレートのレベルが上がり、150キロ以上のストレートが当たり前になっています。特に、ホームランバッターは、体に近いところの速いボールで攻められることが多いので、こうした球をしっかりとらえられるかが重要ですね。佐々木は、まだ速いボールへの対応に苦労しているように見えます。そのあたりは春以降、速いストレートにどう対応していくのか、(継続して)チェックしていくと思います」
佐々木の速いストレートへの対応は、十分だといえない。昨年の選抜で、市和歌山の最速150キロ右腕、米田天翼と対戦した時には、4打数ノーヒット、2三振と完璧に抑え込まれている。さらに、夏の岩手大会・準決勝の盛岡中央戦で、斎藤響介(オリックス3位)から2安打を放つも、いずれも完璧に差し込まれた当たりで、快音は聞かれなかった。彼らのようなレベルの高い投手が投げ込むストレートをいかに打つか。最終学年での大きな課題になりそうだ。
もう一つ気になる点は、故障が多いことだ。1年秋に左足のすねを疲労骨折で負傷したほか、この年のシーズン後に、神経や血流の障害で手がしびれたり、腕に力が入りにくくなる「胸郭出口症候群」で両肩を手術している。このほかにも、先ほど触れた盛岡中央戦で手人差し指を骨折。また、昨秋の東北大会後の練習試合でも、足を痛めたままプレーしていたという。この状態で、これだけホームランを量産しているのは、さすがとも言えるが、しっかりコンディションを整えて、フィジカル面を鍛える必要はあるだろう。
あらゆる“不安要素”を挙げたが、佐々木のスイングとホームランの弾道を見ると、ポテンシャルの高さは相当なものがある。今秋に開かれるドラフト会議に向けて、佐々木がさらに成長した姿を見せてくれるのだろうか。
西尾典文(にしお・のりふみ)
野球ライター。愛知県出身。1979年生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行う。ドラフト情報を研究する団体「プロアマ野球研究所(PABBlab)」主任研究員。
デイリー新潮編集部