高校生離れした「投球術」と「勝負勘」

 1月27日、第95回選抜高校野球に出場する36校が発表された。“春はセンバツから”と言われ、アマチュア野球の中で最初に開かれる大きな大会だ。プロ注目のスラッガー、佐々木麟太郎は、花巻東が昨年秋の東北大会初戦で敗れたため、残念ながら選抜に出場できないが、スカウト陣から注目を集める選抜出場選手は非常に多い印象だ。【西尾典文/野球ライター】

 なかでも、投手は前田悠伍(大阪桐蔭)、野手では真鍋慧(広陵・一塁手)が
その筆頭株だ。ともに1年時からチームの中心となり、選抜の前哨戦と言える秋の明治神宮大会では2年連続で決勝の舞台で対戦している(試合はともに大阪桐蔭が勝利)。

 前田は、もちろんボール自体も高いレベルにある。それに加えて、高校生離れした「投球術」と「勝負勘」が大きな魅力だ。昨年秋の近畿大会は、故障を抱えながらの投球で決して本調子ではなかった。それでもチームを頂点に導いたのは見事という他ない。

 真鍋は、前出の佐々木と“双璧”と言われる左のスラッガー。“広陵のボンズ”という異名があり、無駄な動きのないスイングで、軽々とスタンドへ運ぶ長打力は圧倒的だ。本記事の文末に、2人の甲子園および、明治神宮大会の通算成績をまとめたので、是非ご覧頂きたい。全国の舞台で、これだけの数字を残しているのは見事という他なく、順調にいけば、“ドラ1候補”になる可能性は極めて高い。

「高校から投手を始めたとは思えない」

 前田と真鍋以外で、上位指名が狙えそうな選手となると、投手は平野大地(専大松戸)、野手では堀柊那(報徳学園・捕手)の名前が挙がる。

 平野は、中学で強豪チーム「取手シニア」でプレーしていたが、当時は主に捕手を任されていた。本格的に投手の練習を始めたのは、高校入学後にもかかわらず、昨年夏に早くも150キロをマークし、スカウト陣の注目を集めた。

 昨年秋は、肋骨を痛めた故障明けで、万全の状態と言い難かった。それでも大事な試合で、好投を見せチームを関東大会準優勝に導いている。

「(昨年秋の時点では)まだ少し下半身よりも上半身の強さが目立ちましたが、“出力の高さ”は高校生でトップクラスです。同じ高校の先輩の横山陸人(ロッテ)や深沢鳳介(DeNA)と比べても、ボールの勢いは、平野のほうが明らかに上です。秋の関東大会は故障明けだったことから、あまり期待せずに見ていましたが、意外に変化球も上手く使えていました。とても高校からピッチャーを始めたとは思えませんね。フィールディングもいいですよ。このまま行けば、当然上位候補になると思います」(関東地区担当スカウト)

 2019年の選抜では、奥川恭伸(星稜→ヤクルト)と河野佳(広陵→広島)が150キロ以上のスピードをマークしていたが、一昨年と昨年の大会では150キロを超える投手はいなかった(※2020年は新型コロナウイルス感染拡大の影響で大会中止)。平野が本来の調子を取り戻せば、選抜で4年ぶりとなる“150キロの大台突破”も十分に期待できるだろう。

「二塁送球タイム」が1.7秒台の強肩

 一方の堀は、1年秋から正捕手として活躍している。何といっても彼の魅力は、高校生とは思えないスローイングだ。捕手の「二塁送球タイム」は2.00秒を切れば“強肩”と言われる。堀は、コンスタントに1.8秒台前半をマークしている。さらに筆者は、昨年秋の近畿大会で“最速1.78秒”という驚くべきタイムを計測した。かれこれ20年以上、現場でドラフト候補のプレーを見てきたが、過去に高校生で1.7秒台をマークした選手は、炭谷銀仁朗(平安→西武→巨人→楽天)と松尾汐恩(大阪桐蔭→DeNA)のみだ。

 炭谷と松尾が、ともに“ドラ1”でプロ入りしたことを考えても、堀が叩き出したタイムが、いかに高いレベルかがよく分かるだろう。関西地区担当スカウトのひとりは、堀について、以下のように分析している。

「地肩の強さ、フットワーク、キャッチング、キャッチャーに必要なベースとなる能力は問題なしですね。特に、スローイングは、なかなかいない高いレベルだと思います。一方、バッティングは春、夏、秋と見る度に良くなっています。高校生としては、十分に“打てる捕手”だと思います。残された課題はインサイドワークといった細かい部分ですね。春は、こうした課題を、ちゃんとクリアしてくるのかに注目したいです」

 報徳学園は、昨年秋の近畿大会では決勝で大阪桐蔭に0−1で惜敗したものの、堀自身は4試合で打率.588、長打3本、3盗塁と、攻撃面で素晴らしい成績を残した。筆者は、2年秋の時点で比較すると、前出の松尾を堀が上回っているように見える。若手捕手が不足している球団にとって“垂涎の的”となりそうだ。

強豪校相手の“奪三振ショー”に期待

 それ以外の候補を見てみよう。投手は、高橋煌稀、仁田陽翔、湯田統真(いずれも仙台育英)、ハッブス大起(東北)、小玉湧斗(健大高崎)、日当直喜(東海大菅生)、宮国凌空(東邦)、中村太星(履正社)、盛田智矢(報徳学園)、東恩納蒼(沖縄尚学)の10人。

 野手は、鈴木叶(常葉大菊川・捕手)、坂根葉矢斗(履正社・捕手)、豊田喜一(長崎日大・捕手)、青山達史(智弁和歌山・三塁手)、山田脩也(仙台育英・遊撃手)、米津煌太(大垣日大・遊撃手)、小川大地(大阪桐蔭・遊撃手)、西稜太(履正社・外野手)、知花慎之助(沖縄尚学・外野手)の9人だ。

 いずれの選手も、昨年秋の時点では、最初に挙げた前田、真鍋、平野、堀と比べると、スカウト陣の評価が高くないとはいえ、最終学年で浮上する可能性を秘めた選手がいる。今後の成長が楽しみな選手として、健大高崎のエース・小玉湧斗、履正社のセンター・西稜太に注目したい。

 小玉は、投手としては小柄(身長174cm、昨秋時点)だが、全身を使ったフォームで躍動感がある。好調時のストレートはコンスタントに140キロを超え、球速以上に、ボールに勢いが感じられる。

 昨年11月に行われた秋の近畿大会に出場した近大新宮との練習試合で、6回を投げて被安打2、無失点、11連続を含む「14奪三振」と圧巻の投球を見せた。選抜でも、強豪校相手の“奪三振ショー”に期待したい。

 西は、高いレベルで走攻守三拍子揃った“万能タイプ”の外野手。こちらも決して体(173cm74kg、昨秋時点)は大きくないものの、長打力と確実性を備えた打撃は高校生でトップクラスだ。

 昨年秋の近畿大会では、初戦の瀬田工戦でホームラン、スリーベース、シングルヒットとあわや「サイクルヒット」という大活躍を見せた。今年は、高校生の外野手に有力候補が少なく、選抜の活躍次第で、西が上位候補に浮上することも十分に考えられる。

<全国大会通算成績>
◆前田悠伍(大阪桐蔭)
10試合 58回1/3 被安打36 自責点11 72奪三振 22四死球(17四球、5死球)
防御率1.70 被安打率5.55 奪三振率11.11 四死球率3.39 WHIP0.91
※WHIPは1イニングあたりの被安打+与四球

◆真鍋慧(広陵)
8試合 33打数 17安打 3本塁打 9打点 打率.515 出塁率.553 長打率.818 OPS1.371

西尾典文(にしお・のりふみ)
野球ライター。愛知県出身。1979年生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行う。ドラフト情報を研究する団体「プロアマ野球研究所(PABBlab)」主任研究員。

デイリー新潮編集部