何かと揺れている世界のゴルフ界から、またもや妙な話が聞こえてきた。PGAツアーとリブゴルフの対立の余波で、さまざまな“事件“が起きているのだ。【舩越園子/ゴルフジャーナリスト】

ゴルフ場が使えない

 昨年の全英オープンを制覇したオーストラリア出身のキャメロン・スミス が、米フロリダ州の自宅周辺では練習場所が得られないという何とも奇妙な話が伝えられた。彼は昨年9月からリブゴルフに参戦している。

 スミスの自宅があるのはフロリダ州のポンテベドラビーチ。PGAツアーの本部も同じくポンテベドラビーチにあり、そのフラッグシップ大会であるプレーヤーズ選手権の舞台となるTPCソーグラスは、スミスの自宅の目と鼻の先に広がっている。

 プレーヤーズ選手権でも勝利しているスミスは、もちろんTPCソーグラスのメンバーであり、コースを回りたいときに回り、好きなときに練習施設を利用できるはずだ。

 だが、米ゴルフウィーク誌によれば、スミスはこのTPCソーグラスだけでなく周囲の別のコースでも、あれこれ理由を付けられてプレーをさせてもらえないのだという。

 それならば、ということで、スミスは少し離れた別のエリアのゴルフクラブのメンバーシップを買おうとした。しかし、どのゴルフクラブからも「ウェイティングリストには載せますが、いつ空きが出ることやら」といった返答しか得られなかった。しかも、ゴルフ場が利用できないのみならず、近所のスーパーマーケットやガソリンスタンドで列に並ぶ際も、何かと嫌がらせを受けているという目撃情報があるという。

 そして、その一帯では、「PGAツアーの言うことを聞かなければ、今後、このゴルフ・コミュニティではビジネスができなくなる」という噂話が聞こえてくるのだとか。PGAツアーに背を向けてリブゴルフへ移籍したスミスに対して、あたかもPGAツアーが嫌がらせをしているかのような話が、まことしやかに囁かれているのだ。

 もちろん、すべては噂レベルの話。証拠も確証もない。

 PGAツアーとリブゴルフの対立は、すでに法廷闘争に発展しつつあるのだから、あからさまに周辺に圧力をかけたりすれば、のちのち裁判で不利になることは明白である。そんな馬鹿げたことを、PGAツアーがわざわざ大っぴらにするとは考えられない。

 しかし、誰かが見聞きした小さな出来事にどんどん尾ひれがついて、話が大きくなってしまうことはあるだろう。この奇妙な「ありえない話」は、そうやって肥大化してしまったものであってほしいと心の底から願っている。

挨拶を無視?

 昨年6月にリブゴルフが創設されて以来、PGAツアーとの確執は、しばしば双方の選手同士の確執に置き換えられる形で取り沙汰されてきた。

 リブゴルフ選手はPGAツアーには出場できない状態だが、欧州のDPワールドツアーには出ることができる。

 DPワールドツアーの2023年開幕戦、ヒーロー・ドバイ・デザートクラシックでは、PGAツアーのロリー・マキロイとリブゴルフへ移籍したパトリック・リードの大人げないケンカが大きな話題になった。

 久しぶりに同じ土俵に立つことになったリードは、開幕前、練習場で球を打っていたマキロイの打席に歩み寄り、「ハロー!」と声をかけた。

 マキロイのキャディは「ハロー」と返して握手をしたが、マキロイはリードに背を向ける格好で打席にしゃがみ込み、完全無視。するとリードは不愉快そうな表情を浮かべ、その場を去ろうと歩き出したのだが、振り向きざまに手にしていたティペッグをしゃがんでいたマキロイに放った。

 そのティペッグは、リードのリブゴルフにおけるチーム名やロゴが記されたオリジナル・グッズだったそうで、リードは「ほんのジョークだよ」と振り返る。そのときの様子を捉えた動画を見る限り、たしかにリードはティペッグを軽く放った程度だった。

 しかし、目撃談などを交えて世に広まった話は、「リードがマキロイにティを投げつけた事件」、名付けて「ティーゲート事件」となった。

もう一つの事件

 次なる騒動はマキロイとは関係なく、リード自身が遭遇したルールに関する事件だ。

 3日目の17番で、リードのティショットは背の高い3本のパームツリーの方向へ飛んでいき、そのあたりで「消えた」。リードは「木に突っ込んだ。(上方の葉っぱが固まっている部分に)引っかかって止まっている。100%確かだ」と主張。

 ルール委員らも木を見上げ、「あれだ、あれだ」とボールを発見した。樹上のボールを確認したことで、リードはアンプレアブルを宣言。その場でドロップして3打目を打ち、ボギーで収めることができた。ボールが発見できなければ、ティグラウンドまで戻った上で、そこから3打目を打つ必要があった。

 だが、その後、動画を見返したメディアや視聴者から「リードのボールは別の木の中に突っ込んでいる」などと指摘され、彼の主張が誤りだったという説が広まった。

 とはいえ、真実はわからず、リードのルール処置に対する訂正等々の対応もツアー側からは何もなされなかった。そんな中、「まるでリードが故意に嘘を言ったかのような報道はおかしい」という声が、一部のPGAツアー選手から上がった。

 リードはリードで「僕はどの木かを特定してはいない。ボールのマーキングを聞かれたから、それを説明しただけ。あの木だと特定したのはボランティアやマーシャルたちだ」と反論した。

 一方的にリードを嘘つき扱いして批判するのはフェアではないと私も思う。だが、リードの責任転嫁は、それはそれで耳を疑うほど呆れた発言だった。

「ゴルフの戦いは、こうあるべきだ」

 そんなふうに開幕前も開幕後も「事件」続きだった大会だが、最終日の優勝争いは実に見応えがあった。

 首位を走っていたマキロイにリードが猛追をかけ、ついには首位に並んで先にフィニッシュ。マキロイは72ホール目でバーディーを奪えば優勝、パーならサドンデス・プレーオフに持ち込まれるところまで追い詰められた。おまけに、マキロイの第1打はラフに飛び込み、ペナルティエリアの赤線ギリギリの草の中に沈み込んでいた。

 しかし、そんなライの悪さをものともせず、マキロイはバーディーを奪って勝利。その戦いぶり、勝ちっぷりは圧巻だった。

「メンタル的に、これまでで最も厳しい戦いだった。リーダーボードに誰がいるかを考えると、思わず感情が溢れ出してしまいそうになるけど、その中でよくコントロールできたと思う」とマキロイはご満悦の様子だった。

 マキロイだけではない。リブゴルフへ移籍した代表選手のような存在のフィル・ミケルソンも、思わずこんなツイートをした。

「ロリーとパトリックの熱い戦いは素晴らしかった。ゴルフの戦いは、こうあるべきだ」

 その通り。アスリートなら、トップ・プレーヤーなら、正々堂々とゴルフで戦ってほしい。ゴルフそのものの勝ち負けなら、妙な噂をされることも、批判されることもない。

 選手が毅然とした態度や姿勢を貫いていれば、興味本位で語られる面白半分のストーリーはいつしか消えていくのではないだろうか。私はそう信じたい。

舩越園子(ふなこし・そのこ)
ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学客員教授。東京都出身。早稲田大学政治経済学部経済学科卒。1993年に渡米し、在米ゴルフジャーナリストとして25年間、現地で取材を続けてきた。2019年から拠点を日本へ移し、執筆活動のほか、講演やテレビ・ラジオにも活躍の場を広げている。『王者たちの素顔』(実業之日本社)、『ゴルフの森』(楓書店)、『才能は有限努力は無限 松山英樹の朴訥力』(東邦出版)など著書訳書多数。1995年以来のタイガー・ウッズ取材の集大成となる最新刊『TIGER WORDS タイガー・ウッズ 復活の言霊』(徳間書店)が好評発売中。

デイリー新潮編集部