収益は日本からのものが大きいはずだが…

 激闘の決勝戦が終わり、2週間にわたる戦いに幕を閉じたWBC。現役バリバリのメジャーリーガーをそろえた日本代表の快進撃は、なお鮮烈な残光を放っている。しかし、収益では日本が貢献しているにもかかわらず、利益の配分が不透明で公平な構図になっていない、という問題点も指摘されている。

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 かくも盛り上がりを見せたWBC。国内での経済効果は破格の600億円とも試算されたというが、

「納得できないのは、これだけ日本が収益に貢献したのに、利益の配分などが不透明で不公平な構図になっていることです」

 とは関西大学の宮本勝浩名誉教授(経済学博士)だ。

 どういうことか。

 そもそもWBCは、MLBとMLB選手会が作ったWBCIなる企業が主催している。この規定によれば、入場料や放映権料、スポンサー料やグッズの商品化などの利益はWBCIが吸い上げ、その66%を彼らが得て、残りを他の国に分配する。NPBに認められた枠は13%だという。しかしWBCの盛り上がりは日本が一番。その収益も日本からのものが大きいはず……との声もある。

ようやく各代表へのスポンサー権が承認

「もともとWBCでは、日本代表に対するスポンサー権も認められていなかったんです」

 とは、日本プロ野球選手会の森忠仁事務局長だ。

「日本代表のスポンサーをしたいという企業があってもWBCIに対してスポンサー料を支払うという、歪な構図になっていました。選手会で交渉するなどしてようやく各代表へのスポンサー権が認められた。これは大きな前進です。66%と13%という配分率の改善も課題のひとつですね。この大会に関しての日本の貢献度は大きいですから」

 大会発足の前に、NPB側としてアメリカ側との交渉に関わった、桜美林大学の小林至教授によれば、

「当時も収益の分配の仕方について、WBCI側は主張を曲げようとしませんでした。収入も支出もすべてWBCIが管理する大会ですから、彼らの腹次第になるのはある意味、当然の話とはいえます」

 今後も日本にとっては、厳しい構図が続いていきそうである。

“ポエム度”が高くメディア泣かせ

 そんな侍ジャパンを率いた栗山英樹監督(61)について。これだけのスターを招集したことに関して、アメリカでは「タフネゴシエーター」と評されるなど、評価はずいぶん上がったが、一貫して取材してきたスポーツ紙のベテランWBC担当記者の目には、ある異変が目についたという。

「もともとその傾向にありましたが、今大会では言葉の“ポエム度”がかなり上がっていました」

 として続ける。

「会見でも“日本野球の魂”“気持ちで勝つ”といった精神論を連発する。文字に起こしづらく、メディア泣かせの会見でした」

 実際、彼の今大会での語録を振り返ってみても、「夢の実現」「魂のぶつかり合い」「選手を信じている」など、確かに熱量が高いのだ。

「記者の間では『長嶋(茂雄)さん化』と話題になっていましたよ」

 と別のスポーツ紙の中堅WBC担当記者が笑う。

「口癖は“野球の神様”。東日本大震災で父を亡くした佐々木朗希が3月11日に登板しましたよね。ローテーションとたまたま重なっただけでしたが、会見では“野球の神様が頑張れと言っている”と。選手が故障で離脱した時も声を詰まらせていた。今の選手は精神論が嫌いなのによくついていったものです。ある意味、名将といえるのではないか、と」

 2週間の熱狂の末に閉幕したWBC。しかしその攻防の鮮烈な残光は、まだしばらく消えそうにない。

「週刊新潮」2023年3月30日号 掲載