甲子園で“清原人気”は健在
今年の選抜高校野球は、元プロ野球選手の“2世選手”が注目を集めた。筆頭株は、西武や巨人などで活躍した清原和博を父に持つ、慶応(神奈川)の清原勝児である。【西尾典文/野球ライター】
慶応は、初戦で仙台育英(宮城)に延長10回(タイブレーク)、2対1でサヨナラ負けを喫したものの、「5番、サード、清原くん」という場内アナウンスが流れると、三塁側アルプスに陣取る慶応応援団のみならず、球場全体から大歓声が起こった。
期待に応えた清原は、甲子園初打席でプロ注目の左腕、仁田陽翔(3年)が投じた真ん中高めのストレートを弾き返し、ツーベースヒットを放った。現地でその様子を見守った父・和博が感極まった表情を見せるシーンは、中継映像でも流れた。「KKコンビ」率いるPL学園が、甲子園を席捲してから40年ちかい歳月が流れたが、“清原人気”は依然として健在である。
プロ入りへ期待も膨らむが、各球団のスカウト陣は、高校野球ファンの熱狂とは異なり、極めて冷静に見ているようだ。関東地区担当スカウトは、清原の実力について、以下のように分析する。
「パンチ力は、良いものを持っていると思いますよ。ただ、守備と走塁はまだまだですね。慶応の選手は、ほぼ100%、慶応大に進学しますから、(ドラフト指名するか否か)今、どうこういうような選手ではないですね……」
大阪桐蔭のエースから二安打
清原は、今大会では5番を任されたものの、昨年秋の大会までは6番、7番を打つことが多く、慶応で完全な中軸打者の位置を確立できたわけはない。前出のスカウトが指摘するように、仙台育英戦では8回に記録上はヒットになったが、一塁への送球がそれる場面があった。走塁はどうか。筆者が現地で1塁や2塁への「走塁タイム」を計測したところ、出場選手の平均タイムより遅かった。
すでに報じられているが、清原は、“単位不足”で留年している。年齢は今年18歳になるが、学年は2年生。年齢制限で、来年は高校の公式戦に出場できない。慶応大に進学して野球を続けるにしろ、このままでは、高校時代に「1年間のブランク」が出来てしまう。今の実力と、このブランクを考慮すると、現段階で、清原がドラフト戦線に浮上することは厳しいと言わざるを得ない。
一方で、注目度は清原に劣るものの、将来性豊かな“二世選手”がいる。元オリックス・高見沢考史氏を父に持つ、敦賀気比(福井)の4番、サードの高見沢郁魅(3年)もそのひとりだ。
チームは初戦で大阪桐蔭(大阪)に敗れたものの、高見沢は、世代ナンバーワン投手の呼び声が高い前田悠伍(3年)から2安打をマークした。ファーストへのスローイングが秀逸で、セ・リーグの担当スカウトは「今大会出場したサードで高見沢はナンバーワンではないか」と評価していた。
身長182cm、体重81kgと体格も大きく、さらに筋力がつけば、長打力の向上が期待できる。今後が楽しみな「大型サード」といえるだろう。
注目度を増す“大型右腕”
そして、筆者がスカウト陣に取材すると、最も名前があがっていた“2世選手”は、東邦(愛知)の大型右腕、山北一颯である。父は、元中日などで中継ぎとして活躍した山北茂利。191cmの大型左腕で、中日時代の2002年から2年連続で57試合に登板している。
山北は、「背番号10」の控え投手であるが、2回戦の高松商戦で先発を任された。6回を1失点の好投で、チームを勝利に導く。昨秋の東海大会では登板がなく、続く明治神宮大会でも、リリーフで2回を投げたのみで、ほとんど“ノーマーク”の右腕だった。
「先発を言われたのは、試合の3日前です。いざ、球場に入ると、少し緊張しましたが、結果を残せて良かったです。いつも自分は、スピードばかりを気にして崩れてしまうことがあるので、今日は(スピードを)気にせず、ストライク先行で打たせてとることを意識しました。初めての全国舞台での先発で、これだけのピッチングができたので、70〜80点くらいはつけられると思います。父には前日の夜に先発することを伝えましたが、『自分は(高校時代に)甲子園で一回も投げていないから、何言っていいか分からないけど、とにかく頑張れ!』とだけ言われました(笑)」(山北)
“偉大な父”を持つ選手は他にも
この日の山北は、6回を投げて被安打7、無四球。被安打は少ないとはいえないが、安定感を感じるピッチングを見せた。ストレートの最速は142キロ(自己最速は145キロ)をマークしている。
「まだ、動きがギクシャクした投げ方で、体はできていないと思います。ですが、フォームに悪い癖があるわけではないですね。やはり、あれだけの長身(189cm)は魅力的です。しっかりと体を鍛えれば、スピードは、まだまだ速くなりそうです。我々(スカウト)は、選抜や『夏の甲子園』では、基本的に全チーム(の初戦)を一通り視察したら、甲子園を離れるのですが、(1回戦を突破した)東邦は、出場校で最後に登場した高松商と2回戦で対戦したことで、山北の投球を見ることができました。この試合で、多くのスカウトに、その存在が認識されたと思います。山北にとっては、ラッキーでしたね」(セ・リーグ球団のスカウト)
山北は、万全な実績があるわけはなく、体もまだ細いため、筆者は、大学に進学する予定だという話を耳にしている。数年後のドラフト戦線を賑わせるような右腕に成長する可能性を秘めた選手として、今後活躍を期待したい。
このほかの“2世選手”の活躍も簡単に触れておこう。中日の二軍打撃コーチを務める上田佳範(元日本ハムなど)の次男、耕晟が、東邦の6番、センターで出場して、初戦の鳥取城北戦で2安打を放った。
元ヤクルト・宮本慎也の長男、恭佑(東海大菅生・投手)や、広島でスカウトを務める高山健一(元広島)の次男、裕次郎(健大高崎・外野手)はいずれも2年生で甲子園の土を踏んでいる。
前出の山北は、父がプロ野球選手だったことについて「中学時代までは、周りからそういう目で見られて大変なこともあった」と話していた。偉大な父を持ちながら、甲子園で活躍する選手にまで成長した裏には、本人にしかわからない苦労があったことだろう。
ここで挙げた“2世選手”が大舞台で結果を残したことは大きな自信となったはずだ。今後も、プレッシャーに負けることなく、さらにレベルアップした姿を見せてほしい。
※本文中の出場選手の学年は、2023年度のもの。
西尾典文(にしお・のりふみ)
野球ライター。愛知県出身。1979年生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行う。ドラフト情報を研究する団体「プロアマ野球研究所(PABBlab)」主任研究員。
デイリー新潮編集部