今季2つ目のメジャー大会、全米プロゴルフ選手権(5月18〜21日、米ニューヨーク州オークヒルCC)は、33歳のブルックス・ケプカ(米)の優勝で幕を閉じた。この優勝はケプカにとって2018年と2019年に続く全米プロ3勝目となり、2017年と2018年の全米オープン連覇と合わせると、メジャー5勝目となった。【舩越園子/ゴルフジャーナリスト】

リブゴルフの株を上げた

 ケプカは今年4月のマスターズでも、最終日を単独首位で迎え、優勝に手を伸ばした。しかし、サンデー・アフタヌーンに75と崩れ、2位タイに甘んじた。

 かつては「メジャーに出ては勝つ男」「メジャー最強の選手」「鉄の心臓の持ち主」などと言われていたケプカだが、今年、マスターズ最終日に崩れて負けた後は、「ケプカはチョークした(ビビった)」「すっかり脆くなった」などとSNSで書き立てられた。

 しかし、それからわずか1カ月後、深いラフに覆われて「超」が付くほど難しい設定だったオークヒルで、2位に2打差を付けて勝利。彼にとっては、最高のリベンジになった。

 だが、ゴルフ界の見方は少々異なり、彼の今回の勝利は「リブゴルフ選手が初めてメジャー大会を制覇した」というところに最大の意義があると見ている。

 もっとも、ケプカ自身はそうは考えていないようで「僕の優勝はリブゴルフにとって“ヘルプ”にはなる。でも僕は正直なところ、自分のことしか考えていない。僕は全米プロを戦う1人のプレーヤーとしてここにいる。そして優勝トロフィーを家に持ち帰ることができる。それが何より嬉しい」と言い切った。

 そうは言っても彼の勝利がリブゴルフの株を上げたことは事実だ。ケプカのみならず、4位タイのブライソン・デシャンボー(米)、9位タイのキャメロン・スミス(豪)を含めると、トップ10に3名、トップ20には5名のリブゴルフ選手が食い込んだ。

 この実績はケプカの言葉を借りれば、リブゴルフの価値や存在感を示す上で「ヘルプ」どころか「ビッグ・ヘルプ」になる。

 さらに、先月のマスターズでトップ6のうち半数がリブゴルフ選手だったことを考え併せると、彼らのメジャー2大会での奮闘ぶりは、リブゴルフにとって「ビッグ・ヘルプ」を上回る「グレート・ヘルプ」になったと言うことができる。

来年の全米プロには5名が出場

 今年の全米プロでトップ15入りした選手は、来年の出場資格が与えられる。この条件に当てはまったリブゴルフ選手は、ケプカ、デシャンボー、スミスの3名だけ。パトリック・リード(米)らは僅差でトップ15入りを逃した。

 しかし、過去の全米プロ覇者であるフィル・ミケルソン(米)、他のメジャー大会の5年以内の覇者であるダスティン・ジョンソン(米)も来年の出場が約束されており、すでに現時点で2024年大会には5名のリブゴルフ選手の出場が決定している。

 世界ランキングのポイントを稼ぐことができず、順位が下降の一途にあるリブゴルフ選手の中での「5名」は、ビッグ・ナンバーと見るのが妥当だ。

なぜこんなに強くなったのか

 そして全米プロが終了した翌日の5月22日には、早くも次なるメジャー大会、全米オープンの地区予選の一部が行なわれ、そこでもリブゴルフ選手の奮闘が見られた。世界ランキングや欧米ツアーでの優勝実績といった条件を満たすことができない選手たちが、自力で出場資格を手に入れるための36ホールのワンデー・オープン予選を戦っているのだ。

 世界に先駆けて5月16日に行われた英国予選では、84名の挑戦者のうち7名が出場権を獲得。22日の日本予選では29名による戦いを経て、石川遼など3名が今年の大会の舞台となるロサンゼルスCCへの切符を掴み取った。

 そして同じく22日、米国ではテキサス州ダラス予選が行われ、リブゴルフ選手のセルヒオ・ガルシア(スペイン)が、参加者120名のうち8名だけが通過できる狭き門を潜り抜けた。米国での予選は6月5日にも全米10カ所で行われる予定だが、そこにはリブゴルフ選手がさらに20名ほどエントリー済みだと見られている。

 昨年の夏ごろリブゴルフ選手たちは、世界ランキングのポイントが付与されないために順位が低下し、メジャー大会への出場が危うくなっていくことに怒りの声を上げていた。リブゴルフを率いるグレッグ・ノーマンCEOも、世界ランキングの対象ツアーとなるために手を尽くし、弱小ツアーと提携してそのツアーの下部に入るという苦肉の策まで講じた。しかし、その奇策は思惑の通りには運ばず、失敗に終わった。

 そんな経緯を経たリブゴルフ選手たちは、どうやら腹を括った様子である。「世界ランキングのポイントがもらえないのなら、あらゆるチャンスを逃さずに活かし、なんとしてでもメジャー大会に出てみせる」という気概が、全米プロでの奮闘ぶりや全米オープン地区予選への積極的な挑戦から伝わってくる。

 切羽詰まってきたからこそ、彼らのサバイバル本能が自ずと高まってきたのだと私は思う。

かつて批判した者も…

 そうやってリブゴルフ選手たちが、たとえ数名であってもメジャー大会に挑み続けていけば、リブゴルフとメジャー大会が完全に切り離されることはない。たとえリブゴルフ選手に世界ランキングのポイントが付与される日が来なくても、彼らがメジャー大会の場から完全に消え去ることはおそらくはないだろう。

 そもそもリブゴルフ選手の大半は、元々はPGAツアーでトッププレーヤーとして活躍していたのだ。ゴルフの調子や心身の状態など、さまざまな条件がうまく嚙み合ったとき、メジャーを制する可能性は十分にある。

 今回のケプカの勝利は、その可能性の高さを実証する形になったと言えそうだ。

 ビッグマネーをちらつかされてリブゴルフへ移籍した彼らは、「腑抜け」と揶揄された。さらに、予選カットなしの3日間54ホールだけしか戦わずして破格の賞金が約束されている彼らのことを、「牙を抜かれたアスリート」と批判する者もいた。

 だが今、彼らは再び牙を取り戻し、研いだ牙を剥き出しにして挑み始めているのではないだろうか。世界ランキングの道が閉ざされ、窮したからこそ本気になったのだとすれば、リブゴルフ選手たちのこれからはいろんな意味で面白くなる。

舩越園子(ふなこし・そのこ)
ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学客員教授。東京都出身。早稲田大学政治経済学部経済学科卒。1993年に渡米し、在米ゴルフジャーナリストとして25年間、現地で取材を続けてきた。2019年から拠点を日本へ移し、執筆活動のほか、講演やTV・ラジオにも活躍の場を広げている。『王者たちの素顔』(実業之日本社)、『ゴルフの森』(楓書店)、『才能は有限努力は無限 松山英樹の朴訥力』(東邦出版)など著書訳書多数。1995年以来のタイガー・ウッズ取材の集大成となる最新刊『TIGER WORDS タイガー・ウッズ 復活の言霊』(徳間書店)が好評発売中。

デイリー新潮編集部