「失業率が5割弱になる可能性」

 8月10日、アメリカのバイデン大統領は「中国は時限爆弾だ。問題を抱えている」と中国経済の今後に懸念を示した。実際、4〜6月期の実質GDP成長率は前期比1%に満たない値となっている。不況のあおりを受け、若者の失業率もとんでもない数字に跳ね上がっており――。

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 中国国家統計局は、6月の16歳から24歳の失業率が過去最高の21.3%に達したと発表したが、翌月分から統計方法を見直すとして公表を取りやめた。経済部デスクによれば、

「北京大学の副教授が“3月の若者の失業率は46.5%”と書いたオンライン記事が削除される騒動がありました。中国の公式統計は就職活動を行う若者を対象にしており、学生でもなく就職活動もしていない、日本でいうニートなど1600万人を含めれば、失業率は5割弱になる可能性を指摘したのです」

 事実、北京大学や清華大学の卒業生、国内では超のつくエリートたちでさえ働き口がない現実があるのだ。

名門大学を出ても…

「名門大学を出た若者が、フードデリバリー大手の『美団(メイトゥアン)』でアルバイト的な仕事に就いたり、コロナ禍ではPCR検査の補助員をやる人もいたほどです」

 と話すのは、中国経済や中国企業に詳しいジャーナリストの高口康太氏だ。

「去年、中国ではサプライズとも呼べる出来事が起こり、四大都市である北京、上海、広州、深センの常住人口が統計史上、初めてそろって減少に転じたのです。常住人口とは出稼ぎ労働者などの数も含めて実際に街に住む人の数を指します。四大都市で働き口がなく地方に帰った人たちが相当数いたことが判明したのです」

 ゼロコロナ政策で製造業やサービス業などの雇用が絞られ、今も回復に至っていないとされるが、かの国ならではの事情もあるとして高口氏はこう続ける。

「日本と違い中国は終身雇用制度がなく、常に中途採用が行われているような社会のため、若者より経験豊富な中高年が仕事を得やすい。景気が悪くなれば若くて経験のない人からクビを切られるため、失業率というのは若者からドラスティックに変化が表れます」

 そもそも20世紀の終わりから高等教育の拡充を急ぎ大学定員を増やした結果、今夏に大学や大学院を巣立った人の数は過去最多の1158万人。過去5年間で4割も増えたという。

 高口氏が解説する。

「高い教育を受ければ、それに見合った報酬が得られる仕事を求めるのが人情ですが、景気の悪化で雇用の創出が困難になっています。毎年、中国政府は『都市部新規雇用』という目標を発表し、今年は1200万人分の雇用を作ると謳っていますが、その数は大学や大学院の卒業者数とほぼ同数。新規雇用者には高卒も含まれるわけですから、若者がところてん式に押し出され、職に就けない状況になっています」

「中国人留学生で帰国して働く学生は一人もいない」

 その影響は、来日する中国人留学生たちの動向からも顕著だと指摘するのは、現代中国研究が専門の東京大学教授・阿古智子氏だ。

「コロナ禍前までは、日本に来る中国人留学生の間で帰国した方が就職に有利だといわれていました。中国国内のIT企業やコンサルティング企業をはじめ、国営企業にも就職した学生が結構いたわけです。ところが、そうした中には国内景気の衰退で転職を余儀なくされたり、再び日本に来てIT関連企業に再就職したりする人が多い。この数年来、私の周囲にいる中国人留学生で帰国して働く学生は一人もいません」

 結果、中国国内では「専業子供」と呼ばれる若者の存在が社会問題化している。親の庇護の下で暮らし、良い大学を出たのだから好待遇の仕事が見つかるまでゆっくり就活する人々や、熾烈(しれつ)な受験戦争や就職戦線で心を病み、将来を悲観し引きこもる「寝そべり族」なんて人々もいるとか。

 すでに中国では「ひとりっ子政策」の弊害で少子高齢化社会が到来しつつあるが、労働人口の減少と共に若者の失業率が上昇を続けて「専業子供」が増えれば、技術の伝承や蓄積も滞る。長期的には中国の経済成長に大きな弊害となるのは必然である。その影響はダイレクトにわが国にも――9月28日発売の「週刊新潮」では、中国の不況の実態と日本経済への影響についてさらに詳報する。

「週刊新潮」2023年10月5日号 掲載