保守与党が歴史的大敗を喫した、韓国の第22代国会議員選挙からおよそ1カ月が過ぎた。

 尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領の任期はあと3年残っているが、国会は野党議員の数が圧倒的に多い「ねじれ」状態となった。保守与党の国会議員が尹大統領と歩調を合わせた法案を出しても、左翼野党が反対すれば、大統領に渡されないまま国会内で廃棄される。野党は保守党の法案発議に協力する可能性はゼロに近いから、政局運営の危機に置かれているといえる。

 それどころか、勢いづいた野党内では、すでに「大統領弾劾」を叫ぶ空気すら流れている。「尹大統領が近いうちに“植物大統領”(政権運営ができない肩書だけの存在)になるのでは」という憂慮が出ている。

 文在寅(ムン・ジェイン)前政権で最悪になった日韓関係を尹大統領が回復しただけに、韓国国民の関心は今後の日韓関係にも向けられている。

チョ・グク氏愛用のボールペンは…

 そうした中、日本に向かう韓国人観光客は急増している。日本を訪れた外国人観光客2,507万人のうち、韓国人の数は約696万人だという。韓国人が海外旅行先として選ぶ地は断然日本が1位だ。韓国政府の航空統計によると、今年の1〜3月まで国内旅行客が最も多く向かった国は日本で、すでに620万人が訪日した。

 しかしこの傾向に左翼野党は水を差しかねない。今回の選挙で当選した野党議員に「反日」活動経歴のある人が多いからだ。

 その筆頭は、日本でも「玉ねぎ男」としても知られるチョ・グク氏だ。子供の大学入試の際の文書偽造やオンライン試験の替え玉受験で起訴され、昨年2月に懲役2年を言い渡された。しかし政治家への優遇措置を利用して出馬。そして国会議員に当選した。

 チョ氏には「反日」歴があることが知られている。2019年、日本政府が韓国へ半導体などの輸出を規制した際には、韓国内の左翼政治家たちが反発した。チョ氏もそのひとりで、大統領室所属の公務員でありながら、1ヶ月間に約40回も自身のフェイスブックアカウントに“反日”コメントを掲載した。彼は保守党を「売国」「親日派」と非難し、支持者には「竹槍歌」を共有した。「竹槍歌」は韓国では有名な抗日歌曲である。

 にもかかわらず、2020年には、チョ氏の妻が借名で「反日テーマ株式」と呼ばれる銘柄を買っていたことを検察が突き止め、議論を呼んだ。これはLGイノテックとリードコープの2社の銘柄を指し、ともに韓国で利益をあげる、日系企業の代替会社とされている企業である。反日的な言動をおこなうチョ氏が、そんな企業へ投資するのは……というわけだ。

 また、大学院時代の論文の一部の内容が、日本人学者の論文を無断で書き写していたことも明らかになり、こちらにも疑問の声があがった。日本が嫌いなチョ氏だが、日本製のボールペンを使っていることも暴露されている。

 国会で再び反日を叫ぶことが予想されるチョ氏には、最高裁の判決が控えている。有罪が確定すれば、国会議員当選の取り消しとともに刑務所に入らなければならない。

口は反日、髪は親日

 左翼野党の第1党である「共に民主党」の代表であり、今回当選を果たしたイ・ジェミョン氏も“反日政治家”である。彼は第20代大統領選挙で落選した後、補欠選挙に立候補して当選、今回の国会議員選挙で再選した。飲酒運転罪を含め前科4犯であり、現在も選挙法違反と背任、賄賂の疑いで刑事裁判を受けている。

 彼は日本の福島処理水放流を「悪質」とこき下ろし、これを糾弾するデモに何度も参加した。以前から従軍慰安婦問題で日本政府を非難し、京畿道城南市長だった頃は、市庁前に「平和の少女像」を立てたりもした。

 2020年8月15日の「光復節」には、「安倍晋三首相は2012年執権以後、一度も謝罪したことがない」「過去を許され未来に共に進む唯一の方法は被害者が許すというまで謝罪し再発防止を約束すること」と発言している。

 今年に入っても3月1日、尹錫悦大統領が日本との未来協力を強調すると、イ氏は「今も独島を自分の土地だといい張って侵略を反省していない日本の過ちを合理化し、協力を乞うことは、被害者が加害者に頭を下げるのと同じだ」と非難している。

 他にも反日言動は数え切れないほど多いが、やはり彼も言っていることとやっていることが違う。京畿道知事時代に公金流用疑惑が生じた際、自分が使うために日本の「クオレ」のブランド高級シャンプーを税金で購入していたことが明らかになった。このシャンプーは韓国の普通の店では購入できないため、公務員である部下に指示し、ソウル市江南区の高級美容院から買ってこさせたという。「口では反日を謳いながら、髪の毛は親日だ」と非難も浴びた。

なんとかして日本と大統領を批判

「共に民主党」所属で再選に成功したイ・ジョンムン議員は、これまで福島処理水の放流に激しく反対してきた。昨年9月には、福島原発の設備に2013年から2023年までの10年間で200件以上の故障と異常が発生したと主張、「尹錫悦政権はこれを知らなかったとすれば無能であり、知っていたとすれば国民を欺いた」と大統領を批判した。

 しかし、200件の故障と異常によってどれほどの被害があったのかは語らず。内容を精査せず、数字だけを取りあげた可能性もある。

 そんな彼は、2020年8月の国会議員初当選時、公開された資産が注目されたことがある。愛車が、2万6,645ドルもする日本の「スバル・レガシィアウトバック2.5」だったからだ。反日なのに、日本車には乗る……。

 福島処理水を「汚染水」と呼んではばからず、日本政府と韓国与党を批判した若い政治家も今回の国会議員選挙で当選した。ヨン・ヘイン氏だ。

 彼女は福島処理水の放流に反対するデモに絶えず顔を出し、昨年8月には「福島汚染水放出阻止のために最後まで戦う」と叫んだ。その結果か、「共に民主党」の積極的な支持を受け、比例代表推薦を受けて国会議員に当選した。

 ヨン氏は世界的な科学ジャーナル「ネイチャー」と「サイエンス」で、世界の科学者18人のうち、福島の処理水に関して14人が否定的な見解を持っていると語った。この発言にも疑問が投げかけられている。「ネイチャー」と「サイエンス」には、福島処理水放流の危険性が「誇張されている」という内容の論文も多数掲載されており、「ネイチャー」は2021年5月、原子力専門家と海洋放射能研究者の「計画どおり処理されたALPS処理水なら、危険が最小化されるため、あまり憂慮しなくてもいい」という見解も取り上げているためだ。

 なんとかして日本政府と尹錫悦大統領を批判し、支持を得ようとする野党政治家の言動と行動にはほころびが目立つ。国民は反日傾向の議員を国会に送りながら、日本への観光旅行を楽しむ。日本に向かう韓国人の数は史上最高を記録している。

「その行動は、論理的に合理的に説明ができないのだろう。口では反日を叫ぶが、実際には日本が好きな左翼政治家を見れば、なるほどと納得できる気もする」

 選挙を追い続けてきた知人のベテラン政治記者の言葉が印象に残る。

 今回の選挙結果によって、韓日関係が文在寅政権の時のように最悪の状態に突き進むことはないだろうが、しかし民主党議員は日本政府を今後も批判し続けるはずだ。

ノ・ミンハ(現地ジャーナリスト)

デイリー新潮編集部