住居の確保も重要課題だと言うが

 4月13日、青瓦台(韓国大統領府)の主催で国務会議が開催された。その会議の場で、文在寅(ムン・ジェイン)大統領は自身の思い、特に若者に対する思いについて世論に訴えたのだが、大統領の失政がなければ彼らは苦しむこともなかったのではないかという指摘が巻き起こっている。加えて、若者の高い失業率を新型コロナのせいにしたことについても疑問の声が。

 大統領の発言はざっと下記の通りである。

・政府は若者たちが直面している問題に対して理解し、既存の政策を上回る特別措置を講じるべきだ

・人生で最も重要な時期に直面している若者たちが、新型コロナの影響を最も受けている。韓国社会が最優先に解決しなければならない課題だ

・何より大切なのは雇用で、若者の働き口をひとつでも多く増やせるよう政府が支援すべきだ

・若者たちが創意的なことに専念できるように環境を作り、質の高い雇用を目的とした職業訓練の大幅な拡大等を求める

・住居の確保も重要課題だ。若者および新婚夫婦で持ち家の無い者にマイホーム購入の機会がより増えるよう努力すべきだ

・韓国経済はコロナという暗いトンネルを抜け出し、光に向かって進んでいる。ただ、回復傾向にあるこの状態を大多数の国民が実感できていないのが現実だ

・政府は国民の生活を守る最後の砦であり、確固たる支えとならなければならない。今までの取り組み以上に積極的な財政支出を通し、貧困階層や低所得者層への支援と雇用維持および雇用創出に更に尽力すべきだ

本当にコロナの影響なのか?

 文在寅大統領が若者をターゲットにした背景には、4月7日に投開票が行われ惨敗したソウル・釜山のダブル市長選が影響していると現地メディアは報じた。若者の票が、大統領率いる「共に民主党」から野党の「国民の力」へと流れたからだ。

 来年に迎える大統領選挙までに、何とかして票を取り戻したいという切実な思いから、このような発言に至ったようである。

 新型コロナの影響により就職難を強いられている若者世代を何としても救いたいという文在寅大統領の思いは、今回の会議の場で十二分に発信されたとは言えるだろう。それが伝わるか否かは別として。

 韓国雇用労働部が4月12日に発表した「3月労働市場動向」によると、今年3月に失業手当を受給した人は75万9000人に達し、過去最多を記録。

 同じ月の失業手当支給額は1兆1790億ウォン(約1145億円)で、過去最大だった20年7月の1兆1885億ウォン(約1154億円)に迫りつつある。

 その20年7月の失業率はと言うと、1999年7月以来21年ぶりに過去最高を記録している。

 特に15〜29歳(青年層)の失業率が9・7%と高かった。失業率と失業手当の支給額が過去最大だったのは、新型コロナの影響との分析が当然のようになされている。本当にそうなのだろうか。

 文氏が大統領に就任したのは2017年5月10日である。

 就任後に「最低賃金の引き上げ」や「労働時間の短縮」等の大胆な政策を行い、その結果、韓国では中小企業を中心に企業の経営体力が低下し雇用が減少。そのしわ寄せとして、15〜29歳の若年層の失業率が高止まりした。

 労働者に手を差し伸べるための政策が若者の首を絞めることになってしまったのだ。

 この失策で朴槿恵(パク・クネ)前政権下よりも失業率は増加。そこに、新型コロナの流行がやってきた。失業率増加の言い訳材料ができた文在寅大統領にとって、コロナ禍は渡りに船だった。

 コロナ禍がなければ自身の失策を認めざるを得ず、ともすると、韓国の大統領は二代続けて弾劾されていたかもしれない。

「口だけで政策をするのではなく」

 4月7日に企画財政部が発表した「IMF(国際通貨基金)World Economic Outlook(世界経済見通し)韓国の成長率の特徴および意味」資料によると、昨年の韓国経済規模は世界10位で、2019年(12位)に比べ2段階上昇したとある。

 この資料だけを見ると、現時点での韓国の経済状況はそれほど悪くない。

 大統領自身も3月、「韓国はコロナ禍以前の経済水準に最も早く回復する国の1つとなるだろう」と述べているほどだ。

 ご覧の通り経済成長はしっかりしているのだから、コロナさえ封じ込められれば一切合切は解決できると訴えたいのはよくわかる。自身が播いたタネが元凶で、それが根深い地下茎のようになってしまっている以上、コトはそう単純ではないはずだが。

 今回の文在寅大統領の発言の中でブーイングが多く集まったのは、「住居の確保も重要課題だ。若者および新婚夫婦で持ち家の無い者にマイホーム購入の機会がより増えるよう努力すべきだ」とした部分だ。

 雇用促進と同じく、こちらも具体的な解決策はまだ発表されていない。

それどころか、連日のように、公務員が値上がり確実な土地を前もって購入して不当な利益を得たという疑惑がメディアで連日取り沙汰されており、解決どころではない状況だ。

 大統領自身も、私邸用として購入した土地の一部地目が「農地」となっていたのを、1年足らずで「宅地」へと転用し不当に利益を得ていた可能性があるため、国民の理解がなかなか得られていない。

 それもそうだろう。大統領の失策により一般的な若者たちはマイホーム購入など全く遠い世界となってしまった一方で、大統領以下、高級官僚はしこたま不動産で蓄財を進めていた疑惑が濃厚となっているのだから。

 そういった“失われた世代”の面々からは、

「口だけで政策をするのではなく、行動に移さないと……」

「大統領……頭がまわらないんだったら……呉世勲(オ・セフン)ソウル市長に教わって…」

 といったコメントがインターネット上に寄せられている。

 期待されなくなった最高権力者ほど惨めなものはない。

羽田真代(はだ・まよ)
同志社大学卒業後、日本企業にて4年間勤務。2014年に単身韓国・ソウルに渡り、日本と韓国の情勢について研究。韓国企業で勤務する傍ら、執筆活動を行っている。

デイリー新潮取材班編集

2021年4月20日 掲載