5月21日の米韓首脳会談で、文在寅(ムン・ジェイン)政権が完敗した。「建国以来、最大級の外交敗戦」と韓国観察者の鈴置高史氏は言う。

「たった55万人分」と怒り爆発

鈴置:ワシントンで開いた米韓首脳会談。1月に就任したJ・バイデン(Joe Biden)大統領と文在寅大統領の初顔合わせでした。会談結果を聞いた韓国人の怒りが爆発しました。

 バイデン大統領は新型コロナのワクチンを韓国に供給すると約束しましたが、たった55万人分、韓国軍将兵の分だけだったからです。韓国の人口は約5200万人ですから1%強に過ぎません。

 韓国はワクチン不足に陥っています。おりしも開かれる米韓首脳会談で米国にねだれば良い、と韓国人は考えた。国内への供給にメドが立った米国も、海外にワクチンを供給すると発表した。

 そこで会談直前、韓国政府は「ワクチン確保」との情報をメディアに流しました。メディアも前のめりになってそれを報じたのです。中央日報の「韓国政府『バイデン政権が海外に供給するワクチン、韓国が優先交渉対象』」(5月18日、日本語版)が典型です。

「韓米首脳会談を通じ具体的な成果が出る可能性があると見ている」との政府関係者の発言を引用。さらに政府の皮算用も紹介しました。以下です。

・米国が4−6月期中に少なくとも1億回分の物量を他国と共有するとみている。このうち約1000万回分を確保すれば、11月に「集団免疫」目標を達成する可能性が高い。

 なお、見出しの「優先交渉対象」を支えるファクトは記事のどこにもありません。こんな報道に接した韓国人はすっかり「大統領が訪米さえすればワクチンを貰える」と思い込んでしまった。そこで「たった55万人分」のニュースに、政府に対する怒りが噴出したのです。

「菅は5000万人分貰ったのに」

 朝鮮日報の「バイデンのワクチンに関する約束は『米軍に接する韓国軍55万人支援』だけだった」(5月22日、韓国語版)への読者の書き込み欄は、文在寅政権に対する罵倒で溢れました。要約しつつ一部を紹介します。

・だったら、5000万の国民は米国のワクチンをいつ打てるのか?無能な文の野郎。
・バイデンは頭が良い。Quad参加を拒否した文に多くのワクチンを与えるわけにもいかない。かといって韓国企業の投資も得た状況で、手ぶらで返すわけにもいかない。だから米軍兵士と接触する韓国軍にだけワクチンを供給する。韓国軍のためのようで、結局は米軍のためだ。恩を売りながら実利を得るということだ。
・文在寅は外交の天才だ。飯をやって糞を貰った。
・菅は1億回分、5000万人分貰い、文は何も無し。何しに行ったのか。
・1週間前の発表を見れば、韓国とはワクチンを最優先で論議すると言っていたのに、青瓦台(大統領府)はまた国民を騙し、希望拷問したということか。
・政権を代えれば(ワクチンを)貰える。(米国が)左派政権のどこを信じて供給するだろうか。政権交代が答えだ。

 「韓国企業の投資も得た」とはサムスン電子、現代自動車、SKイノベーション、LG化学など韓国の大手企業がこぞって米国で投資すると、5月21日に韓国政府が発表したことを指します。各社の計画を足すと、投資金額は日本円換算で4兆円にのぼります。もちろんワクチン獲得に向けた掩護射撃です。

 菅義偉首相の訪米に伴い、ファイザー製ワクチンをどれだけ取得できたか、日本政府は発表していません。が、韓国では5000万人分などと報じられています。

 また、「希望拷問」とは「実現しもしないことを政府が約束し、結局は国民に苦痛を与える」ことを意味する韓国独特の言い回しです。

ワクチン食い逃げは許さない

――韓国政府は「ワクチンスワップ」を打診していたはずです。

鈴置:「『韓国へのワクチン供給は後回し』と公言した米国務省 バイデンがQuadから逃げ回る文在寅にお灸」でも説明しましたが、「いつか返すから今すぐワクチンをくれ」というムシのいい要求です。

 これに対し米国務省は「Quadに参加しない韓国は後回し」と公然と拒絶しました。すると韓国政府は「反中的な部分を除いてQuadに片足だけ参加するからワクチンをくれ」と言い出したのです。

――「Quad片足参加」を米国は認めなかったのですか?

鈴置:そんな都合のいい、韓国のわがままは許しませんでした。聯合ニュースが5月18日に、「ホワイトハウスのアジア皇帝」と呼ばれるK・キャンベル(Kurt Campbell)インド太平洋調整官に書面インタビューしました。

「U.S. will build on Singapore agreement with N. Korea: Campbell」(5月18日、英語版)によると、キャンベル調整官は韓国のQuad参加に関し、以下のように語りました。

・While at this time there are no plans to expand the Quad, our shared values of support for a free, prosperous Indo-Pacific are certainly embraced by many other regional partners and we believe there will be ways to continue to expand regional cooperation. That includes cooperation with the ROK, ASEAN, and other regional partners.

「今のところ、Quadを拡大するつもりはない」と韓国を締め出したのです。当然の仕打ちです。中国の顔色をうかがいQuadから逃げ回っておいて、ワクチンが欲しくなると「入ってもいい」とすり寄って来る。それも「反中部分は除く」という「いいとこ取り」方式で。一種の食い逃げです。

「弱腰韓国」はQuadに入れない

――ワシントンには、韓国に対する冷ややかな空気が広がっているのですね。

鈴置:それを率直に語ったのがシンクタンク、ランド研究所のB・ベネット(Bruce Bennett)客員研究員です。同氏は韓国を120回も訪問した朝鮮半島専門家。韓国メディア、イーデイリーとの電話インタビューで「Quad締め出し」の理由を次のように語りました。

「文はバイデンと歩調を合わせ国防を強化してこそ、北朝鮮との対話の場が生まれる」(5月18日、韓国語)から引用します。

・韓国はQuadのオブザーバーはともかく、メンバーにはなれない。コロナの感染が広がった時、韓国は中国人の入国を禁止すれば、中国から圧迫されると考え、そうしなかったと見られている。
 
 韓国は中国に弱腰。そんな国をメンバーに加えてQuadを弱体化するつもりはない――と言い放ったのです。

 文在寅政権の掲げる北朝鮮との「平和共存」政策に関しても、ベネット氏はB・オバマ(Barack Obama)政権の「戦略的忍耐」と同じ――つまり、口では非核化を唱えても実際は何もしない――と批判しました。

 ベネット氏は在韓米軍のTHAAD(地上配備型ミサイル迎撃システム)基地を取り囲んで資材の搬入を阻止するデモ隊を、文在寅政権が取り締まらないことも、口を極めて非難しました。

 イーデイリーの別の記事「ワクチン不足でお尻に火のついた韓国…米ワクチンの対価に何を出すか知恵を絞れ」(5月18日、韓国語)が伝えました。

 平時ならまだしも、中国との対決が始まった時に同盟国の義務も果たさず、都合のいい要求ばかりしてくる。やりたい放題の文在寅政権に、米国の専門家もついに堪忍袋の緒を切ったのです。

韓国と中朝の間にくさび

――そう言えば、日本も……。

鈴置:ええ、「韓国締め出し」作戦には日本も加わっています。茂木敏充外相は日経新聞のインタビューで「韓国などをQuadに加える考えはあるか」と聞かれ「枠組みそのものを広げようという議論はまったくない」とそっけなく答えました。「茂木外相『ミャンマーに弾圧停止働きかける』 一問一答」(5月21日)で読めます。

 ホワイトハウスのJ・サキ(Jen Psaki)報道官も5月20日の会見で「韓国がQuadに加わらないと、米国が望む中国封じ込めに大穴が開くのではないか」との質問に「Quadは4か国で構成するものだ」と冷たく答えています。

 ワクチンを貰いに来た文在寅大統領を、米政府はここぞとばかりに叩いて屈服させました。首脳会談後に発表した共同声明で、それが明らかになりました。

「北朝鮮の人権」と「台湾海峡の安定」を盛り込ませたのです。いずれも中国と北朝鮮の顔色を見て韓国が一切、言及してこなかった案件です。共同声明から引用します。

・We agree to work together to improve the human rights situation in the DPRK and commit to continue facilitating the provision of humanitarian aid to the neediest North Koreans.
・President Biden and President Moon emphasize the importance of preserving peace and stability in the Taiwan Strait.

「北朝鮮での人権状況の改善で合意した」以上、北朝鮮は文在寅政権に甘い顔はできません。「台湾海峡の安定の重要性を米韓の大統領が強調した」のは初めてですから、中国は韓国に厳しく出るほかありません。米国は「離米従北従中」路線をつき進む韓国と、中朝の間に鋭いくさびを打ち込んだのです。

バイデンからの圧力はあったか

――「台湾」まで入るとは……。

鈴置:確かに、「北朝鮮の人権」はともかく「台湾」まで入ると予想した人は少なかった。会談後の共同会見で、文在寅大統領に対し「バイデン大統領からの圧力はなかったか」との質問が出たほどです。

 文在寅大統領は「なかった」と答えましたが、その前にバイデン大統領が文在寅大統領に「Good luck」と声をかけました。「余計なことを言うなよ」とクギをさしたようにも見えました。

 中央日報の「文が、中国が神経を尖らせる台湾に関する質問を受けると…バイデン『Good luck』」(5月22日、韓国語版)で、その映像を視聴できます。

 朝鮮日報は「北の人権・台湾に言及した韓米共同声明、ぎくしゃくしていた両国関係を近づけた」(5月22日、韓国語版)で「首脳会談が予想以上に長引いたのは、両問題を巡り両国が激論を交わしたためと伝えられた」と書きました。

 一方、聯合ニュースは「時間延長は米国の厚遇の証」とのノリで報じました。「バイデン―文は『クラブケーキ』午餐会…『日本の菅のハンバーガー』と対照的」(5月22日、韓国語版)です。米韓首脳会談が「日米」と比べ20分程度長かったことに加え、出された食事がクラブケーキだったことから「日本よりも優遇された」と報じたのです。

 聯合ニュースは間接的な形ながら政府が資本を握っています。特に、青瓦台の記事は政権の意に沿ったものが多い。この政権は「米国の圧力に屈した」と報じられるのがよほど怖かったのだと思われます。

「弾道弾」規制解除で対中牽制

――文在寅大統領にとって、いいニュースはなかったのですか?

鈴置:ワクチン関連で言えば「サムスンバイオロジックスのコロナ・ワクチン受託生産」です。委託者は米モデルナ。両社は5月22日、文在寅大統領の立会いの下、ワシントンで基本合意書(MOU)を結びました。

 生産といってもサムスンがモデルナの原液供給を受け、瓶詰めする方式です。韓国政府は第3四半期から生産開始と明かしていますが、どれぐらい韓国内に回せるかには言及していません。

 文在寅政権が唱え始めた「韓国をワクチン生産のハブ(中心地)にする」政策の一環です。しかし、直ちに現在のワクチン不足に寄与する可能性は低い。

 安保関係では韓国のミサイル保有に制限をかけてきた「米韓ミサイル指針」の完全撤廃です。文在寅大統領が米韓首脳会談後の共同会見で明らかにしたのですが、最後に残っていた制限「射程800キロ」も取り払ったのです。

 文在寅政権は「軍事主権の独立」と自画自賛しています。ただ、米国の対中牽制の一環との見方が一般的です。

 米軍は中国の中距離弾道弾に対抗するため、水面下でアジアの同盟国にその保有を呼び掛けています。そして、800キロの射程では北朝鮮全域はカバーできますが、北京には届かないのです。

 韓国は2020年6月に射程800キロの弾道弾の実験に成功しました。射程を延ばすのは容易と見られています(「日本への毒針? 原潜保有を宣言した文在寅政権 将来は『核武装中立』で米韓同盟破棄」参照)。

再び目論む「平和の使徒」

――韓国にとっては両刃の剣ですね。

鈴置:ええ。自主国防体制を強化できますが、中国から「対中ミサイル包囲網に参加するつもりか」と睨まれるでしょう。韓国はその際、日本用と言い訳すると思われます。まあ、本音でもありますし。

 今回の米韓首脳会談で文在寅政権がもう1つ、「得点」として誇ったのは米国から「南北対話を認められ」さらには「米朝対話の仲介役を期待された」ことです。共同声明に「過去の『南北』と『米朝』間の約束に基づいた対話が重要である」との文言が盛り込まれたことを根拠にしています。

 文在寅政権は「2018年4月の南北首脳会談で交わした板門店宣言をテコに同年6月に史上初の米朝首脳会談が開かれ、そこで非核化を約した米朝共同声明が実現した」と、自分が「平和の使徒だった」と主張しています。

 しかし、北朝鮮が完全な非核化を拒否したため米朝関係は暗礁に乗り上げ、文在寅政権の「手柄」も雲散霧消しました。大統領とすれば引退後に刑務所に送られるのを防ぐにはもう1度、米朝首脳会談を取り持って「平和構築」の実績を積み直す必要がある。だから「米国から南北対話の許可を取り付けた」と主張し始めたのです。

政府系紙も「南北対話は困難」

――「平和の使徒」作戦は再起動できるでしょうか?

鈴置:容易ではありません。まず、バイデン政権が金正恩(キム・ジョンウン)委員長との安易な首脳会談に拒否感を示しているからです。それはD・トランプ(Donald Trump)前大統領の手法そのものです。

 東亜日報も「青瓦台『バイデン、南北交流を認めるだろう』…米国『金正恩との会談は最優先ではない』」(5月22日、韓国語版)でそう指摘しています。

 そもそも金正恩委員長が南北会談に応じる可能性は極めて低い。2018年に応じたのは現金を貰えるとの思惑からだったのでしょうが、米国の厳しい監視もあり、文在寅政権はカネを十分に送れなかった。北朝鮮は裏切られたのです。

 文在寅政権の残りの任期は1年を切った。そんな政権と交渉しても意味はない。さらに今回の米韓共同声明の「北朝鮮の人権侵害」の指摘。「米朝」以前に「南北」首脳会談でさえ実現は困難なのです。

 政府系紙のハンギョレでさえ「北朝鮮の肯定的な呼応を期待するのは難しい」と書いています。「韓国政府、『朝・米の対話再開』に向けた役割・責任がさらに大きくなった」(5月22日、韓国語版)です。

建国以来の外交敗戦

――文在寅政権にとって、米韓首脳会談は失点だけだった?

鈴置:そういうことです。韓国建国以来、最大級の外交敗北だったと思います。米国は自国の利益を損ねる政権が韓国に登場するたびに露骨に大統領を侮蔑し、韓国民に「2度とこんな大統領を選ぶな」と警告を送ってきました(図表「米国から侮蔑・難詰された韓国大統領」参照)。

 今回は反米政権をひざまずかせたうえ、韓国民には「ワクチン55万人分」という、実に分かりやすい「警告」を送ったのです。冒頭で引用した朝鮮日報の記事にも「政権交代だ」という読者の書き込みがありました。効果はちゃんとあがっています。

 同紙は会談後、初の社説「虚言に終わったワクチンスワップ、『国軍55万人分』で感泣する時か」(5月24日、韓国語版)で「文大統領はワクチン55万人分を貰って『サンキュー』を繰り返し、自画自賛した。いつまでこんな状況が続くのか」と激しく政権を攻撃しました。

 ワクチン不足が続けば「やっぱり反米左翼政権はだめだ」との声が高まり、2022年3月の大統領選挙にも大きく影響することになるでしょう。米国の狙いもそこにあるのは間違いありません。

保守にとっては福音

――それなら、保守系紙は米韓首脳会談を全力で叩いている?

鈴置:そうでもないところが興味深いのです。確かに「たった55万人分のワクチン」は政権を叩く有効な攻撃材料です。しかし、今回の首脳会談により、崩壊に向かっていた米韓同盟に修復の兆しが見えた。

 それは米国の強力な圧力の結果であって、文在寅政権の本意ではない。しかし「このままでは米国に捨てられる」と思い詰めていた保守や中道の人々にとって、ほっとする結果だったのです。左翼政権にとっての外交の歴史的敗北は保守にとっては福音なのです。

 先に引用した朝鮮日報の「北の人権・台湾に言及した韓米共同声明、ぎくしゃくしていた両国関係を近づけた」の見出しの「両国関係を近づけた」が、その「ほっとした」心情を率直に表しています。

 中央日報の解説「【ニュース分析】ワクチン提携、ミサイル制限解除…韓米同盟が正常軌道復帰」(5月22日、日本語版)の見出しも「同盟消滅寸前の状況から劇的に引き返し始めた」との安堵感を伝えています。

「毒杯を空けるな」と中国

――保守派もようやく枕を高くして寝られる?

鈴置:そんなに簡単な話ではありません。中国はこのまま黙って見過ごしはしないでしょう。中央日報の記事の最後の1文が以下です。

・米中対立構図の中で韓国の戦略的スタンスを維持する問題は依然として難題として残る可能性が高いという慎重論も少なくない。

 米韓共同声明に「台湾」が入るかもしれない、との情報を中国は直前に察知したようです。そこで中国共産党の対外威嚇メディア、Global Timesが5月21日、「Hyping Taiwan question is US’ ‘wishful thinking’ in statement with South Korea: expert」を載せました。

「台湾」が米韓共同声明に入るなんて米国の宣伝工作に過ぎない――と強気に出たのです。ただ、韓国にクギを指しておく必要もあると判断したのでしょう、同じ日に社説「US prepares a trap for South Korea in White House summit」も掲載。

「韓国よ、米国の罠にかかるな」と見出しを打っておいて、本文では「台湾問題という中国の核心的利益に触れるなら、それは毒杯を飲むのに等しい」と韓国を脅したのです。

属国にメンツを潰された

――でも、韓国は毒杯を空けてしまった……。

鈴置:属国扱いしている韓国が自分に逆らうとは、中国は信じられない思いだったでしょう。そこで、「韓国は米国に完全に従ったわけではない」との、負け惜しみの見解を打ち出しました。

 翌5月22日にGlobal Timesが載せた「Wording in joint statement the greatest degree of consensus Washington, Seoul can reach on Taiwan-related issues: observers」は「米韓共同声明は東シナ海や台湾に言及したが中国を名指ししなかった」と強調。

 さらにバイデン大統領が「Good luck」と述べたくだりを紹介しながら、次のように書きました。

・文はバイデンから圧力をかけられたと公開の席で認める代わりに、より繊細な答をした。「中台の特殊な関係を考慮しながら韓米はこの問題で共に動くことで合意した」と語ったのである。

 文在寅大統領が「中台の特殊な関係」を強調したのから見て「中国の内政問題」に深入りしたくないのが韓国の本音だ、との理屈です。

 しかしGlobal Timesが何と言い訳しても、韓国が「台湾」に言及したのは事実なのです。いくら米国の圧力が原因とは言え、「属国風情」からメンツを潰された中国も放ってはおけないでしょう。

李朝末、再び

 中央日報も朝鮮日報も5月24日の社説の結論部分は恐ろしく似ていました。いずれの保守系紙も「米国側に戻った」と大喜びしつつ中国の報復に右往左往することにならないか、懸念を表明するものでした。韓国語版の結論部分を翻訳します。

・中央日報「韓米同盟強化を再確認した首脳会談、実践につながるよう」=今回の会談結果に中国が反発することは十分に予想できる。それに対しては毅然とした姿勢で中国に説明せねばならぬ。米国にはこう言い、中国には別の言葉を発しては双方から不信を買うほかない。
・朝鮮日報「ミサイル・Quad・技術、韓米同盟正常化の出発点となるよう」=米国にはこう言い、中国にはああ言う式に、行ったり来たりすれば国家の信頼が崩壊する。相手によって言葉を変えることを「均衡外交」とは言えない。

 19世紀末から20世紀初めにかけ大国の間を右往左往して、最後には滅んだ李氏朝鮮。韓国人は今、100年前の苦い歴史を思いだしているのです。

鈴置高史(すずおき・たかぶみ)
韓国観察者。1954年(昭和29年)愛知県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。日本経済新聞社でソウル、香港特派員、経済解説部長などを歴任。95〜96年にハーバード大学国際問題研究所で研究員、2006年にイースト・ウエスト・センター(ハワイ)でジェファーソン・プログラム・フェローを務める。18年3月に退社。著書に『米韓同盟消滅』(新潮新書)、近未来小説『朝鮮半島201Z年』(日本経済新聞出版社)など。2002年度ボーン・上田記念国際記者賞受賞。

デイリー新潮取材班編集

2021年5月24日 掲載