日本に「反韓」感情があるかはさておき、韓国国内には間違いなく「反感」が存在するようだ。失政により国民の支持を失った文在寅(ムンジェイン)大統領。有権者の心を取り戻すための伝家の宝刀といえば……。

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「日本は完全な友好国なのか」

「(朝鮮半島ではなく)日本が分断されるべきであった」

 このセリフが、北朝鮮の金正恩(キムジョンウン)総書記が吐いたものだとすればまだ分からなくはない。しかしこれは、日本と同じ「自由主義陣営」であるはずの国の政治家による言葉なのだ。しかもその発言の主は、あの「反日大統領」として名高い文在寅氏の後継者で……。

 11月16日、韓国の金昌龍(キムチャンリョン)警察庁長官が竹島に上陸。またしても韓国の文政権が「反日」攻勢をかけてきたのだ。

「到底受け入れることができず、韓国側に強く抗議しているなか、共同記者会見を実施することは不適当と判断した」

 早速、松野博一官房長官はこうコメントした。韓国の高官による竹島上陸を受け、日本は上陸翌日に予定されていた日米韓外務次官による共同記者会見を拒否したのである。普段は発信力を微塵も感じさせない地味な松野長官だが、この日ばかりは彼の言葉に説得力が漲(みなぎ)っていた。

 言わずもがな、竹島は日本固有の領土である。その地を韓国の高官に蹂躙(じゅうりん)されながら、何事もなかったような顔をして、互いの外交担当者が「日韓友好」を演出する場に、のこのこと日本側が出て行く謂(いわ)れはどこにもない。ゆえに当然の会見拒否といえる。

「政治的行為であったことは明白」

 それにしても戦後76年、一体いつまで文政権は反日を続けるつもりなのだろうか。

「今回の竹島上陸が『政治的行為』であったことは明白でしょう」

 こう解説するのは、龍谷大学の李相哲教授だ。

「表向きは、僻地の竹島に勤務する職員への激励が目的だったとされています。しかしそうなのであればなぜ、今回の竹島上陸が事前に韓国メディアにリークされたのでしょうか。何らかの『政治的意図』があったとしか考えられません」

 確かに、外務次官会見が翌日に控えている日に“偶然”、韓国の高官が両国の懸案となっている竹島に上陸したと考えるのは無理があろう。しかも、

「竹島に上陸した金長官は、昨年7月、異例の抜擢で現在のポストに就いています。彼は、盧武鉉(ノムヒョン)政権時代に大統領府で文氏の部下として仕えていた過去がある。つまり金長官と文氏は、単に面識があったというレベルではない親しい関係にあるのです。そんな金長官が、文政権の思惑と関係なく竹島に上陸するはずがない」

 要は「一警察庁長官」ではなく、「文政権」の意向が体現されたのが今回の竹島上陸だったというわけだ。そしてその背景にあるのが、来年3月に迫る韓国の大統領選だ。

野党が圧倒的有利

 李教授が続ける。

「文大統領を支える与党『共に民主党』の次期大統領候補である李在明(イジェミョン)・前京畿道(キョンギド)知事は、現在、最大野党『国民の力』の候補である尹錫悦(ユンソクヨル)氏に差をつけられています。尹氏が野党候補に選ばれた11月5日以降に行われた30ほどの世論調査で、尹氏のほうがことごとく10ポイントほどリードしている状況です」

 韓国の大統領は1期5年で再選が禁じられているため、文大統領は来年の大統領選後にその座を去らざるを得ない。そんな彼の後継者が李氏なのだが、ライバルの野党候補に大差をつけられているとなれば、文氏の心中は穏やかならざるものに違いない。しかも、その野党候補は単なるライバルではなく、文陣営にとっての「天敵」なのだ。

 尹氏は今年3月まで検事総長を務め、「タマネギ男」ことチョ・グク法相(当時)ら現政権の幹部たちの不正に、文大統領の圧力をものともせずに斬り込んでいた。

 これに対し、文氏側は尹検事総長の部下の検事たちを次々と異動させるなどの対抗策を発動。前代未聞の「大統領vs.検事総長」のガチンコバトルが勃発し、結局、尹氏のほうが検察を去ることになり「敗北」してしまうのだが、その尹氏が、捲土重来とばかりに大統領選に名乗りを上げ、文氏の後継候補を打ち負かそうとしているのだ。

 過去の例を見ると、大統領選の4カ月前、すなわち今回でいうと今となるわけだが、その時点で世論調査でリードしているほうが勝利する確率は「5勝1敗」と、圧倒的に有利であるという。現政権与党サイドの焦燥が伝わってくるようだが、そうした状況で竹島上陸は敢行されたのである。

 再び李教授が解説する。

「李候補には、城南市長だった頃の都市開発事業を巡る不正疑惑などのスキャンダルが相次いで持ち上がっています。そのため、有権者の目をそれらから何とか逸らしたかったのでしょう」

後継者は文大統領以上の反日思想

「内政」が上手くいかない場合は「外交」でパフォーマンスを行い、国民の不満の矛先を外に向けさせる――古典的な政治手法といえばそれまでだが、

「今後、李氏が反日言動をより過激化させていく可能性はあるでしょう。彼は文大統領以上の、強固な反日思想の持主ですからね」

 こう見立てるのは、元駐韓大使の武藤正敏氏だ。文氏以上の反日とは、もはや想像の域を超えるが、実際、冒頭に紹介した過激な反日発言はいずれも李氏によるものなのだ。

「李氏は通称『民弁』と呼ばれる韓国最左派の弁護士会所属の弁護士として、自身のキャリアをスタートさせています。民弁出身ということでいえば文大統領も同じですが、李氏は『日本は敵性国家』『親日勢力と米占領軍のせいで韓国はこんなふうになってしまった』といったことにまで言及しています。慰安婦や徴用工の問題を蒸し返す“程度”だった文氏とは異なり、いわば今の韓国の国体そのものに疑義を呈しているのです」(同)

 確かに、李氏の反日思想は常軌を逸していて、冒頭のものや武藤氏が紹介した反日発言の他にも、次のようなものがある。

「(日本が竹島にこだわるのは)日本の軍国主義勢力が侵略への意志を持っているためだ。いつか大陸に進出する時の『仕掛け線』(橋頭堡)にしたいからだ。日本の大陸進出の夢が武力的な方法で噴出する時に備えなければならない。軍事的には北朝鮮も重要な相手だが、日本についても警戒心緩めてはならない」

 一体、いつの時代の話をしているのだろうかと一瞬頭がクラクラするが、李氏がこう発言したのは今年の7月で、間違いなく「現代」においてのものなのだ。したがって、

「大統領選が迫るなか、李氏自ら竹島に上陸するということが起きても不思議ではありません」(武藤氏)

支持率は3割台に低迷

 ことあるごとに「困った時の反日・竹島」として利用されるのは堪(たま)ったものではないが、果たしてそうした政治的パフォーマンスにうつつを抜かす余裕が、「文氏一派」にはあるのだろうか。なにしろ文大統領の支持率は、就任直後に8割以上あったものが最近では3割台に低迷しているのである。

「文政権になってから、都市部の地価が急騰し続けていて多くの国民が家を買えない一方、一部の富裕層だけが不動産投資で儲けている。また、一部財閥の寡占状態は相変わらずで、多くの若者たちは、財閥系に就職できなければ良いキャリアを歩めない、家が持てない、結婚もできない……という負のスパイラルに陥り、社会全体に不公平感が充満しています」(武藤氏)

 さらに、産経新聞ソウル駐在客員論説委員の黒田勝弘氏は、文政権をこう一刀両断する。

「そもそも庶民の味方を自称していた文氏ですが、大統領になると一転、チョ・グク法相の娘の不正入学問題などが噴出。言っていることとやっていることが違い、結局は身内が特権を利用して甘い汁を吸っているだけではないのかと不信が高まった。政権の偽善性が見抜かれてしまい、世論の反感を買っているのです」

「対日関係を国内政治に利用している」

 挙句、11月17日には韓国国内の1日のコロナ感染者数が3292人と過去最多を記録し、12月には1日1万人を超えるのではないかと騒がれている。やはり、反日パフォーマンスに明け暮れている暇はないとしか思えないのだ。

 そもそも「文・李陣営」が、今後さらなる反日言動を繰り返したところで、

「今の韓国ではリアリティをもって受け取られず、有権者の共感は得られません。コロナ前、年間およそ700万人もの韓国人が日本を旅行していました。文大統領らが日本は悪い国だとどれだけ叫んでも、効果はなかったのです」(李教授)

「反日カードは手垢に塗(まみ)れていて、有権者にとって『見え見え』のカードですから、反日アピールは効かないでしょう。今回の大統領選は『常識と非常識の戦い』といわれています。『常識』の尹候補と『非常識』の李候補の戦いです」(黒田氏)

 なお尹氏は、文大統領の対日政策をこう評している。

「対日関係を国内政治に利用しているのではないかと思う」

「対日関係が存在しているのかというくらい(日韓の)外交関係が『失踪』した状況だ」

 至極「常識」的な見解であろう。

 反日という伝家の宝刀はすっかり錆(さ)びついているにも拘(かかわ)らず、それ以外に帯刀していない文氏陣営は刃こぼれした刀を振り回すしかない。ここまで来ると、「敵性国家」と名指しされた立場ながら、その相手に同情してあげたくなるほどの「哀れさ」さえ覚えるのである。

 文大統領から李氏に引き継がれている、今日も反日、明日も反日、毎日が反日……。韓国の青瓦台(大統領府)が「常識」を取り戻すのはいつの日か。

「週刊新潮」2021年12月2日号 掲載