“痛切な反省と謝罪”の精神を日本が守るなら

 11月25日、韓国与党・共に民主党の公認候補で、文在寅(ムン・ジェイン)大統領の後任として次期大統領の座を狙う李在明(イ・ジェミョン)氏が、ソウル駐在の外国メディア向けに会見を行った。当然、自らの能力、資質についてアピールしたわけだが、実はその前日には、彼の甥によるデート暴力殺人事件の弁護を過去に引き受けたことについて謝罪し、土下座に追い込まれていたのだった。現地在住・羽田真代氏のレポート。

 まず、25日の会見について。李在明氏は日韓問題について触れた際、「成長した韓国の地位に見合うように再構築する」としたうえで、「小渕首相が表明した植民地支配に対する“痛切な反省と謝罪”の精神を日本が守るならば、いくらでも未来志向な韓日関係をつくることができる」と述べた。

 李在明氏が言及した「小渕首相の“痛切な反省と謝罪”の精神」とは、1998年に小渕恵三元首相と韓国の金大中(キム・デジュン)元大統領が共に発表した「21世紀に向けた新たな日韓パートナーシップ共同宣言(日韓共同宣言)」のことだ。

 日韓共同宣言とは、1965年の日韓国交正常化以来、過去の両国関係を総括して現在の友好協力関係を再確認するとともに、これからあるべき日韓関係について意見を出し合い、新たな日韓パートナーシップを構築するとの共通の決意を宣言した文書のことである。

経済活性化にはやはり日本が必要だ

 さらに補足しておくと、この日韓共同宣言からわずか3年後の2001年、韓国議会が宣言破棄を韓国政府に求める全会一致の決議を行ったため、宣言は事実上完全に破棄されている。

 李在明氏は、文大統領が取る対日姿勢の一部は引き継ぐものの、日本側の出方次第では「『歴史・領土問題』、『経済・人材交流』はそれぞれ分けて捉えるべきだ」と、文大統領との対日姿勢の違いについても言及した。

 文大統領が就任直後から推し進めてきた反日政策に韓国民も追随した結果、日韓関係は史上最悪の状態と評されることとなった。しかし、いわゆる“脱日本”の推進は日韓関係を悪化させただけでなく、むしろそれ以上に韓国経済を冷え込ませる結果となった。

 最近では「韓国経済を活性化させるためにはやはり日本が必要だ」ということに気付く韓国民が増えてきている。そして、今では日韓関係を改善させたいと望む韓国民も少なくない。

 李在明氏とライバル候補の尹錫悦(ユン・ソクヨル)氏はそういった国民感情の変化に敏感なようで、共に「自身が政権を取れば、文大統領が行う強固な反日姿勢から融和ムードに舵を切る」などと、最近になって述べるようになった。李在明氏による「小渕首相の“痛切な反省と謝罪”の精神」発言は、どちらに投票するか決めていない中道層を狙っての発言だろう。

 ただ、彼の言う日韓関係改善は日本が新たに謝罪をすることが大前提だ。同じ党所属の現職大統領をないがしろにできるはずがない。

一生をかけて償っていく

 謝罪といえば、李在明氏は25日の会見の前日、彼の甥によるデート暴力殺人事件の弁護を過去に引き受けたことについて、被害者遺族に対し「心からお詫び申し上げる」と謝罪し、土下座している。

 甥が起こしたデート暴力殺人事件とは、2006年に元交際相手の女性が住んでいた家を訪ねて凶器で女性を19回、彼女の母親を18回刺して殺害した事件のことだ。

 当時、この犯罪者の弁護を担当したのが、弁護士を引退し政治家となっていた李在明氏だった。彼は甥の1審および2審の裁判を担当し、この時、李在明氏は「衝動制御障害で心神耗弱状態にあった」と主張して甥の減刑を求めたとされている。

 李在明氏は大統領選挙を控えて、甥の犯罪が連日メディアで取り上げられ、その事件に自身も関わっていたことについて、「私のせいで苦しい過去の出来事をまた想起させたことに関してもお詫び申し上げる」「このような被害を再び起こさないために、一生をかけて償っていく気持ちで、与えられた役割に邁進していく」と謝罪し、カメラの前で土下座した。

 謝罪会見では、「一生をかけて」どのような償いをするのか明らかにされなかったが、この日の土下座だけでは終わらないようである。

弁護士を選任する余裕がなかった

 しかし、ここで疑問に思うのは「大統領としての資質を問うべく展開された報道がなければ、彼は遺族に謝罪しただろうか」という点だ。

 彼は甥の犯罪を“デート暴力重犯罪”と表現し、事件の内容については触れていない。韓国民の間でも、「そっとやり過ごすためにわざと軽い表現を使用したのではないか」と指摘されているほどだ。

 加えて彼は、自身が甥の弁護を担当することになった経緯を「甥の家族は弁護士を選任する余裕がなかったため、親族で唯一の弁護士である自分が弁論を引き受けるしかなかった」と述べた。が、弁護士費用を負担できない国民に対し無償で弁護士を斡旋する制度はもちろん存在する。今後の選挙戦では、この点も追及されることだろう。

 李在明氏は一時期、国民から絶大な人気を誇って支持率もダントツの1位を記録していたが、現在は尹錫悦氏に追い越されて大統領の座が遠のいている。韓国民は「土下座の次」について固唾を飲んで見守っている。

羽田真代(はだ・まよ)
同志社大学卒業後、日本企業にて4年間勤務。2014年に単身韓国・ソウルに渡り、日本と韓国の情勢について研究。韓国企業で勤務する傍ら、執筆活動を行っている。

デイリー新潮編集部