ウクライナ侵攻でロシア軍の苦戦が続いている。“軍事大国”だったはずのロシアは、なぜこれほどまでに弱体化したのか。専門家は「粗悪な装備品」を指摘し、その原因が「横領や横流しなど、ロシア軍内部の汚職」にあると指摘する。

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 さる軍事ジャーナリストは、「軍事力は経済力に比例します」と言う。

「善戦しているウクライナ軍は、高い士気を誇っています。だからといって、士気だけでは戦争に勝てません。最後に物を言うのは総合的な軍事力であり、これこそが戦争の勝敗を決めます」

 軍事力を増強するには予算が必要だ。要するに、金がないと戦争には勝てない。

 国際通貨基金(IMF)の調査によると、2021年、ロシアのGDPは1兆7755億ドルだった。

 朝日新聞GLOBE+は5月20日、「アフリカの半分、ロシア非難に加わらず どれだけ深い関係が?」という記事を配信した。立命館大学国際関係学部、白戸圭一教授の署名記事だ。この中にロシアのGDPはそれほど高くないという記述がある。引用させていただこう。

《(註:ロシアのGDPは)世界最大の米国の約13分の1、第2位の中国の約10分の1、第3位の日本の約3分の1の規模に過ぎず、韓国(1兆7985億ドル)よりも小さい》

無線機のトラブル

「ロシアは核武装こそ充実していますが、もはや“軍事大国”ではありません。他国からの侵略を防衛するならまだしも、他国に軍事侵攻できるほどの経済力は持っていないのです。ロシア軍にアメリカ軍の真似ができないことは、GDPの額が雄弁に物語ります」(同・軍事ジャーナリスト)

 2月24日、ウラジーミル・プーチン大統領(60)は国営テレビで緊急演説を行い、「ウクライナ東部で特殊作戦を開始する」と“宣言”。翌25日には、ロシア軍の地上部隊が首都キーウ(旧キエフ)に侵攻したと伝えられた。

 専門家でさえウクライナ軍の敗北を想像していたが、現実は正反対だった。

「緒戦からロシア軍は、粗悪な装備に悩まされました。後から分かったことですが、例えばロシア軍の無線機が使い物にならず、進軍に苦労していたのです。詳細は不明ですが、バッテリーに問題があった可能性が取り沙汰されています。いずれにせよ、指揮官が前方を進む部隊に命令しようとしても、それを伝える手段がない。最前線の混乱は想像に難くありません」(同・軍事ジャーナリスト)

スマホの罠

 ロシア軍はウクライナ国内で使用可能なSIMカードを入手し、自分たちのスマートフォンに差し込んだ。やっとのことで連絡を取り合うことが可能になったが、これに喜んだのがウクライナ軍だ。

「通話内容の盗聴まではできませんでしたが、ロシア軍の動きを丸裸にしてしまいました。電話会社の協力を得て、スマホから発信される電波の状況を解析。通話が集中している地点を割り出しました。これで進軍中の部隊や前線の司令部などの位置が、手に取るように分かったのです」(同・軍事ジャーナリスト)

 無線機が使えなくなったことで、ロシア軍の動きはウクライナ軍に筒抜けとなった。小規模の部隊が待ち伏せし、ドローンやミサイルで攻撃して多大な戦果を挙げた。

 ウクライナ侵攻では、ロシア軍の司令官が多数戦死している。理由として、狙撃兵の活躍が挙げられていた。

 ただ、そもそもの原因として、司令官がスマホで命令を下していたため、居場所を割り出されたことも大きかったという。

タイヤの問題

「考えてみると、ロシアには有名な携帯電話メーカーが存在しません。戦場で通信網の構築に失敗しても、不思議はないでしょう。北大西洋条約機構(NATO)への加盟を表明したフィンランドとスウェーデンは軍事強国としても知られていますが、さらに両国はノキアやエリクソンといった世界に名だたる携帯電話メーカーを擁している。それとは対照的です」(同・軍事ジャーナリスト)

 ロシア軍の“技術力不足”は深刻なようだ。無線の他にも、粗悪なタイヤが専門家の注目を集めた。

 ネットメディア「Merkmal(メルクマール)」は4月17日、「ウクライナ侵攻、ロシア軍の苦戦原因は『中国製の安いタイヤ』だった?」という記事を配信した。エネルギーコンサルタントの黒木昭弘氏の署名原稿だ。

《専門家は装備しているのが中国製の軍用タイヤ「Yellow Sea YS20 tires」(中国名:黄海 YS20)だと断定し、このタイヤが“戦場で極めて評判の悪いタイヤ”であると評している》

《このタイヤだが、実はフランスのミシュラン社の軍用タイヤ「Michelin XZL war tires」の劣化コピー版だとと(註:原文ママ)いう》

 その結果、《春を迎えて凍結土が溶け出して泥沼化したキーフ周辺の北部の道では、簡単に泥沼で沈下して動けなくなった》わけだ。

20年前の食料を補給

「軍事用タイヤの生産には、高い技術力が要求されます。ミシュランの独壇場と言ってよく、ブリヂストンですら数年前までは後塵を拝していたほどです。ロシアに至っては国産化できる技術力はなく、予算も乏しいため、中国製タイヤを使っているのでしょう。その結果、進軍に支障をきたし、大渋滞が起きた映像は世界中に配信されました」(同・軍事ジャーナリスト)

 ロシア軍は技術力が脆弱な上、内部では汚職が横行している。予算の横領や物品の横流しは、日常茶飯事だという。

 東洋経済ONLINEは3月12日、「ウクライナ侵攻で露呈『ロシア軍』驚くべき脆弱さ 携行するのは20年前に期限が切れた食品」との記事を配信した。ニューヨークタイムズの記事を翻訳したものだ。

《ロシア兵の士気は低く、燃料不足や食料不足にも悩まされている。アメリカをはじめとする西側の当局者によると、一部の部隊はウクライナ国境を越えるときに2002年に期限切れとなったMRE(携行食)をあてがわれていた》

 MREは米軍製の総称であり、一般的には戦闘糧食と呼ぶ。20年前に賞味期限が切れた戦闘糧食を渡されたというのは衝撃的だ。もちろんロシア軍の補給システムに問題があるのは明らかだが、根本的な要因として「横流し」の問題があるという。

私腹を肥やす関係者

「世界各国の軍隊は、戦闘糧食の賞味期限が近づくと放出するため、専門業者がインターネットなどで販売しています。ロシア軍の戦闘糧食も出品されており、食べたことのある軍事マニアはたくさんいます」(同・軍事ジャーナリスト)

 ネット通販では、今でもロシア軍の戦闘糧食は販売されている。一方で、最前線の兵士に手渡されたのは、2002年が賞味期限の戦闘糧食だった。この事実が意味するのは……。

「恐らく、賞味期限が近づいたものを放出しているだけでなく、本来は備蓄しておかなければならない戦闘糧食を横流ししていたのでしょう。ウクライナ侵攻が始まっても横流しが止まらないため、20年前の戦闘糧食を最前線に送らざるを得ない状況になっているのではないでしょうか」(同・軍事ジャーナリスト)

 デイリー新潮は4月9日、「ロシア軍の戦車は弱すぎで話にならない…なぜウクライナ軍のミサイルにやられまくったのか」という記事を配信。この中で、戦車を守る「爆発反応装甲」が全く役に立っていないことを指摘した。

中身はシート!?

「爆発反応装甲」とは、戦車の装甲にわざと爆薬を貼りつけ、ミサイルや砲弾が当たると装甲が爆発し、その威力でミサイルや砲弾の威力を減らすというものだ。

 ロシア軍自慢の装備だというが、ウクライナ軍に破壊された戦車は山のようにある。この理由について記事では、軍事ジャーナリストが次のように解説している。

《「フェイク動画かもしれませんが、爆発反応装甲の性能を疑ったのか、ウクライナ兵が中身を調べるという動画がネット上にアップされています。鹵獲(ろかく)したロシア製戦車に装着された爆発反応装甲をチェックすると、中身は爆薬ではなく、厚手のシートが畳んで詰め込まれていただけという結果でした」》

 真っ赤なニセモノが装着されていたというわけだが、これに「軍事予算のピンハネ、横領」が影響を与えている可能性があるという。

「爆発反応装甲を製造・装備するための予算を、軍の高官がちょろまかしてしまうわけです。そのため、爆薬ではなく厚手のシートを入れたニセモノを用意して、ごまかしているのではないでしょうか」(同・軍事ジャーナリスト)

モンキーモデル

 こんな悪質な手口がまかり通るのは、「輸出用の兵器は、自国用より意図的に性能を落としても構わない」という世界的な“慣例”を悪用しているからだという。

「輸出用に性能が劣った兵器は、英語で『モンキーモデル』と言います。自国用と同じ性能を持つ兵器を輸出してしまうと、もし輸出国と戦争が起きた場合、撃破できません。“安全保障上の理由”から、輸出する際は自国用よりスペックを落とすという“慣例”があるのです」(同・軍事ジャーナリスト)

 戦車の場合なら、装甲の耐久性を落としたり、鋼材の質を下げたりする。輸出用の兵器を買う国も「これはモンキーモデルの可能性がある」と分かった上で購入費を払うという。

「ロシア軍の内部で、軍事費をピンハネしたため、正規の爆発反応装甲が製造できなかったとします。その際、『これは輸出用で、モンキーモデルの爆発反応装甲だ』という“口実”で、『中は厚手のシートだけ』というニセモノを作ることもあるようです」(同・軍事ジャーナリスト)

薄給が根本原因

 とはいえ、所詮は小手先の小細工だ。痛いしっぺ返しを食らうこともあるという。

「横領をごまかすためのニセ“モンキーモデル”兵器が輸出されず、なぜかロシア軍に配備されているという情報があるのです。にわかには信じがたい話ですが、インチキの爆発反応装甲がウクライナに侵攻した戦車にも使われている動画を見ると、『あながちデタラメな推測ではなさそうだ』と判断せざるを得ません」(同・軍事ジャーナリスト)

 ロシア軍の部隊に届いた新しい戦車の中に入ってみたら、内部は空っぽだったという冗談のような話さえある。

「この話は『都市伝説に近い与太話かもしれないけれど……』という前置き付きで、ロシア軍の動向をウォッチしている関係者の間で飛び交っています。予算のピンハネが酷く、戦車の外側しか作れなかったというわけです。もし本当なら、動かすことも、砲弾を発射することもできません。外観だけは本物通りとはいえ、まさに張りぼての戦車です」(同・軍事ジャーナリスト)

 ロシア軍の内部がデタラメなのは、給与が低いことが最大の原因だという。

「上は将校から下は兵隊まで、横領や横流しにでも手を染めなければ生活できないのです。低い技術力に、軍律の乱れ。ウクライナにおけるロシア軍の苦戦は、今後も続くと思われます」(同・軍事ジャーナリスト)

デイリー新潮編集部