6月30日に閉幕したNATO(北大西洋条約機構)首脳会議では、ロシアを「最も重大で直接的な脅威」として、事実上の“敵国”と認定する新たな戦略概念が採択された。同時にスウェーデンとフィンランドの北欧2か国のNATO加盟に向けた手続きの開始も決定され、プーチン大統領を取り巻く包囲網は狭められつつあるように見える。さらにロシア国内でもプーチン大統領の足元を揺るがす不穏な動きが進行しているのだ。

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 NATO首脳会議の結果を受け、プーチン大統領は「我々への脅威と同様の脅威を作り出すことを理解すべきだ」と牽制し、「(必要とあれば)対抗措置を講じる」と警告した。

 その裏で28日に中央アジアのタジキスタンを訪れたプーチン大統領は翌日、トルクメニスタンを訪問。カザフスタンやアゼルバイジャンなどカスピ海沿岸5か国の首脳らと会議を開き、結束の維持を演出した。

 ロシア政治が専門の筑波大学名誉教授の中村逸郎氏によると、この動きはプーチン大統領の焦りの裏返しという。

「“ロシアの衛星国”と呼ばれる中央アジアのなかで、プーチン支持を明確に打ち出しているのはタジキスタンしかなく、他の4か国には“プーチン離れ”ともいえる動きが起きています。ウズベキスタン、カザフスタン、キルギス、トルクメニスタンはいずれも欧米との経済的結びつきが強く、プーチン支持を打ち出すことで経済制裁を課される事態を恐れているのです。そのため“暗殺”などのリスクもあるなか、このタイミングで侵攻後初となる外遊に臨まざるを得なかったのが真相です」

国家総動員法の一部改正

 中村氏によれば、実際、中央アジア4か国ではプーチン大統領からの国家勲章を辞退したり、国内でウクライナ侵攻のシンボルとなった“Z”マークのステッカーを車などに貼ると罰金刑に処すなどの動きが出始めているという。

 さらにロシア国内でも“異常事態”が起きているとか。

「ロシアでは9月に14地域で知事選挙が実施される予定で、すでに60人以上の候補者が名乗りを上げています。しかし候補者のなかでウクライナ侵攻について明確に賛成しているのは3人のみ。反対を表明している候補者が2名いて、他の多くは賛否を明らかにせず、沈黙を守っているのです」(中村氏)

 侵攻への賛否を明らかにしないと「反プーチン」の烙印を押される可能性もあるため、ロシアの政治家にとってはリスキーな行動となる。

 一方で、プーチン大統領もそんな“変化”を敏感に感じ取っているフシがあるという。

「いまロシア連邦議会では国家総動員法の一部を修正する動きが進んでいます。柱は2つで、ひとつは軍事施設の安全が脅かされた際は国民などを動員して防衛に当たらせることができるようにするもの。そして、もう一点が大統領の警護を強化する内容です。自身の政権基盤が盤石でないことをプーチン大統領も認識している証左と見られています」(中村氏)

難民という「人間兵器」

 実態は“内憂外患”に直面しているというプーチン大統領。ウクライナ侵攻の成否はみずからの権力と直結するため、その重要性は日を追うごとに増している。

「“核の脅し”などを使って、欧米の結束とウクライナへの武器供与に歯止めを掛けようとしてきたプーチン大統領にとって、侵攻から4カ月経った現在の状況は誤算の連続といえます。そんななか、プーチン大統領が早い段階からウクライナの孤立化を狙って画策してきたのが、意図した難民の大量発生です」(中村氏)

 現在、祖国を逃れたウクライナ難民の数は約750万人にのぼり、うち300万人以上が隣国・ポーランドに逃れているという。

「2011年の内戦勃発以降、大量発生したシリア難民は現在でも700万人近くが国外避難の身にありますが、当初は年間100万人前後で推移しました。この数字からも、ウクライナ難民の数がいかに異常かが分かると思います。ただでさえ、欧州各国はインフレなどで国民の不満が高まっており、そこに大量の難民が押し寄せることで支援の機運がしぼんだり、あるいは“反ウクライナ感情”醸成の素地ともなりかねない。それを見越した上で、プーチン大統領はウクライナで破壊の限りを尽くしているとの指摘がロシア国内で出始めている。つまりプーチン大統領がウクライナを焦土化させる勢いで攻撃の手を緩めないのは、難民という“人間兵器”を欧州各国に放つ意図だと考えられているのです」(中村氏)

“悪魔の計略”を前に日本や世界は何ができるか――。いま一度、考える必要がある。

デイリー新潮編集部