久々になつかしいリーダーの名前が登場した。今月3日、中国の江沢民・元国家主席の写真が中国のSNS上に出回ったのだ。

 この写真は江沢民96歳の誕生日である8月に撮られたものとされていて、籐製の椅子に座った江沢民と王冶坪夫妻の後ろには、中国共産党幹部が誕生祝いに贈った花が飾られている。もちろん筆頭は、現在の中国共産党トップ・習近平総書記から贈られたものだが、写真では「平」の字しか見えない。習夫人の彭麗媛と中共ナンバーツーである国務院総理(首相)・李克強夫妻の名前も見える。

 写真で見る限り江沢民の顔色は、年齢の割には悪くない。

 江沢民は、5年前の党大会では開会式には出席した。3年前の2019年10月1日、中国建国70年の式典では、天安門楼上にも姿を現したが、入退場には介助が必要で一人で歩行するのは困難なように見えた。一方、昨年7月1日に行われた中国共産党100周年の式典には姿を見せていない。彼が5年に一度の共産党大会が16日から開かれるのを前にたとえ写真であっても姿を現したことは中国語メディアで話題となっている。

 習近平一強下で弱ったとはいえ、江沢民派(≒上海閥)は今なお影響力を残している。江沢民は、89年6月の天安門事件直後に中共トップの総書記に大抜擢され、最初は弱小権力者だったが、なんだかんだと言っても2004年に党中央軍事委員会主席を退くまで実に15年間も中共トップの座を維持した。愛国主義教育と呼ばれる反日教育を進め、日本では評判が悪いかもしれないが、90年代が、「江沢民の中国」だったことは間違いない。当時の中国は経済力が弱かったこともあり、日本から北京を訪問する政財界要人にも頻繁に会っていたし、江沢民政権下の中国ではビジネスも取材も今よりははるかにやりやすかった。引退後も大きな影響力を残し、それはだんだん小さくなったとはいえ今も続いている。

メディア露出の意図は

 紀元前3世紀、秦の始皇帝が各地を巡遊し、自らの車列を見せることによって権力を誇示して以来、彼の国では、メディアに姿を見せることで自分の影響力を見せる手法が厳然として残っている。その一方で、新たな指導者が前の皇帝を否定することによって自らの権力基盤を固めるのも常套手段だ。江沢民は自らの功績が否定されないように、まだ元気だと知らしめたいのだろう。

 現在のチャイナセブン・中国共産党最高指導部である常務委員には、王滬寧(67)、韓正(68)という2人の上海閥がいる。今回の写真発表で江沢民がこの二人、もしくはどちらかの再任をアピールしていると見る向きもある。

 江沢民に関して言うと、2011年7月に産経新聞が彼の死去を報道し号外まで出したが、誤報と判明して謝罪・訂正に追い込まれた。それからすでに10年以上が経過している。

 中国の最高実力者と呼ばれた鄧小平が亡くなったのは、97年2月だが、その最後の写真は、94年10月の建国記念日にやはり椅子に座って、花火を見ている姿だった。このときも鄧小平が時の江沢民指導部を牽制しているという見方が専らだった。

 江沢民もそのひそみにならったのかもしれないが、いずれにしろ100歳を目前にしながらも政治的意図を発信していることは間違いない。げに恐ろしきは「死して後已む」彼の国の権力闘争である。

武田一顕(たけだ・かずあき)
元TBS北京特派員。元TBSラジオ政治記者。国内政治の分析に定評があるほか、フェニックステレビでは中国人識者と中国語で論戦。中国の動向にも詳しい。

デイリー新潮編集部