ウクライナ軍に本土を攻撃され、ロシア軍は真っ青──読売新聞オンラインは12月7日、「ウクライナ無人機攻撃で露本土被害、プーチン政権に衝撃…『防空網に不備』批判も」の記事を配信、YAHOO!ニュースのトピックスにも転載された。担当記者が言う。

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「ロシア国防省が5日、モスクワ南東のリャザン州にあるジャギレボ空軍基地と、南部サラトフ州のエンゲリス空軍基地が、ウクライナ軍のドローンによって攻撃を受けたと発表しました。さらに翌6日にはクルスク州の知事が、『州内にあるクルスク・ボストーチヌイ飛行場もドローンによって攻撃された』とSNSに投稿したのです」

 5日の発表で、ロシア国防省は以下のように説明した(註1)。

【1】ドローン2機を迎撃した
【2】迎撃の際に落下した破片で、航空機2機がわずかに損傷した
【3】ロシア軍の3人が死亡し、4人が負傷した

 ウクライナは公式なコメントを出していない。だが、ポドリャク大統領府長官顧問がTwitterに、「他国の空域に何かを発射したら、いずれ発射地点に正体不明の飛行物体が戻ってくるものだ」と意味深な投稿を行った(註2)。

 最近のロシア軍は、ウクライナのエネルギー網を狙ってミサイル攻撃を繰り返している。BBCの報道によると、《ウクライナで数百万人が電力や暖房を使用できない状況に陥っている》という(註3)。

 大統領府長官顧問のツイートは、ロシア軍のミサイル攻撃に対する“報復”をほのめかしたと受け止められているようだ。

モスクワの近くに攻撃

 アメリカのシンクタンク「戦争研究所」も5日の攻撃について、「ウクライナ軍による攻撃だった可能性が高い」との見方を示した。

「ロシアが真っ青になるのも当然でしょう。ここで問題となるのが“距離”です。重要な問題として、第1点はウクライナからかなり離れた基地が攻撃されたという事実です。何しろ2つの基地は、ウクライナ国境から600キロ以上も離れているのです」(同・記者)

 第2点は、モスクワとの距離だ。攻撃を受けたジャギレボ空軍基地は、モスクワからわずか約200キロしか離れていない。

「東京から200キロの自治体といえば、静岡県藤枝市や福島県矢吹町、新潟県湯沢町などになります。これらの自治体に北朝鮮から発射されたミサイルの破片が落下したら、日本人すべてがパニック状態に陥るでしょう。それ以上の衝撃をロシアは受けたと考えられます」(同・記者)

 ウクライナはロシアに「わが国から数百キロの距離なら、どこでも攻撃できるぞ」と威嚇したと言えるわけだ。

バイラクタルTB2

 ロシア・ウクライナ戦争では、緒戦からウクライナ軍がドローンを有効活用したことも注目を集めていた。軍事ジャーナリストが言う。

「特に話題になったのが、トルコ製の『バイラクタルTB2』です。ウクライナは2019年に12機を購入し、少なくとも20〜30機がこの戦争に投入されていると見られています。ロシア軍の戦車や装甲車などを攻撃し、ウクライナ側は数百両を破壊したと発表しました。この大戦果にウクライナ軍は『バイラクタル』という歌を作り、国民の多くが愛唱したのです」

 このバイラクタルTB2がロシアの飛行場を攻撃したのではないか、と分析する関係者もいたようだ。

 だが、バイラクタルTB2は27時間の連続飛行が可能ではあるが、基本的に今回のような自爆攻撃には使用しないという。

 時事通信は7日、「ソ連製ドローン転用か ウクライナ軍、ロシア防空網突破」の記事を配信。飛行場を攻撃したドローンは、ソ連時代に開発された無人偵察機「Tu-141」をウクライナが改造したものだというのだ。

Tu-141とは?

「Tu-141はソ連時代の1974年、初飛行に成功しました。はっきり言えば“骨董品”の兵器です。全長14メートルほどでセスナ機の全長より長く、航続距離は1000キロ。バイラクタルTB2の最高速度は時速220キロくらいですが、Tu-141は最高時速1100キロで飛びます。ちなみにマッハ1が時速1200キロですから、戦闘機並みのスピードで飛ぶわけです」(同・軍事ジャーナリスト)

 Tu-141は偵察用の無人機として開発された。ソ連時代はフィルムカメラや赤外線画像装置を機内に搭載。敵軍の奥、数百キロ先の状況を把握するのが主な任務だったようだ。

「ウクライナとTu-141は浅からぬ縁があります。そもそもソ連時代、Tu-141を製造していたのはウクライナ国内の軍事工場でした。そのため2014年からロシアとウクライナの間で始まったドンバス戦争でも、ウクライナ軍はTu-141を使ってロシア軍を偵察していました」(同・軍事ジャーナリスト)

 このTu-141をウクライナの国営軍事産業が、いわゆる“カミカゼドローン”に改造したと見られている。

「第二次世界大戦中、ドイツ軍はV1ミサイルを開発し、イギリスを攻撃しました。Tu-141も同じ発想で改造されたと見ていいでしょう。攻撃対象となった飛行場のうち少なくとも2箇所に、戦略爆撃機ツポレフ95が配備されています。巡航ミサイルを空中で発射し、ウクライナのエネルギー網を攻撃した爆撃機です。ウクライナの目的が報復だったことは、この点からも明らかです」(同・ジャーナリスト)

オンボロ“ゲパルト”の大活躍

 ロシア軍が発表した内容よりも、実際はもっと大きな被害が出た可能性もあるという。

「ロシア軍の報道官が『軽微な被害』と言っていましたが、いわゆる“大本営発表”の可能性があります。なぜなら、ツポレフ95は初飛行が1952年という古い機体です。そのため補修部品が枯渇しているかもしれません。ちょっと被弾しただけでも、簡単に修理できないのだとしたら、たちまち爆撃機の運用に支障を来すでしょう」(同・軍事ジャーナリスト)

 さらに深刻なのが、「ウクライナのドローンがロシアの領空を数百キロにわたって飛んだ」という事実だ。ロシア軍は真っ青になってもおかしくないという。

「ドイツはウクライナに『ゲパルト自走対空砲』を供与しています。西ドイツ時代の1973年に配備が開始されたという、まさに”老兵”といった兵器です。ところがこのゲパルトは、ロシアが放ったイラン製の自爆ドローンを次々に撃墜しているのです。ウクライナ政府が動画を公開しています」(同・軍事ジャーナリスト)

 ロシアの攻撃により、ウクライナの国土と国民は甚大な被害を受けている。それでもウクライナ軍は、ロシア軍の自爆ドローンを迎撃している。

軍律の崩壊

 ところがロシア軍は、少なくとも国内では被害が出ていないにもかかわらず、ウクライナ軍のドローンを迎撃することができなかった──。

「ロシア軍の面子は丸潰れです。何しろソ連時代から防空ミサイルシステムの整備に力を注いできたはずなのです。昔からソ連空軍ではアメリカ空軍に勝てないことは明らかでした。もし戦争になれば、NATO(北大西洋条約機構)軍に航空優勢を確保されないよう、ミサイルでアメリカ空軍機を撃墜するドクトリン(基本原則)だったのです。ところが今回、かなり大きなドローンが領空に侵入しても発見や迎撃ができず、あろうことか万全の防空体制を敷いているはずの航空基地への攻撃を許すという大失態を犯してしまいました」(同・軍事ジャーナリスト)

 ウクライナの最前線で、ロシア軍の軍律は崩壊しているとも言われている。だがひょっとすると、国内でも似た状況かもしれない。

「ロシア軍の厭戦気分が深刻なレベルに達しているのかもしれません。そう考えないと、説明がつかないほどの大失態なのです。いずれにしても、戦果を知ったウクライナ人は鼓舞されたでしょう。ゼレンスキー大統領は、国内に厭戦気分が蔓延することだけは絶対に避けたいはずです。その点だけでも、ドローンによる飛行場攻撃は意味があったと考えられます」(同・軍事ジャーナリスト)

“ドローン戦争”

 イギリス国防省は11月23日、「ロシアがウクライナ攻撃に使うイラン製のドローンをほぼ使い切ったとみられる」とする分析を発表した(註4)。

 ウクライナにとっては朗報だが、同国防省は《ロシアが追加供給を模索している》可能性も指摘している。

 いずれにしても、ウクライナとロシアによる“ドローン戦争”の趨勢を、世界中の軍事関係者が注視しているのは間違いない。

註1:ウクライナがロシア領内の空軍2基地にドローン攻撃か 3人死亡とロシア国防省(BBC NEWS JAPAN:12月6日)

註2:ウクライナ、ロシア爆撃機基地を攻撃か 越冬戦激化へ(日本経済新聞電子版:12月7日)

註3:ロシア軍がウクライナ全土にミサイル攻撃、8週間で8度目 60発を撃墜とウクライナ(BBC NEWS JAPAN:12月6日)

註4:ロシア、イラン製ドローンをほぼ使い切った可能性 英国防省が分析(朝日新聞デジタル:11月23日)

デイリー新潮編集部