卵不足は日本でも取り沙汰されているが、台湾はより深刻だ。「卵の乱(雞蛋之亂)」と呼ばれている。

 卵不足は2021年末からすでにはじまっており、この時にはいちど市場やスーパーから卵が一斉に消えた。その後、供給は安定するかに見えたが、今年の春節(1月22日)のあたりから、再び卵不足が問題化してきた。

 卵不足の要因は、日本同様、鳥インフルエンザの流行による鶏の殺処分だ。日本の農林水産省にあたる行政院農業委員会防檢局の発表によると、殺処分された鶏は、1〜3月ですでに55万羽を超える。そこに年老いて卵を産まなくなった鶏の引退が重なった。

 加えて、度重なる寒波と、昼夜の寒暖差が生産量の落ち込みに追い打ちをかけた。

 台北のスーパーでは卵が並ぶ棚は空っぽ。朝市にはカモの卵だろうか、青みがかった卵だけが並び、主婦らが品定めしている。卵の入荷情報を聞きつけると人々は行列を作るが、列の先には「おひとり様10個まで」の注意書きがある。運よく卵に出会えたならば、買わずにはいられない。生卵を食べる習慣がない台湾では、買ってから下処理をして保存しておく。賞味期限は長くておよそ1ヶ月。冷蔵庫に余っていても、ついつい買い溜めしてしまうようだ。

 ネットには、それを嘲笑うかのような「冷蔵庫にある卵は、普段20個。でも卵不足の今は100個」などという書き込みがある。「それだけ買い溜めするだけの卵はどこにあるのだ!」と憤る台北市民もいる。

卵泥棒も現れた

 こんな事件も起きた。地元メディアによると、新北市に住む葉さん(38)は、5軒はしごをした末にようやく卵2パックを手に入れた。店を出たところで買い忘れに気づき、自転車のカゴに卵を入れたまま再び店内へ。5分ほどして戻ってくると、卵だけがなくなっていた。その後の警察の捜査により犯人は捕まり、卵は無事戻ってきた。テレビのインタビューに答える彼女は、「人生で初めて警察の世話になり、初めてテレビに出たわ」と上機嫌だったが。

 店舗やレストランの経営者も苦しい。卵が手に入らないとあって、休業したり、営業時間を短縮したりする店も出てきている。

 台湾名物の茶葉蛋(茶葉で煮た卵)も危機に瀕している。スーパー「美廉社」ではすでに販売を停止し、セブンイレブンほか大手コンビニエンスストアでは、販売停止の措置こそとられていないが、実際の販売状況は各店舗の入荷次第になっているようだ。

 やはり台湾名物のカキのオムレツ(蚵仔煎)も風前の灯火。台北・遼寧夜市の老舗店では、「卵なしのオムレツになるかも?」とフェイスブック上で告知し、話題を呼んだが、現在のところ休業日を増やし、なんとか“卵入り”を死守している。

「献血したら卵プレゼント」

 卵不足を利用する業者なども現れた。「献血したら卵プレゼント」なるキャンペーンをはじめる地域まである。台北にある茶葉店では、自家茶園で飼育している鶏の卵を、「茶葉100元分購入で1個プレゼント」とし、業績を5割もアップさせている。

 宜蘭の民宿では平日宿泊の特典として、自家製卵20個または「ランボルギーニ」といわれる真っ黒な希少種の鶏「アヤム・セマニ」の雛をプレゼントするとPR。問い合わせが殺到しているそうだ。長引く卵不足を見越して、鶏を飼育しようとしているのか。

 卵不足には行政も動いている。行政院農業委員会は卵の輸入計画を開始しており、4月からは状況は改善するのではないかといわれている。仕入先はオーストラリア・トルコ・日本など8カ国だが、それらの国でも卵不足。価格の高騰が気になるところだ。

 また行政院農業委員会は、恒久的な卵不足解消のために、昨年末に種鶏を6万羽輸入し、現在は週49万羽のペースで採卵鶏の雛を養鶏場に提供している。主流である開放鶏舎から、ウイルスや天候の影響を受けにくい無窓鶏舎へ転換するための補助なども推し進めているという。

林綾子(台湾在住ライター)

デイリー新潮編集部