私たちは“普通じゃない家族”の子だった――そんなキャッチコピーが強く印象に残る『なんで家族を続けるの?』(文藝春秋)。この「私たち」とは、中野信子さんと内田也哉子さんのこと。内田也哉子さんといえば内田裕也さんと樹木希林さんの一人娘であり、両親のエキセントリックな夫婦関係を思い起こせば、その娘である也哉子さんが「普通じゃない家族」というのはわかる気がする。対する脳科学者・中野さんの親はどうかといえば、信仰には熱心だが「なぜ結婚したのかと問いたくなるような、客観的に見て楽しい会話も互いに一緒にいるメリットもない、関係性の非常に悪い」両親で、高校時代には離婚してしまったという。

「うちの両親は結婚当初、連日ケンカで流血騒ぎになっていたそうで。私が生まれたときには既に別居していて、でも永遠に離婚しない。そんな両親の関係が嫌で嫌で、別れたほうがみんな平和になるのにと思ってた」(内田さん)

「父と母は仲が悪く、物心ついたときには家には会話がなかった。「おはよう」の挨拶もない。友だちの家に遊びにいくとご両親がしゃべっているのでびっくりして、これが普通なのかとショックだった」(中野さん)

 かなりタイプの違う親たちではあるが、どちらも今でいう「毒親」に当たるかもしれない。そんな親の影響もあって2人はそれぞれ幼い頃から所在なさや困難を抱え、「こんな家族でいいの?」と心の中で問い続けてきたという。そして今、自らも家族を持つひとりの大人として「家族」について語り合ったのが本書だ。

 冒頭、「脳科学的には家族における父親と母親の本来の役割はあるのか?」と問う内田さんに、中野さんは「ないでしょうね」とあっさり答える。たとえば生物界にはアホウドリのように3分の1はレズビアンで、子孫を残すためにオスと浮気し、子育てはメス同士でするという種がいるなど、決してオスとメスで役割が決まっているわけではない。社会通念に照らして「間違っているのでは?」と思ってしまうだけのことであって、どんな父母のあり方でも生物学的に誤りということはなく、つまり裕也さん&希林さん家族のカタチも「生物界からしたらまったくノーマル」だというのだ。

 このやりとりに「救われた」と内田さん。複雑な思いは簡単に消えないけれど、おそらく親を「そういうのもあり」とフラットに捉え直すことで、いい面も悪い面も自分の「これから」に活かすことだってできる。そのせいか2人の対話も次第に「過去」の親から離れ、「現在」の夫との関係(内田さんの夫は俳優の本木雅弘さん、中野さんの夫は芸術系の研究者である中野圭さん)、そして「これから」の家族観へと移っていく。話題も夫との価値観の違い(内田さんは結婚してまもなく価値観の違いから「別れて楽になろう」と考えていたという)、不倫について(相手の女性が面白い人だったら認めるかもしれないと中野さんはいう)、イエ制度について、生殖と子育ての未来についてなどさまざまに広がっていくのだ。

 実は全6回の対談のうち最初の1回以外は編集者も同席しない2人だけの対話であり、リラックスした雰囲気で、時々ドキリとするような「本音」も飛び出す。感受性豊かな内田さんとサイエンスな明晰さを持つ中野さんという個性の違いが視野を広げ、共に44歳という年齢だからこその俯瞰的目線にも共感するところ大。

 とにかく「私たちがスタンダードであると考えている家族の形は、所与のものというよりは、ここ百五十年くらいで一般化してきたあり方」(中野さん)であり、なにも「そうでないと不幸」というものではないのだ。だからこそ家族を考えることは「私はどう生きてきたか、どう生きていきたいかという『生き方』について考えること」(内田さん)でもある。家族はもっと「自由」であっていい…2人の対話にヒントをもらい、あなたも自分なりに「家族」を捉え直してみてはどうだろうか。

文=荒井理恵