その場所では、国中から集められた花が咲き乱れ、美しさを競っている――。

 本書『後宮の百花輪』(瀬那和章/双葉社)はそんな書き出しからはじまっている。その場所とは、ただ一人の男を巡って多くの女たちが競いあう園――後宮だ。

 主人公は、自らの過酷な運命を変えるために後宮入りを夢見る少女、明羽(めいう)。後宮入りといっても、明羽が目指すのは入内する妃の侍女として働くことだ。時の皇帝には世継ぎがなく、このたび新たに皇后を迎えることが決定される。4つの州、一つの皇領からそれぞれ貴妃が一人ずつ送り込まれ、5名のうち最も皇帝の寵愛を受けた妃が新皇后となる。これを「百花輪の儀」と呼ぶ。

 夢という呪縛からの解放を描いたアフター青春小説『わたしたち、何者にもなれなかった』(KADOKAWA)、動物の生態を通して恋愛を解明するラブコメディ『パンダより恋が苦手な私たち』(講談社)など、さまざまなジャンルの作品を放つ気鋭の作家・瀬那和章さん。このたび2ヶ月連続刊行となる新作『後宮の百花輪』では、初の“後宮もの”に挑戦している。

 お腹がふくれるくらいご飯が食べられて、暖かい布団で眠れて、偉そうな男がいない場所で働きたい。

 明羽の夢は、そんなささやかな、けれど切実なものだ。手で触れた道具の声を聞くことができる“声詠み”の力を持つ彼女は、何百年も世の中を見てきた翡翠の玉「白眉(はくび)」に助けられ、みごと侍女選抜の試験に合格。しかし自分が忠誠を尽くすことになる主人・來梨姫は、引きこもり気味で覇気のない、ハズレの皇妃だった。

 対してライバルとなる皇妃たちは、いずれもキャラの立った魅力的な美妃ぞろい。「百花輪の儀」がはじまる前からマウントをとりう。そんな中、親睦の宴の席で事件が起こる。妃のひとりの酒杯に細工が施され、ケガを負ってしまったのだ。來梨の腹心の侍女・慈宇に嫌疑がかけられ、明羽は真犯人を捜すべく奔走する……。

 ここから物語はミステリーの様相を呈してくる。

 一見優美な儀式であるかのような「百花輪の儀」に隠された、おぞましい真の意味。それに気づいた明羽は、後宮という場が持つ禍々しさに戦慄する。

 閉ざされた空間のなかで繰り広げられるパワーゲーム。これもまた後宮小説の醍醐味だ。

 捜査の過程で明羽は、宮城内の不正や犯罪を取り締まる役職の李鷗(りおう)と出会い、彼に協力するのと引き換えに來梨姫にとって有利となる情報を得る。

 男嫌いの明羽と、女嫌いの李鷗。対照的なようでいて、どこか似ている2人が無意識のうちに惹かれあっていく姿がなんとも微笑ましい。

 そうして、明羽の奮闘に触発され、來梨もまた少しずつ変わろうとする。他の貴妃たちのように、自らを送り出した州のためでも実家のためでもない、野心でも使命でもなく、ほんのささやかな願いのためだけに後宮入りを決意した來梨。最初は明羽も、來梨自身も新皇后の座は無理と、勝負をする前から諦めていた。

 しかし残酷な後宮で揉まれていくうちに、彼女たちは自分のなかに隠されていた強さに気づいていく。主従を超えて友情のような、共闘のような絆が生まれ、明羽と來梨は女性として、ひいては人間として成長する。

 豪華絢爛にしてすさまじい「百花輪の儀」は、まだはじまったばかり。どの妃が勝利し、どの妃が汚辱にまみれるのか。そして明羽の行く末は――来月の2巻の発売が待たれる。

文=皆川ちか