NHK大河ドラマ『青天を衝け』の主人公で「日本資本主義の父」と称される渋沢栄一。渋沢家五代目の渋沢健氏が衝撃を受けたご先祖様の言葉、代々伝わる家訓を綴ります。

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 今から15年ぐらい前に、渋沢栄一の講演集である書籍『論語と算盤』を一緒に勉強していたファンド・マネジャーの友人から指摘されました。

「栄一さんと同じようなことをしようとしているんだね」と。

 そんな身の程しらずなことをしている訳ではないと答えました。ただ、確かに栄一は「一滴一滴の滴が集まれば、大河になる」という表現を用いました。

 日本初の銀行である第一国立銀行(現みずほ銀行の前身)を明治6年(1873)に創立したときに、その「銀行」という当時ではスタートアップの存在意義を『第一国立銀行株主募集布告』で日本社会にこのように示しました。

「銀行は大きな河のようなものだ。銀行に集まってこない金は、溝に溜まっている水やポタポタ垂れている滴と変わりない。折角人を利し国を富ませる能力があっても、その効果はあらわれない。」

 「一滴一滴の滴」は微力です。一滴だけでは何もできません。しかし、それが寄り集まって大河になれる。そして、大河になれば原動力がある。まさに、渋沢栄一が描いた大河ドラマです。

 私は当時、仲間たちと一緒に長期投資の運用会社を立ち上げようとしていました。1万円、2万円、3万円など少額をじっくりと毎月、長期的に積み立てる投資を日本全国の世帯に広めたいという想いがありました。この「滴」が寄り集まれば、確かに私の友人が指摘してくれたように、長期投資の「大河」になるイメージと確かにシンクロしています。

 そして、自分が運用会社の設立へとつながった「滴」は、子供でした。
20年前は子供ができて家族が増え、私生活でもちょうど変化の時を迎えていました。当時、赤ん坊の長男を抱きながらふと思いました。「この子が成人になる頃、自分は還暦になっているんだ」と。40歳の自分は、自身の還暦の姿や生活を思い描けませんでした。

  しかし、子どもや自分が健康であればその日は必ず訪れる。自分はその日のために何も準備していないことを反省し、息子と自分の毎月の積み立て投資を始めました。 

その小さな一滴一滴の想いが、同じような志を持つ仲間たちと合流し、会社設立に至り、日本全国の長期投資の「お仲間」に恵まれ、現在のコモンズ投信があります。まだまだ「大河」になっていませんが、「世代を超える長期投資」に2009年1月から誠実にファンドを運用し、「今日よりも、よい明日」を共に目指しています。

 この「今日よりも、良い明日」を目指すことは利己的なMeだけではなく、利他的なWeも含むと思います。社会のウェルビーングがなければ、自分のウェルビーングもない。これは、コロナ禍で私たちは日々感じていることだと思います。

 そして、このWeという観点では「誰一人取り残さない」という概念もあります。

 これは、2015年9月に国連総会で満場一致で採択された人類共通の目標です。そう、SDGsです。「Sustainable Development Goals」の略で、日本語にすると、「持続可能な開発目標」になります。2030年まで達成すべく17のゴールと169のターゲット、232の指標が設けられました。

 SDGsの詳細については、朝日新聞社が設けているサイト『2030SDGsで変える』をご参照ください。https://miraimedia.asahi.com/

 実は、SDGsは、渋沢栄一の『論語と算盤』と通じるものがあります。

「仮に一個人のみ大富豪になっても、社会の多数がために貧困に陥るような事業であったならばどんなものであろうか、いかにその人が富を積んでも、その幸福は継続されないではないか。故に国家多数の富を致す方法でなければいかぬというのである」

 これは、まさにSDGsが唱える「誰一人取り残さない」です。SDGsが採択される100年以上の前から渋沢栄一は同じような考えを唱えていたのです。

 栄一は決してお金儲けを否定していませんでした。むしろ、その意欲を持つことは重要だと考えた。ただ、稼ぎの手段を選ばず、儲けを独り占めしてしまい、大多数の人々を不幸に陥れてしまっては、結果的に自分自身のウェルビーングにもつながらないということを唱えていたのです。

 そのウェルビーングが「継続」することが大事。つまり、栄一が「論語と算盤」のなかで最も言いたかったことを今の時代の文脈で表現すれば、それは「持続可能性=サスティナビリティ」です。

 まさに、SDGsの最初の「S」の部分です。そして渋沢栄一のライフワークとは、よりよい社会を築くこと、「D」(開発)であり、それがG(目標)だったのです。(渋沢 健)


◆しぶさわ・けん シブサワ・アンド・カンパニー株式会社代表取締役、コモンズ投信株式会社取締役会長。経済同友会幹事、UNDP SDG Impact 企画運営委員会委員、東京大学総長室アドバイザー、成蹊大学客員教授、等。渋沢栄一の玄孫。幼少期から大学卒業まで米国育ち、40歳に独立したときに栄一の思想と出会う。