2024年から岸田文雄首相“肝煎り”の新しいNISAが始まる。非課税投資額のアップや非課保有期限の無期限などの大枠以外の細かい部分の誤解や不明点を「お上」に直接取材、正答を得たAERA2023年2月6日号の記事を紹介する。

※記事前編<<「岸田NISA」9つの疑問に金融庁・日本証券業協会・投資信託協会が回答>>から続く

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 令和5年度税制改正大綱で、NISA(少額投資非課税制度)の刷新。新しいNISAの細かい疑問や誤解について金融庁、日本証券業協会、投資信託協会などに取材し、正答を得た。「Q:質問、A:回答、■本誌の補足」の構成でまとめた。

Q:成長投資枠で買う株式投資信託やETFが新しいNISAの対象か、どこを見ればわかる?

A:「日本の投資信託に関しては成長投資枠の対象リスト作成を検討中。投資信託協会のウェブサイトに掲載するとともに、対象投資信託の目論見書などに業界共通のマークなどを付けることを検討中」(投資信託協会)

「東証上場ETFの成長投資枠対象銘柄は取引所のウェブサイトを通じた情報提供を検討中」(JPX=日本取引所グループ)

「取引画面で新しいNISAの対象商品をわかりやすく表示します」(SBI証券、楽天証券)

■海外ETFに関しては対象・非対象を誰がどう判別し、リスト化していくかの詳細が決まっていない。各社で取り扱うETFは異なり、今後の海外での新規上場ETFも把握する必要があるため、調整は難航しそうだ。取材時点では「土壇場で海外ETFが軒並み対象外になるのでは」という感触すらあった。

Q:新しいNISAで金融商品を売却すると“枠”が復活=枠の再利用が可能。どういう意味?

A:「売却すると『非課税保有限度額に空きができる』と考えてほしい。1800万円分、投資したらいったん新規投資はできなくなるが、一部を売却すると、売却した分だけ空きができる。空いた分、新たに買えるようになる。枠が復活するのは売却した年の『翌年』」(金融庁)

■ゆうちょ銀行でイメージするとわかりやすい。ゆうちょ銀行は通常貯金1300万円まで預けられるが、1300万円を預けていた人が100万円を引き出したとしよう。このとき1200万円を預けている状態だが、後日、お金ができたときに100万円を新たに(つまり上限の1300万円まで)預けられる。新しいNISAの“枠の復活”はこれに近い。売却した翌年に枠が空く仕組みは、過度な回転売買を防ぐ目的と見られる。

Q:新しいNISAで売却したとき復活する枠は、買ったときの金額? 売ったときの金額?

A:「買ったときの金額(簿価)で計算される。非課税保有限度額も簿価残高方式で管理、つまり買ったときの金額を累計していく。よって、金融商品の購入後、値段が上げ下げすることによる非課税保有限度額の増減はない」(金融庁、日本証券業協会)

■同じ金融商品を何度も買っていたら、買った価格の“平均”で計算される。たとえばAという株を1年目に60万円で1株買った。2年目に80万円で1株買った。3年目に2株のうち1株を売った。この場合、復活する金額は70万円。何年にいくらで買ったという概念はなく、あくまで「取得単価70万円の株を2株持っている」と見なされる。

Q:一般NISAか、つみたてNISAをしている人はどうなる?

A:「一般NISA、つみたてNISAは新しいNISAの外枠で管理されるため、新しいNISAに影響はない」(金融庁)

■仮に23年につみたてNISAを始めて年40万円投資したら、新しいNISAとは別扱いで非課税期間は20年。40万円分の非課税枠がお得になるので、新しいNISAの開始を待たずにつみたてNISAから始めるのが吉。なお、一般NISAのロールオーバーは不可に。

Q:一般NISA、つみたてNISAをしている人も、新しいNISA口座の開設手続きが必要?

A:「今、○×証券でNISAをしている人が何も手続きしなければ、自動的に24年から新しいNISA口座が開かれるようにすることを検討中」(金融庁)

■新しいNISA口座が自動で開かれることは「検討中」であり正式決定ではない。なお、新しいNISAを今とは違う金融機関で始めることもできる。また、つみたて投資枠と成長投資枠は同一の金融機関で管理する。「つみたて投資枠はA証券、成長投資枠はB証券」はNG。新しいNISAを別の金融機関で始めたとしても、従来のNISAで買い付けた金融商品を売却せずに非課税のまま別の金融機関に移すことはできない。

◆今回の取材で改めて感じたのは「ネットには嘘が多い」ことだ。間違った内容を発信するインフルエンサーもいた。正式決定ではないことを決定済みのように表現するケースも散見された。「新聞は大丈夫」と思いがちだが、掲載後の制度・解釈の変更で古くなる場合は多々ある。

 こういった新制度が始まる前は情報が錯綜する。今後、新しいNISAに関する追加情報が出てくるだろうが、金融庁を始めとする一次情報を参考に。(経済ジャーナリスト・向井翔太/編集部・中島晶子)

※AERA 2023年2月6日号より抜粋