芸人で絵本作家の西野亮廣さん(40)が製作総指揮・原作・脚本を手掛ける映画「えんとつ町のプペル」が全国の劇場で公開中だ。同名の絵本は累計発行部数65万部の大ヒットを記録するが、「当初から映画化を見据えていた」という西野さん。「僕自身の物語」とも語る映画「えんとつ町のプペル」に込めた思いや製作の舞台裏について語ってもらった。
* * *
――映画「えんとつ町のプペル」が公開されました。手応えはいかがでしょうか。
手応えはあります。評価と数字と両方です。認知度の低い作品だったので、初週は一番大変だろうなと思ったんですけど、いいスタートがきれました。ここからですね、どう広がるかというところだと思います。
――原作と脚本に加え製作総指揮も担当されていますが、特にどんな点に力を入れて作品を作り上げられたのでしょうか。
STUDIO4℃(アニメーション制作会社)さん、とくに廣田裕介監督と田中栄子社長と3人で結構話し合ったんですけど、まず決めたのは変化球を投げないということ。とにかくド直球の王道ストーリー。よくクリエイターさんが「新しいことに挑戦しました」みたいなことを言うんですけど、でもそれって結局ハズした時にいかようにでも言い訳できちゃうと思うんです。「お客さんが理解できませんでした」と言えてしまう。なので、「今からストレート投げます」と言った上で打ち取るような勝負をしましょうっていうのは決めました。
――キャスティングにもこだわりがあったと聞きました。
今年は、すべての判断において「コロナ禍での公開」っていうのは無視できません。映画を見に来られた方は、コロナ禍の中での自分の苦労を照らし合わせながら見ます。主人公たちの言葉に嘘があると一気にしらけちゃうなと思ったんです。変な話ですが、演技臭さみたいなものが感じられてしまうと急にしらけちゃうなと。そう考えて素の状態で主人公のプぺルとルビッチに近い人にお願いしました。ルビッチって見た目はかわいらしいんですけど、結構芯があって、そうなると芦田愛菜さん以外考えられなくて。最後叫ぶシーンがあるんですけど、芦田さんがむっちゃくちゃキレたら言いそうだなと(笑)。プペルはゴミ人間で、非常にピュアなんですけれど、もう窪田正孝さんしかありえなかったです。演技されている時以外の立ち振る舞いが真っ白な方で、やっぱ窪田さんだなってなりましたね。
――コロナ禍で外出自粛になったり、映画のプロモーションも当初の予定通りにはできなかったり、計画を変更した部分も多かったとうかがいました。公開日を変えることは考えましたか?
去年の4月くらいの段階でそういう会議はあったんですが、えんとつ町っていう黒い煙で覆われて、夢や希望を持てない世界の中で主人公たちがそれでも頑張ろうっていうこの物語は、まさにコロナ禍における今の世界の形とリンクしてると思ったんですよ。大変なのは百も承知で、これは今年、コロナ禍のさなかで届けるべき作品だと思いました。
――「えんとつ町のプペル」を「僕自身の物語」とも語られていますが、どのような思いをこの作品に込められたのでしょうか。
テレビの世界に入ったのが19歳で、20歳の時に「はねるのトびら」っていう番組がスタートして、25歳の時にその番組がゴールデンタイムに上がって視聴率一番取ったんですよ。願ったりかなったりの状況になって生活も良くなったし、チヤホヤされるようにもなったんですけど、でもスターにはなってなくて。その山を超えたら色んな景色が見えるのかなと思ったら、結局見えたのは大御所の先輩方の背中で。彼らのことを追い抜いてなかったし、追い抜く気配もなくて、何かやり方をミスったのかなって。その時に最初の絶望っていうか、リクエストに応え切ったのにこれはなんだっていうのがあって。「やり方変えなきゃいけないな」と思って、そこでテレビの世界から軸足を抜いたんですよ。次に何しようかなと思った時に、やるからにはちゃんと世界にリーチできるようなエンターテイメントをやりたいなと思って、非言語か翻訳のハードルが極めて低いものがいいだろうなって考えていたんです。そんな時にタモリさんに飲みに連れて行っていただいて、「お前絵描け」って言われたんで、「やります」っていう。自分がやろうとしてたものと重なったので、絵だなと思って、そこから絵本作家になりました。
――予想だにしない「転身」に世論の風当たりは強かったですね。
そうですね。今みたいに「複業」に対する理解もなかったので、世間の総意は「なんで芸人のくせに絵本描いとんねん」とかばっかりでした。「芸人だったらひな壇でろよ」とか「大喜利やれよ」とか。「お前何屋さんなの」みたいな、1人につき肩書は 1 個っていう肩書き至上主義がすごく強くて。僕の人生で僕の時間を使って挑戦しているわけで、絵本作家になろうが何をしようが僕の勝手じゃないですか。「なんで世の中の人はこんなに関与してくるんだろう」っていうのが不思議で仕方なくて、要するに僕にむちゃくちゃ時間使ってるわけじゃないですか。この「夢を語れば笑われて行動すれば叩かれる社会」ってなんだ、と思って。これは僕だけではなくて、挑戦している人は同じ目に遭ってるんだろうなと思ったんですね。だったら自分の物語を書けば、世間に刺さるかはわかりませんが、挑戦してる人には刺さるだろうなと思って。そんな方々に向けた手紙のような感じで「えんとつ町のプペル」を書こうと決めました。
一方で、もう一つの課題としては、なぜ「夢を見る人を攻撃する」というあまりにもコスパの悪いことを多くの人がやってしまうんだろうっていう、この謎を解きたかったんです。自分の人生を使って、他人の挑戦を潰すことに時間を使っちゃう人が、なんでこんなにも多いんだろう?って。ここを描かないと「えんとつ町のプペル」は完成しないだろうなって思いました。
――その謎の答えは見つかりましたか?
そうですね。基本的にみんな何かしら夢のようなものを持っていて、でも大人になる過程でそういったものに折り合いをつけていかなきゃいけないタイミングが来ますよね。例えば自分のこの身長だとモデルになれないなとか、この年齢からメジャーリーガーは難しいよね、とか。一方で、いい歳して夢をまだ捨ててない奴がいて、それを磨いて磨いて、今まさに輝かせようとしている夢追い人がいる。そんな「夢を捨てなくてよかった」っていうことを証明してしまうような夢追い人ってつまり、みんなが捨てたものでできているゴミ人間で、周りからすると脅威でしかない。つまり先に攻撃してるのは、実は夢追い人の方で、アンチ活動はその「反撃」なのだと理解しました。そう整理がついた時に、絵本ではここまで描けないので、アンチ側の正義も回収しようと思ってこの映画ができました。
――映画自体、非常にメッセージ性が強いですね。
やっぱり思うのは、日本人はずっと魔女狩りしてるじゃないですか。大人が時間とお金を使って魔女狩りして、ドリームキラーになって、挑戦する人を笑って攻撃して、失敗したら立ち上がれないぐらいまで叩きのめして。そうすると挑戦者が減っちゃうのは当然で。挑戦者が減っちゃうって、日本の損失でしかないですよね。舞台挨拶で言ったんですけど、とにかく挑戦する人が笑われる世界を終わらせるっていう、その思いは強くあります。
――過去には激しいバッシングを受けられることもありました。夢や目標を捨てなかったのはなぜでしょうか。
僕だけじゃなく友達やスタッフも応援してくださっていたファンの人たちも日本中から攻撃されていたんです。そういうのを間近で見ていて、このまま白旗をあげちゃうと彼らがやり切れないし、そもそも僕たちそんな間違ったことをやってないはずなので。例えば、2013年にすごく炎上したことがあったんですけど、なぜかというとクラウドファンディング(クラファン)をやったから。日本人がクラファンという選択肢を知らないというだけで、「あれはいかがわしい何かしら詐欺的なもの、宗教的な何かに違いない」って。「知らない」っていうことと「嫌い」っていう感情は近いんでしょうね。それで、コロナ禍でお金が回らなくなってから、みんなクラファンを立ち上げ始めたじゃないですか。でもクラファンを否定してた人の周りには、クラファンにログインする人が少ないので、支援が集まりづらい。批判すること自体は別に僕はいいと思っているんですが、知らないものを批判するってあまりにも危険すぎるんです。
――コロナ禍で不安や困難を抱える人が増えるなか、読者の方々にメッセージをお願いできますでしょうか。
知らないものを否定しないということですね。ピンチになればなるほど、知識がものをいうので。まずはどういう生き残り方の選択肢があるのか知らないといけない。一つ確かなことは、未来は必ず“いかがわしい”ところから来るんです。インターネットだって、1999〜2000年辺りとかって IT会社はそもそも不動産とか契約できなかったんですよ。「怪しいことしようとしてんだろう」って思われちゃって。とにかく未来は、新しい選択肢は、いつだっていかがわしいところから来るから、そこに蓋をしてしまうと確実に首が締まって、しんどくなるのは自分なので。否定するのは構わないですけど、ちゃんと咀嚼してから否定するっていう、そこは徹底しないと駄目だと思うんです。映画の中でルビッチっていう少年がただ否定する人に対して、「誰か見たのかよ、誰も見てないだろ。だったらまだ分かんないじゃないか」って叫ぶんですが、あれが全てだと思ってます。まだ分かんないんだから 1 回見ようよ、ちゃんと耳を傾けようよっていうことですね。
(聞き手/藤岡敦子)
◆プロフィール
にしの・あきひろ/1980年兵庫県出身。芸人、絵本作家。「Dr.インクの星空キネマ」「えんとつ町のプペル」等の絵本のほか、ビジネス書「魔法のコンパス」「革命のファンファーレ」、エッセー「ゴミ人間」等著書多数。オンラインサロン「西野亮廣エンタメ研究所」の会員数は7万4000人と国内最大。
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