ドラァグクイーンとしてデビューし、テレビなどで活躍中のミッツ・マングローブさんの本誌連載「アイドルを性(さが)せ」。今回は、「新しいエッセンス」を教示してくれる人たちについて。

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 年齢を重ねると「新しい要素」を取り入れるキャパがなくなってくるものです。私もあらゆる面で情報処理能力が低下しているのを日々痛感します。若い頃のように「何にでも飛びついてみる精神」では身体が保(も)ちません。友人も食べ物も語学も音楽もファッションも、よほどのきっかけがない限り、これ以上新しいエッセンスは「要らない」というスタンスです。

 幸運にも、私は子供の頃から実に様々な経験をさせてもらってきました。好奇心もそれなりに旺盛でしたし、好きなものへの執着も人一倍強かったと思います。結果、私のメモリーキャパ(俗に言う引き出し)は30歳になる頃には満杯になっていました。そもそも私の人生の目的は、主に「子供の頃の妄想を実現させる」「子供の頃に叶わなかった願望の仇を取る」のふたつであり、実際に私の仕事のほとんどは「妄想と願望と趣味」を形にしたものです。これも非常にラッキーなことだと感謝する一方で、それらを生業にしてしまった自分にも感心します。

 こんなことを言うと、「じゃあ、最近のアイドルには興味ないんですか?」などと頭の悪い質問をしてくる人がいますが、子供時代にアイドル好きの人格が形成されていた以上、最近のアイドルは「新しい要素」ではないのです。例えば、少年隊やKing&Princeは「ジャニーズ」というフォルダ(引き出し)に、伊藤みどりや羽生結弦は「フィギュアスケート」のフォルダに分類されているように。しかし、「ジビエ料理」「人狼ゲーム」「藤井風」といったまったくの未体験要素を、今から能動的に取り入れ学習するキャパは残っていません。

 そんな私にとって、若い世代の友人たちというのは、LINEや配信サービスの使い方から、King Gnuやチーズタッカルビの魅力まで、何でも根気良く教示してくれる貴重な存在です。彼らが「ミッツさん、頑張ってメモリーの容量を少しだけ空けて!」と言ってくれるお陰で、どうにか最新のトレンドにも知ったかぶりができ、この歳になっても新しい気付きに出逢えているわけです。

 そしてもうひとり私の近くには、年甲斐もなく若いアンテナを持った人がいます。マツコ・デラックスさんです。彼も私と同様「人生に新しい要素はもう要らない」というタイプなのですが、こと音楽に関しては笑ってしまうほどの探究心と積極性に満ち溢れており、先日も電話越しに「昨今のK−POP事情」を、6時間半もかけて徹底的に教えてもらいました。せいぜいBTSぐらいしか知らなかった私に、TWICE、IZ*ONE、BLACKPINK、ITZY、Stray Kids、MAMAMOOといった、耳にしたこともないような名前を連呼され、お互いにYouTubeを観ながら「顔が良いのはこれ」「ダンスが上手なのはこれ」「金がかかっているのはこれ」といった風に。さらには「スンミン」だの「ファサ」だの「チェリョン」だのメンバー各自の名前もすらすらと出てくる様に「K−POP凄い!」よりも「マツコ不気味!」の方が勝りましたが、言うのも申し訳ないので黙って聞いていたら朝になっていました。

ミッツ・マングローブ/1975年、横浜市生まれ。慶應義塾大学卒業後、英国留学を経て2000年にドラァグクイーンとしてデビュー。現在「スポーツ酒場〜語り亭〜」「5時に夢中!」などのテレビ番組に出演中。音楽ユニット「星屑スキャット」としても活動する

※週刊朝日  2021年5月7−14日合併号