長い人生、自分らしく生きるために、50歳から新たな戦略が必要になる。とはいえ、多くの人は、思い切った行動を取るのは難しいはずだが、中には長年の夢をかなえた人もいる。50歳でミュージカルの舞台に立った映画コメンテーターのLiLiCoさんだ。そのポジティブな姿勢を参考にしたい。AERA 2021年8月2日号は、50歳の初挑戦に迫った。



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「ミュージカルは10歳の頃からの夢。50歳で実現したいとずっと思っていました」

 22歳で歌手としてデビュー、現在は映画コメンテーターとしても活躍するLiLiCo(50)。今年3月から上演された「ウェイトレス」で、初のミュージカルに挑戦した。なぜ、「50歳」だったのか。

「若い頃から、顔かたちも身体も『ミュージカルに向いてる』と言われ続け、自分でもそう思ってました。ただ30歳から始めても、その世代に合う役柄はきれいで歌のうまいライバルがたくさんいる(笑)。でも前田美波里さんや中尾ミエさんや森公美子さんのように、50歳くらいに合った『強烈なキャラクター』を演じられる人って、日本ではそれほど多くない。そんな戦略的な考えもありました」

 一方で、すでに40歳頃から「50歳でミュージカルやりたい」をできるだけ、「口に出す」ようにしてきたという。

「夢って、自分の心にしまっておいてもかなわない。今回も『50歳でミュージカルを』と話す私の記事を読んだ『ウェイトレス』のプロデューサーが声をかけてくれた。夢は口に出す。これ大切です」

■これまでの50年は貯金

 50歳の初挑戦。しかし、事は簡単に進まない。オーディションの際、「このままでは長丁場のミュージカルに適応できないかも」と、声帯をいちど診てもらうよう勧められたという。

「診てもらったらボロボロで。『ウェイトレス』がなかったら私、手術はしなかった。歌手LiLiCoは酒焼けのハスキーボイスでOKでしょ、と。でも、それまで何でも自分で決めて乗り越えてきたけど、このときはふと、『たまには人の言うことを聞こう』と思ったんです」

 昨年8月、人生初である声帯の手術を何とか乗り切ったLiLiCoだったが、その2日後、今度は転倒し、膝を骨折する大けが。また手術となった。

「ああ、ミュージカルの話、飛んだなと天を仰ぎましたよ。でもその後、リハビリの先生が『50歳になって、転んで膝折ったのにミュージカルやったら、超かっこよくない?』と(笑)。夢って、目標ですよね。絶対にあの舞台に立ちたい。その思いが原動力になって、痛くてつらいリハビリも乗り切りました」

 稽古期間中の約2カ月はお酒もやめた。「あのとき舞台でうまくいかなかったのは前日に飲んだからだ」とは絶対に思いたくなかったからだと言う。

「週8で飲んだくれていた人間ですよ。やめたのは自分でも信じられないけど、お酒で失敗するようでは舞台に失礼だなと」

 ただ、その稽古は「本当につらかった」と言う。キャストの中でミュージカル経験がないのは自分だけ。バラエティー番組では、リハーサルでは流れの確認だけで「本番でやります」が口癖だが、ミュージカルでは稽古場から全力。その違いからして戸惑った。稽古では演出家に「LiLiCoさん、日に日に身長が縮んでいくんですけど大丈夫ですか?」と心配されるほど、周囲に気を使った。

「そんなとき、ある舞台関係者が『舞台に上がったら(ビギナーも経験者も)みんな同じだよ』と。その言葉は大きかった。勇気をもらえました」

 公演は成功をおさめ、夢はかなった。今後もミュージカルには挑戦したいと考えている。

「何事も、20年がんばって初めて『がんばった』と言えると思う。今後もミュージカルを続けて、70歳でも役が来たときに初めて、『がんばった』と言っていいかなと思います」

 悩める50歳にエールを、最後にそうお願いすると「50でなぜ悩むの、まだ人生半分だよ!」と笑い、こう続けた。

「これまでの50年は貯金。その間にした失敗も含めて、それを生かしてやっと花を咲かせられる。そんな年齢だと思います。大切なのは、自分で考えて、『ちゃんと生きる』こと。そうすれば人生、素敵なことがたくさんある。これからですよ!」

(構成/編集部・小長光哲郎)

※AERA 2021年8月2日号