ワクチン接種で「入院リスクは40%減少」妊婦の重篤化を防ぐインフルエンザ対策

ワクチン接種で「入院リスクは40%減少」妊婦の重篤化を防ぐインフルエンザ対策

 日々の生活のなかでちょっと気になる出来事やニュースを、2人の女性医師が医療や健康の面から解説するコラム「ちょっとだけ医見手帖」。今回は「妊娠中のインフルエンザの予防接種」について、NPO法人医療ガバナンス研究所の内科医・山本佳奈医師が「医見」します。

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 例年よりも一足早く、流行が始まってしまったインフルエンザ。9月に入り、多くの都道府県でインフルエンザによる学級閉鎖・学年閉鎖が相次ぎました。「インフルエンザワクチンの予防接種を受ける前に、インフルエンザにかかってしまった……」という方もいらっしゃるのではないでしょうか。

 流行の目安となるのが、1.00を上回る定点報告数(全国約5,000の医療機関で1週間に受診した1医療機関当たりの患者数)です。厚生労働省の報告によると、10月28日から11月3日までの間に、なんと15の都道県で「流行」を迎えたとのこと。例年と比較すると、2カ月も早くインフルエンザの流行が始まっているのです。

 その要因のひとつとして考えられるのは、日本の気候の変化です。熱帯や亜熱帯では一年を通してインフルエンザが流行していますが、日本も冬だけでなく夏にもインフルエンザが流行するような気候に変化してきている可能性が指摘されています。グローバル化も要因の一つでしょう。例年4月から9月にかけてインフルエンザが流行している南半球や、年中流行している熱帯や亜熱帯と日本の人の往来は、来年のオリンピックを考慮するとますます盛んになると考えられます。

 アメリカ食品医薬品局(FDA)のゴットリーブ長官によると、「FDAが承認したインフルエンザを治療する抗インフルエンザ薬はいくつかあるが、インフルエンザの予防接種の代わりにあるものはない」といいます。

 実は、妊婦さんにとってもインフルエンザの予防接種は最善の予防法となります。今回は、妊娠中のインフルエンザの予防接種の重要性についてお話したいと思います。

 インフルエンザウイルスに感染して発症するインフルエンザ。咽頭の痛みや鼻汁、咳などの上気道の炎症による症状、38度以上の高熱や頭痛、関節痛や筋肉痛、倦怠(けんたい)感などの全身の症状が特徴です。高齢者や免疫力の低下している人は肺炎を合併したり、小児では急性脳症を発症したりと、まれに重症化することがあり注意が必要です。

 産婦人科を研修中の時のことでした。12月中旬だったと思います。妊娠中期の妊婦さんが、40度の高熱と倦怠感を主訴に病院を受診されました。インフルエンザの流行期だったため、インフルエンザを疑い迅速検査を行ったところ、結果は「インフルエンザA型」。

 抗インフルエンザ薬を処方し、自宅安静していただくことになりましたが、「しんどくて辛いから、早くなんとかしてして!。」と、診察室のベッドの上でのたうちまわるように叫ばれているお姿は、私の脳裏に焼き付いています。

 このように、妊婦さんもインフルエンザに罹患(りかん)するのに加えて、妊娠中は、免疫系や心機能・呼吸機能の変化によって、インフルエンザに罹患すると症状の重症化や、重篤な合併症を引き起こす可能性が高くなることが分かっています。
 
 例えば、ニュージーランドの環境科学研究所のPrasad氏らは、妊婦娠中の女性は、インフルエンザに関連した入院の割合が、妊娠していない女性よりも3.4 倍高かったこと、期間別にみると、妊娠初期は2.5倍、 妊娠中期は3.9倍、妊娠後期は4.8 倍であったことを報告しています。

 こうしたインフルエンザによる重症化や合併症から守るためは、妊娠中のインフルエンザの予防接種が欠かせません。

 アメリカ疾病管理予防センター(CDC)のThompson氏らは、インフルエンザの予防接種を受けることで、妊婦がインフルエンザで入院するリスクが40%減少したことが分かったと2019年に報告しました。このように、ワクチン接種により入院リスクを下げる、つまり重篤化するのを防いでくれるという訳です。

 さらに、予防接種によってインフルエンザから赤ちゃんを守ることにもつながることが研究結果から分かってきています。デンマークのMølgaard−Nielsen氏らは、妊婦さんにおけるインフルエンザ感染に対する妊娠中の予防接種の有効性は63.9%であり、生後6カ月未満の乳児において確認されたインフルエンザ感染に対する妊娠中の母体のワクチン接種の有効性は56.8%であったことを2019年に報告しているのです。

 つまり、お母さんと赤ちゃんの両者をインフルエンザ感染から守ることができるのです。
 
 もちろん、インフルエンザの予防接種を受けることに加えて、手洗いうがいをこまめに行う、人の多いところを避けるなど、日頃の予防も大切になることは、老若男女や妊娠の有無を問わず大切です。

 もし、インフルエンザに感染してしまったとしても、抗ウイルス薬による早期治療は妊婦さんにとって重要です。CDCでは妊婦さんがインフルエンザ症状を認めた場合には、症状出現後48時間以内に抗インフルエンザウイルス薬による治療を勧めています。インフルエンザ症状が見られた場合には、早めの医療機関の受診をしてください。

 まだまだ、インフルエンザの流行は、まだまだこれからが本番です。予防接種がまだワクチン未接種の方は、ぜひ早めに医療機関を受診して、予防接種を済ませてくださいね。

◯山本佳奈(やまもと・かな)/1989年生まれ。滋賀県出身。医師。2015年滋賀医科大学医学部医学科卒業。ときわ会常磐病院(福島県いわき市)・ナビタスクリニック(立川・新宿)内科医、特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所研究員。


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