ライター・永江朗氏の「ベスト・レコメンド」。今回は、岸田奈美著『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』(小学館、1300円[税抜])を取り上げる。

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 3月21日の朝刊の全面広告。「人生は、少しずつ、少しずつ、大丈夫になってゆく。」というコピーと少年のスナップ写真。少し小さい字で「ダウン症の弟と、車いすユーザーの母と、急逝した父と、私。4人の物語が、1冊の本になりました。」と書いてある。どうやら写真の少年はその「弟」らしい。

 こりゃあ、読まねば。さっそく手に取ったのが岸田奈美『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』。

 書かれていることは広告のとおり。著者が中学2年生のとき、父は心筋梗塞で急死。高校1年生のときに母は倒れて緊急手術。命は助かったが下半身の感覚を失った。そして弟はダウン症で知的障害がある。

 どれも「大変」なことで、いわば「大変」の3乗なのだけど、この本は希望に満ちている。

 ぼくがいちばん感動したのは、弟の良太君のこと。良太君が中学生の時、万引き疑惑事件が起きる。お金を持っていないのに、コーラを持って帰ってきた。問い詰めるとポケットからレシート。裏には「お代は、今度来られるときで大丈夫です」。コンビニ店主の厚意で、コーラを“掛け”にしてくれたのだ。

 著者と母が慌てて詫びに行くと、喉が渇いて困った良太君がこの店を頼ってくれたことが嬉しい、と店主は笑顔。そこから良太君とコンビニ店主やスタッフの交流がはじまり、いつしかおつかいもできるようになる。

 同様に地域の人たちが良太君をフォローしてくれる。だが、それは一方的な親切ではない。地域の人びとも良太君を通じて、困っている人への接し方を学んでいるのである。

 3月21日は「世界ダウン症の日」だった。

※週刊朝日  2021年4月23日号