在宅勤務中には、ついついお菓子に手が伸びて……。薄着になる夏に向けてダイエットを始めたいあなた、無理せず働きながら続けられるファスティングにトライしてみませんか。特集では、高齢者や妊娠中の人、18歳以下の人には勧められないなどファスティングのデメリットも解説。押さえるべき注意点についても医師に取材し、併せて掲載しています。AERA 2021年4月26日号「ファスティング」特集から。



*  *  *
 関西を拠点にパーソナルトレーナー兼フィットネスインストラクターとして活動する吉岡詩織さん(27)は、お酒やスイーツが大好き。揚げ物も食べるし、ラーメンでシメることも。

「飲むときは飲む。食べるときは食べる。これを我慢するとストレスでかえって太ってしまう。とはいえ、仕事柄、また女性としても、理想のカラダを維持、進化させたいので……」

 飲んで食べた翌日に実践しているのが、“置き換えシェイプアップドリンク”だ。朝食をプロテインに置き換えるだけ。ただし、おいしくなければ継続できない。吉岡さんは元々プロテインを愛飲してはいなかったが、以前勤務していたスポーツジムで会員向けのプロテインがフワフワしてスムージーのようでおいしかったことから、自宅でも作るようになった。

■腹持ちよく仕事に集中

 ポイントは、氷を入れてミキサーにかけること。特にお勧めなのは、プロテイン1回分、低脂肪牛乳(または無調整豆乳か水)100ミリリットル、氷6個、バナナ1本、素焼きのナッツ適量、あればハチミツ小さじ1杯をミキサーで攪拌(かくはん)し、最後にオートミール10〜20グラムを上から振りかけて完成。

 プロテインだけだとほぼたんぱく質になるが、牛乳、バナナ、ナッツ、オートミールが入っているので、糖質、ビタミン、ミネラル、食物繊維など他の栄養素も取れる。食物繊維は水溶性、不溶性ともに豊富で、飲んで15分もするとトイレに行きたくなる。何より利点は、腹持ちがよいので仕事に「全集中」できること。朝に飲むことで、1日をスッキリ気持ちよく過ごせるのも気に入っている。

「食べ過ぎたからといって1食を完全に抜くと、次の食後、血糖値の急上昇を招き、脂肪を蓄えやすくなる上、血管にもダメージを与えます。だから、私は『置き換え』なんです」

 ただし、お勧めは1食だけ。以前は「2食プロテイン置き換え」を提案することもあったが、反動で翌日にドカ食いする人が結構いるので勧めなくなった。プロテインの摂取のしすぎは肝臓に負担をかけるとされるので1食がいい。継続できる方法が一番だと考えている。

■プロテイン市場が拡大

 リクルートライフスタイルの「ホットペッパービューティーアカデミー」が行った女性約3万人を対象にした「ジム・フィットネスに関する意識・実態調査」によると、「コロナ太りしたと思う」と答えた人が43.1%に上った。また、運動不足やコロナ太りを改善しようという人の需要もあってか、「プロテイン」市場も急速に拡大。2020年は販売金額が前年比140.8%と伸長。月別では、緊急事態宣言解除後の6月以降、9月を除き前年比140%超で、今年3月に至っては209.3%(「インテージ」調べ)だった。

 そんな中、関心が高まっているのが「働きながらできるファスティング(断食)」だ。本来、ファスティングとは一定期間すべての食物を断つことだが、現在、国内外で広く行われているのは、12〜24時間程度の空腹時間を一定の間隔で設けたり、プロテインやジュースなどを取り入れたりして1日の食事量を減らす方法だ。比較的トライしやすく、文字通り「働きながら」でもOKだ。先の吉岡さんの「置き換え」もファスティングの一種だ。

 津田塾大学教授の萱野稔人(かやのとしひと)さん(50)もファスティングを実践中。だが、羊羹(ようかん)を食べない日はない。自宅と研究室に大量に常備している。それでも体脂肪率は8%。腹筋は割れているらしい。この食生活を始めてから頭痛も減ったという。いったいどんな食生活なのか。

 萱野さんの1週間の食事と活動を見てみよう。例えば、4月1日はゆっくり起き、朝食は軽め。この日は原稿の締め切りで、一日中自宅で執筆。ランチは大好きな霜降り牛肉のステーキとじゃがバターで満腹に。糖質とカロリーがたっぷりだ。運動不足解消のために、立ってキーボードが打てる机を使用。立ちっぱなしで疲労がたまってきた午後4時半、おやつを食べ始めた。羊羹2切れと干し芋。おやつまでしっかり食べて心配になるが、この日の食事はここで打ち止め。夕食は食べない。

 萱野さんが行っているのは、「16時間ファスティング」。いたって簡単で、1日のうち16時間は何も食べず、食事は1日7、8時間の間に済ませる。空腹の間に体内では脂肪を燃やし、古くなった細胞が生まれ変わるという「オートファジー(自食作用)」効果を利用したものだ。

 萱野さんが断食を始めたのは糖質制限に限界を感じたから。元々10年ほど前から、糖質制限をしていたという。

「糖質制限はすぐに体の水分が抜けて体重が減る。効果が出るのが嬉しく、『糖質制限信者』にもなりましたが、エネルギー切れになるんです。頭痛がすることもありました。炭水化物を食べないから、結構食べても満腹にならない。肉好きなことも手伝って、脂肪分の多いステーキを1日1キロ食べることもありました。体脂肪率は10%の壁を切らず、切ってもすぐに戻っていました」

■目覚めがよくなった

 コロナ禍で昨春から大学の講義は全てオンラインになり、通っていたジムも休業に。

「家から出なくなって体重が増え、体脂肪率も数%増えました。これはどうにかしないと、と思いました」

 昨年9月にファスティングを始めたところ、3カ月ほどで、体脂肪率が11%から8%に。何より楽だったという。

「ほとんど我慢しなくてよく、食べる時間だけ気にすればいいのが、自分に向いていました。糖質を取って満足感があるので、食欲を抑えられるようになりました。糖質不足による頭痛もほとんどなくなった。気を付けているのは、カロリーの取りすぎ。毎日、基礎代謝の1800キロカロリーより収支がマイナスになるよう考えています」

 ファスティングを始めてから、割とぱっと目が覚めるようになった。内臓を休ませているからか、睡眠時間が多少短くなったという。自宅で仕事をした後、プロテインや焼き芋を食べて、ジムへ筋トレにも行く。

「食べる量が減って、ある時、ダンベルが上がらなくなったときがありました。筋肉、体力が落ちやすくなったと思います。軽い運動だけでもした方がいいです。私もジムに週2〜5回くらいは行くようにしています」

 夜に自宅でデスクワークをする日もある。もっとも空腹を感じるのは、この時間帯だという。

「たまに『ああ、おなかがすいた』と思うときはあります。お茶やゼロカロリーのコーラを飲むと収まるので、夜中に何か食べちゃうようなズルをしたことはありません」

「イシハラクリニック」院長の石原結實さん(72)は「空腹こそ究極の健康法。近年は『ネイチャー』や『サイエンス』など世界トップクラスの学術誌でも、空腹や断食の最新研究結果が掲載されています」と言う。

 石原さん自身、朝昼は生姜と黒砂糖入り紅茶やニンジンジュースで過ごし、夜だけ好きなものを食べる1日1食生活を35年以上続けている。

■ダイエット以外の効果

 ファスティングといえば、ダイエットが頭に浮かぶ。しかし、ファスティングの健康効果はそれだけにとどまらない。

「着目すべきは病気のリスクを下げ、寿命が延びる点。1999年に米マサチューセッツ工科大学のレオナルド・ガランテ博士らがサーチュイン遺伝子(長寿遺伝子)を発見し、00年に『空腹において長寿遺伝子が活性化する』と発表しています」

 米ジョンズ・ホプキンス大学のマーク・マトソン教授は、人間や動物を対象にした過去の研究結果を検証。毎日16〜18時間絶食する、あるいは1週間のうち2日は500キロカロリー程度の食事にする方法で、血圧低下や体重減少の健康効果がみられ、寿命が延びるという報告を米医学誌ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシンで発表している。

「空腹状態が続くと、細胞の中の不要なたんぱく質やウイルスなどを集めて分解、消化する『オートファジー』が働く。16年には、大隅良典先生がオートファジーのメカニズムを分子レベルで解明し、ノーベル賞を受賞。この研究が進めば、がんやアルツハイマー病などの病気予防に役立つのではないかと期待されています」(石原さん)

 食べ過ぎが続くと、内臓は消化のために休まず働くことになる。やがて内臓は疲弊し、本来の働きを十分に発揮できず、消化能力や老廃物の排出能力が低下。腸内環境が悪化して免疫力が下がり、不調を招く。

「活動量が減り、食事内容も豊かになった今、1日3食は食べ過ぎです。まずは朝食を生姜紅茶やニンジンジュースなどに変えてみてください。きっと体が気持ちいいと感じるはず。そうしたら1日2食や1日1食にトライするといい」(同)

(ライター・羽根田真智、井上有紀子)

※AERA 2021年4月26日号より抜粋