日本気象協会は4月、熱中症予防に有効な「暑熱順化」のやり方をまとめたマニュアルをウェブサイトで公開した。暑熱順化とは、簡単に言えば「暑さ慣れ」のことで、徐々に体を夏モードに変えていくことを指す。そのほか、熱中症対策として行いたいことは?

【前編/今から始めないと手遅れに? 「暑さ慣れ」で熱中症予防】より続く



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 暑熱順化とあわせて行いたい熱中症予防が、「夏バテ予防」だ。疲労を研究する東京疲労・睡眠クリニック院長の梶本修身さんがこう言う。

「熱中症は体温の上昇で生じる急性の病気、夏バテは、夏に持続的に生じる体調不良で、一見、別のものに思えますが、いずれも自律神経の機能低下が関わっている。つまり、夏バテを予防すれば自律神経を健康に保つことができ、熱中症の予防にもつながります」

 夏バテ予防といえば、やっぱり精のつくウナギや焼き肉だろう。しっかり食べて体力をつけたいところだが、梶本さんは「それは無意味」と一刀両断する。

「そもそも夏バテで体力が落ちるのは結果であり、根本にあるのは自律神経の疲弊です。ですから、精をつける食べものをいくら取っても、胃腸に負担がかかるだけで、根本的な夏バテ予防や解消にはつながりません」

 では、何がよいかというと、梶本さんのおすすめは鶏のむね肉だ。含まれるイミダペプチドという成分が、ダメージを受けた自律神経を補修することがわかっている。

「むね肉100グラムで約200ミリグラムのイミダペプチドが取れます。これくらいの量を毎日取れば、自律神経が疲弊しにくく、夏バテを起こしにくいと考えられます」(梶本さん)

 調理法は煮ても焼いてもOKだが、水溶性の成分なので、茹でたり蒸したりした際は、スープなどにして汁ごと取ったほうがいい。より効果を高めたいときは、ビタミンCやクエン酸が多いレモンや梅肉を追加する。鶏肉の梅肉あえや、チキンサラダのレモンドレッシングなどがいいだろう。

 また、イミダペプチドはカツオやマグロなどにも含まれている。飽きないように交互に食べるのも手かもしれない。

 もう一つ、梶本さんが夏バテ予防で助言するのが、睡眠。いびきと寝汗に注意が必要だという。

 いびきをかいているときは吸い込む空気の量が減っているので、血圧や心拍に負荷がかかる。寝汗は体温の上昇のサインで、体温調節が必要になる。いずれも自律神経を休ませることができないことから、疲れを促進させてしまい、夏バテの原因になりやすい。

「自律神経の機能は加齢とともに落ちるので、高齢になるほど夏バテをしやすいといえます。自律神経は筋肉と違って鍛えられないので、負荷をかけない生活を心がけることが大事です」(同)

 具体的には、いびきに対しては節酒を心がける。お酒を飲むといびきをかきやすいからだ。そのほか、横向きで寝るのも有効だという。寝汗対策はエアコンなどで寝室の温度を下げるとよい。

 5月ともなれば、気温が25度を超える夏日がちらほら出てくる。また梅雨になれば、それほど暑くなくても湿度が高いので汗が乾きにくく、熱が逃げにくい。いずれも、熱中症のリスクはゼロではない。

 特に高齢者や持病がある人は熱中症にかかりやすく、注意が必要だ。「熱中症ゼロへ2021」プロジェクトの監修を務める帝京大学医学部救急医学講座教授の三宅康史さんが言う。

「高齢者はよく“暑くない、大丈夫”と言いますが、それはある意味、正しい。なぜなら、高齢になると加齢で代謝が落ち、食事量も減るので、体内で熱を作りにくくなる。その結果、寒がりになり、暑いほうが心地よいと感じるようになるのです」

 だが、寒がりだからといって室温を30度以上にしてしまえば、熱中症のリスクが高まる。感覚と体が求めているものは違うのだ。

 従って、「暑い」「まだ平気」と過信せず室温を28度以下、湿度は70%以下に保っておくこと。その際、大事なのはエアコンの設定温度ではなく、温度計や湿度計で確認すること。いつでもチェックできるよう、テレビの横やテーブルの上に置いておきたい。

 ほかにも、こまめに水分補給をする、外に出るときは日傘などで日差しを遮る、暑い時間帯には外出を控えるといった対策も必要だ。

 そしてもう一つ、三宅さんが重視する対策が、日々の気象チェックだ。

「夏近くになると、テレビやウェブサイトの気象予報で、その日や翌日の暑さに関する情報が流れます。それをこまめにチェックして『今日は暑いから外出を控えよう』とか、『エアコンをしっかり入れよう』とか、その日の暑さに合わせた対策をとってほしい」

 熱中症で怖いのは意識を失うこと。軽症であれば体を冷やすといった対応などで回復できるが、進行したら意識がなくなるので、自分では手当てのしようがない。

「だからこそ、周囲の人のこまめな声掛けも大事です。コロナ禍でも電話はできます。独り暮らしの親がいたら頻繁に電話して『水分を取ったか』『エアコンを入れたか』『体調はどうか』といったことを確認してください」(三宅さん)

■鼻から吸う空気 脳を冷やす役割

 昨年に続いてコロナ禍で迎える夏。マスクと熱中症の関係も気になるところだが──。

「今のところ、マスクが明確な熱中症のリスクになることを示したエビデンス(根拠)は出ていません。ですが、やはり夏のマスクは暑いですし、坂や階段を上ったりするとキツイ。リスクにはなり得ると思います」と三宅さん。

 厚生労働省も熱中症予防行動のポイントとして「高温や多湿といった環境下でのマスク着用は、熱中症のリスクが高くなるおそれがあるので、屋外で人と十分な距離(少なくとも2メートル以上)が確保できる場合には、マスクをはずすように」と呼びかける。

 さらに、「マスク自体が熱中症のキケンを高める」と警鐘を鳴らすのは、前出の梶本さんだ。

「体温調整を行う視床下部は、脳の中心、鼻腔(びくう)の上あたりにあります。ですので、鼻から入る空気は視床下部の温度が上がらないよう、本来なら適度に冷えていなければなりません。ところが、マスクを使うと鼻から吸う空気がこもるので外気より1度ぐらい上がる。視床下部が冷やされにくいので、自律神経の機能が低下しやすいのです」

 鼻から入る空気の温度を考慮し、外出先でマスクを使っているときは、可能なら室温を少し低めに設定し、人がいないときはマスクをはずしたほうがいいと話す。

 気象庁の最新の長期予報では、今年の5〜7月の気温は平年並みか高いところが多い。

「夏も気温は高い見込みです。平年より太平洋高気圧の張り出しが強く、梅雨前線の北上が早いと予測されるので、梅雨明け以降は厳しい暑さとなりそうです」と同プロジェクトのリーダー、曽根美幸さん。

 無事に酷暑を乗り切るために、今から備えておきたい。(本誌・山内リカ)

※週刊朝日  2021年5月21日号