かつて会社勤めだった50代の専業主婦は、今年度の「ねんきん定期便」に注目したほうがいい。記載された年金額が昨年度より増えている人が数多くいるからだ。大きい会社に勤めていた人ほど、その可能性は高くなる。増額のカギは「厚生年金基金」への加入の“有無”である。



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「エッ、ウソ! 金額がこんなに増えている」

 東京都内に住む50代の主婦Aさんは4月中旬、自宅に届いた「ねんきん定期便」(以下、定期便)を見て驚いた。65歳からもらえる「老齢厚生年金」が、昨年は「6千円台」だったのに、「13万円台」になっていたからだ。

「昨年、夫が60歳定年を迎えたので、老後のこともあり、昨年届いた定期便はじっくり見ていました。それで数字を覚えていたんです。厚生年金の金額が『少ないなあ〜』と思ったのですが、そのままにしてしまっていました。でも、本当にビックリです」

 几帳面(きちょうめん)なAさんは、毎年来る定期便を大切に保管している。過去の定期便を並べると、さらに不思議なことに気づいた。

「40代の時の定期便には、ちゃんと13万円台の数字が出ているんです。それが50歳になった途端にガクンと下がっていました。もっとも、今までまったく気づきませんでしたが……」(Aさん)

 それが今年また、13万円台に“復活”したのだ。いったい何が起きているのか。

 定期便は、2009年から毎年、年金加入者らに誕生月に送られている。直近1年間の加入実績や保険料納付額、将来の年金額などを確認してもらい、年金制度への信頼を高めることを目的にしている。

 Aさんの加入記録を見ると、6年余の厚生年金と国民年金の第3号被保険者(専業主婦が多い)期間が20年以上ある。

「大学を出て銀行勤めをした後に結婚、“寿退社”で会社を辞めました。その後は2人の子を育てながら主婦をしていました。私たちの世代に多かったパターンです」(同)

 このキャリアだと、厚生年金に結び付くのは銀行勤務の期間だけだ。改めて50歳以降のAさんの定期便を眺めていると、今年度の定期便に、前年度までにはない新たな記述があることがわかった。「老齢年金の種類と見込額」の下にこうある。

「厚生年金期間の報酬比例部分には、厚生年金基金の代行部分を含んでいます」

 Aさんに聞くと、確かに勤め先の銀行に厚生年金基金があったという。

「私も入っていましたね。そういえば退職時に原資が基金の上部団体(厚生年金基金連合会、現在は企業年金連合会)に移るという説明を受け、その団体から引き継いだ旨の通知も受け取りました」

 厚生年金基金は、かつて企業年金の主役だった。国の厚生年金の一部を自ら運用して支給する「代行部分」が主眼で、運用しだいでそれに「プラスアルファ分」も上乗せできた。ただし、バブル経済崩壊後の低金利で運用が苦しくなり、代行部分を国に返上したり解散したりで、今ではほとんど残っていない。

 Aさんのような加入期間が短い「中途脱退者」の原資は現在、確かに企業年金連合会にあり、その中には「代行部分」も含まれている。とすると、それが加わったのか。

 日本年金機構広報室に問い合わせると、“ビンゴ!”だった。

「おっしゃるとおり、今年度から50歳以上の方の定期便の年金額に、厚生年金基金の代行部分を加えるようになりました。もともと50歳未満の方へは代行部分を加えてお出ししていて、50歳未満と50歳以上で取り扱いが異なっていました。お客さまからの照会もあって、連続性の観点から50歳以上の取り扱いを変更することにしました」

 なるほど、それでAさんの年金額は50歳を境に変わったのか。しかし、少し補足が必要だろう。

 定期便は「50歳未満」と「50歳以上」では扱う年金額の情報が異なる。50歳未満は「これまでの加入実績に応じた年金額」で、老後が近づいてくる50歳以上は「60歳まで今と同じ状況で加入し続けたと仮定した場合の見込額」だ。つまり、50歳以上のほうが実際にもらう年金額に近い。機構の説明では、前者は代行部分を含め、後者は含めていなかったというのだ。

 Aさんの年金は、会社勤務が短く専業主婦時代が長いので、大きい老齢基礎年金に小さな老齢厚生年金がのっかっている格好。基金に加入していると、網掛けした代行部分が老齢厚生年金の中にある。

 機構によると、同じく個人の年金情報をインターネットで知らせる「ねんきんネット」の年金額試算コーナーでは、11年のサービス開始当初から代行部分を含めた金額が出るようにつくられていたという。とすると、50歳以上の定期便だけが、代行部分を除き続けていたことになる。

 代行部分は国から支給されるものではない。一方、50歳以上の定期便は、前述したように実際の支給額を意識している。そうしたことが原因で、代行部分は除かれたのだろうか。

 それはともかく、今年度、増額された定期便を受け取る人は広範囲に及びそうだ。Aさんのようなキャリアの女性は50代に大勢いるからだ。何しろ基金は“平成ヒトケタ年代”の全盛期には1800を超え、名だたる大企業や業界団体が競うように運営していた。また、企業年金連合会の資料によると、中途脱退者は累計2900万件以上にのぼっている。

 増額幅は、基金加入期間と当時の収入で人それぞれだ。“得”したわけではなく、実際もらえる金額に直った格好だが、基金のプラスアルファ部分は「今回加わった代行部分には含まれていない」(機構広報室)というから、少額とはいえ、さらなる上乗せも期待できそうだ。

 もちろん50代主婦に限らず、基金があった企業に勤務経験がある中途脱退者の50代男性も、同じく増額となる。ただ、その後も厚生年金に加入し続けていれば、50代主婦ほど目立った増額にはならないとみられる。

 年金実務に詳しい社会保険労務士の三宅明彦氏によると、もう一つ、目に見えて増額となるケースがあるとのことだ。

「基金が続々解散していた時に、代行部分を含めて基金丸ごと企業年金連合会に移管した基金がありました。いくつか大企業も含まれていましたね」

 なるほど、それらの会社の50代社員なら原資が積み上がっていそうだ。

「定期便の年金額が50万〜60万円増額していても不思議ではありません」(三宅氏)

 何にせよ“増額”はうれしいものだ。Aさんは上機嫌でこう言った。

「増額の理由もわかり、勤めていたころの輝かしい青春時代を思い出すこともできました。コロナ禍の閉塞(へいそく)感の中、今年の定期便はいい誕生日プレゼントになりました」

 同様に心当たりのある方は、楽しみに定期便をお待ちあれ。(本誌・首藤由之)

※週刊朝日  2021年5月21日号