コロナ禍で残業代など給料が下がる家庭が増えている。と聞くと、孫を持つ祖父母が気になるのは、その孫にかかるお金のことだろう。「今や将来に役立つように援助したい」と思う祖父母が大勢いる。仮に今「100万円」あるとしたら、何ができるのか。かわいい孫への援助の仕方をあれこれ探る──。



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 孫に限らず、自分の財産を親族らに与える「贈与」への関心が高まっている。財務省の統計によると、贈与税の申告件数と課税価格は2008年に25万件台、約8200億円だったのが、18年には37万件台、1兆4800億円にまで増えている。課税価格はうなぎ登り、件数は12年に30万件を突破してから「高止まり」が続いている。

 相続専門の税理士、廿野(つづの)幸一氏が言う。

「相続で、それ以下なら相続税がかからない『基礎控除』という基準があるのですが、その金額が15年から大幅に引き下げられたことの影響だと思います。相続で税金をたくさん払うくらいなら、生前に贈与してしまおうと思う人が増えているのです」

 富裕層は以前から相続税節税のために贈与を使っていたというから、贈与のすそ野が広がっているということだろう。

 廿野氏が続ける。

「日々の相談を通じて感じるのは、ほぼ全員に共通する『非課税』への関心の高さです。相続だけでなく、贈与でもまったく同じですね。非課税だと申告する必要はありません。この統計の背後に、非課税の贈与が大量にあると見られています」

 相続税と同様に、贈与税にも「基礎控除」がある。「1人当たり暦年で110万円まで」がそれだ。孫1人に対して、この金額までなら贈与税はかからない。つまり、今回の「100万円」は無税で孫にあげられる。

 贈与で最も一般的なのが「現金贈与」だ。孫が大勢いた場合、全員に110万円ずつあげれば簡単に財産を減らせるため、富裕層が重宝している手法とされる。

 もちろん税務のことを考えると、現金で100万円を手渡しするのは得策ではなく、贈与の“証拠”を残すことが欠かせないという。

「贈与契約が成立するには、祖父母が無償で100万円を孫に与える意思を示し、孫がそれを受諾することが必要です。お互いの意思表示があれば問題ありませんが、税務当局が誤解しないように、契約書を作成したり、孫の口座に送金したりしておけば安心です」(廿野氏)

 気をつける必要があるのは、孫の口座は孫(小さい場合は親)が管理するものでなければならない点だ。通帳や印鑑を祖父母が持っていたりすると、「名義預金」と判断されて“アウト”になる場合がある。

 ちなみに今回の100万円では関係ないが、「100万円を10年間で合計1千万円贈与する」などとする契約は絶対に結んではいけない。

「『定期贈与』と言って、たとえ1年に100万円ずつでも1千万円贈与したことになってしまいます。孫が未成年だと、贈与税は231万円にもなります」(同)

 基本的に送金すれば終わる現金贈与はやりやすいが、“弱点”もある。お金をあげたあとは、もらった側がどう使おうが自由なのだ。ファイナンシャルプランナー(FP)の風呂内(ふろうち)亜矢さんが、孫側の事情を解説する。

「もらう側からすれば100万円は大きなお金です。親の立場に立つと現金が一番うれしいでしょうね。コロナ禍の収入減で、一つ習い事を増やしたりするのが難しくなっていますから。使い道は自分たちで決めたいと思うはずです」

 習い事だと孫のために使うからまだいいが、孫が小さかったりすると親が自分のために使ってしまうことも考えられる。

「孫のためだけに使ってほしい」という強い思いがあるのなら、使い道は教育資金に限定されるが「教育資金贈与信託」を使う手がある。

 直系尊属の父母・祖父母が子や孫に教育資金を一括で贈与する場合、1人につき1500万円までが非課税になる。13年の制度発足以来、人気があり、信託協会の資料によると、20年9月末の累計設定額は1兆7千億円に上っている。本来は20年度で終了予定だったが、2年間の延長中だ。

 信託銀行などに専用口座を開設し、お金を振り込む。学校の入学金や授業料、留学渡航費、塾や習い事の月謝など、教育資金の範囲は幅広く認められているが、実際に使ったことを示す領収証などを提出し、金融機関がチェックしたうえでないとお金を引き出せない。

 確かに、これなら孫の教育資金以外に使われることはなさそうだ。先の廿野氏によると、ある富裕層の祖母はこう言い放ったという。

「現金贈与だと、お嫁さんのダイヤモンドになってしまうかもしれないからね。だからこの制度で1500万円の満額を贈与するのよ」

 しかし今回の100万円では、この制度をすすめる声はなかった。廿野氏が、「手続きがいろいろ面倒であることを考えると、少額とはいいませんが100万円では費用対効果のつり合いが取れていません」と言えば、教育資金に詳しいFPの竹下さくらさんも、

「信託銀行は全国津々浦々に支店があるわけではありません。いちいち交通費がかかる点を考えてもすすめられません」

 教育資金贈与信託は、どちらかといえば富裕層向きの制度のようだ。ただし、2人に先の風呂内さんも加わって、声をそろえてこう言う。

「教育資金は、必要になったときにそのつど贈与すれば、もともと非課税なんです。それを使って、教育資金はこまめに贈与すればいい」

 そうなのだ。祖父母を含む扶養義務者から生活費や教育費が贈与された場合、通常必要と認められるものには贈与税はかからないのが法律の決まりなのだ。ただし、渡した生活費や教育費は使ってしまわないといけない。そのお金を預金したりすると贈与税の対象になってくるから注意が必要だ。

 なお、教育資金贈与信託と似た制度で、結婚や子育て資金に使い道を限定した「結婚・子育て支援信託」もある。大きくなった子供向けで、こちらは1人1千万円までが非課税。問題点もほぼ同じだが、「どうしても結婚・子育てに使ってほしい」という祖父母には選択肢になるだろう。

 ここまで現金贈与や教育資金贈与信託などについて見てきた。これらは「今あるお金を、孫のためにどう活用するか」で共通している。改めて現代の子育て事情に目をやると、孫1人を育てるのに莫大(ばくだい)なお金がかかることがわかる。

 例えば教育費。文部科学省の調査を見ると、幼稚園から高校までで全部公立に通うと約540万円ですむが、首都圏で多い中高一貫の私立に通わせると1千万円近くに膨らむ。大学4年間も、国立に通うと約250万円だが、私立文系だと400万円を超え、私立理系では約550万円もかかる。何と教育費だけで「約800万〜約1500万円」にもなるのだ。

 なんだか100万円が「小さく」見えてしまう。「もっと孫を援助したい」が祖父母の本音と考えると、100万円を元手に“殖やして孫に渡す”方法などはないものか。

「100万円」をキーワードにインターネットを眺めていると、今、60万部を超える大ベストセラーになっている『本当の自由を手に入れる お金の大学』の著者、両@リベ大学長がYouTubeで唱えている手法に行き着いた。

 孫ではないが、子供が「お金で苦労しない」ためにできる一番いいこととして、「世界株式を扱うインデックスファンドを100万円分渡して、65年間放置せよ」と主張しているのだ。そうすることで、お金そのものを残せるうえに、金融教育を通してお金を殖やす力を身につけさせることができるという。

 具体的にはこうだ。

 100万円は65年後にどうなるか。両学長によると、米投資銀行が出している世界株式の超長期リターン予測は「4.8%」。それで65年間運用すると「約2250万円」になるという。将来値上がりする保証はどこにもないが、過去200年の歴史を見ると、1802年に1ドルで購入した株式は現在2774万ドルにまで成長しているとする。まさに世界の成長を買う「長期投資」の王道だ。

 金融教育はファンドを眺めているだけで行える。全世界の主要企業に投資することになるので、「株主の一人」として世界経済に関心を持つように促せる。毎年、配当金が来るので、「再投資」に回すか「使う」かの判断で「ためる力」も養えるとする。

 少子高齢化・人口減少で、さらなる自助努力を求められる子供世代にとっては、「素敵なプレゼント」のように見える。しかも新たに金融商品を買って、それを殖やしていくという“新手法”が取られている。これなら孫にも応用できそうだ。では、実際にはどうすればよいのか。

 孫が投資信託を買うための証券会社の「未成年口座」は、基本的に親権者(親)しか作れない。子供が小さいと親が子供の代わりに投資することになるので、まずは子供夫婦を説得して巻き込むことが必要になる。

 先の廿野氏によると、税務上はやや複雑になる。

「贈与契約書を作って孫に贈与してしまうケースと、名義は孫だが祖父母が実質所有者である『名義財産』にする場合の2通りが考えられます。後者の場合は祖父母から孫へ直接渡すためには、遺言でそのファンドを孫に遺贈する旨を記述する必要が出てきます」

 ただし、相続税の支払いが必要になるような相続だと、遺贈の場合は孫にも相続税がかかってくる。しかも孫は法定相続人ではないので、相続税が2割増になる。仮にファンドが大きく値上がりしていれば、思わぬ税負担がかかる可能性があるので注意が必要だ。

 手続きを終えて孫名義で「世界株式ファンド」を買うことができれば、あとは「ほったらかし」でいいだろう。「65年」はともかく、孫が成人するまでは手をつけさせないなどと助言するのも「あり」と思われる。

 両学長の手法を参考にすると、孫への金融商品の贈与や遺贈は、いろいろなパターンが考えられそうだ。

 一つは、金融商品を変える方式。「世界株式」ではなく、祖父母が強力に薦める投資信託などを買うのだ。ただし、世界株式よりは値上がり期待は小さくなるとみられ、「こだわり」の理由を明確にする必要がありそうだ。

 毎月定額が引き落としされる仕組みさえ作ってしまえば、積み立て投資も可能になる。世界株式と同様のインデックスファンドに投資すれば、同様に世界の成長を買える。

 また運用系では、今ある制度として「ジュニアNISA」も考えられることを最後に付け加えておく。資産形成をめざした子供用の少額投資非課税制度だ。

「老後不安を抱える今の30歳代のカップルのなかには、『非課税投資枠』をめいっぱい使いたがる夫婦が増えていて、そんな夫婦が興味を示すと思うんです」(先の風呂内さん)

 大人の非課税制度にはNISAとつみたてNISAがあるが、一人で使えるのは一つだけ。例えば、夫がNISA、妻がつみたてNISAを使っていたとして、子供がジュニアNISAを使えれば家族全体の非課税投資枠が増える。

「祖父母からの100万円をジュニアNISAに充てるわけです。ただし非課税枠は年80万円までなので、2年に分けて孫の口座に入れていくことになります」

 以上が100万円でできる孫への援助法だ。高齢層が金融資産の多くを保有している現状を考えると、今後も贈与による資産移転は「高止まり」状態が続くとみられる。未来の日本のためにも、それを担う孫たちが強くなるような贈与を心がけたいものだ。(本誌・首藤由之)

※週刊朝日  2021年6月4日号